夏が終わったら逢いにきて 〜初めて恋した相手は幽霊でした〜

「沢渡先生ー! もうこのままここの先生になってー!」

「沢渡先生! またぜったい遊びに来てね!」

「沢渡センセー! 文化祭の雄姿忘れませんっ!!」

「さわたりせんせぇ! 個人的な連絡先教えてください!」

 きゃあきゃあと華やかな女子生徒の中心にいるのは、ひょこりと一人だけ背の高い沢渡先生だ。

 教育実習最終日。

 お別れの挨拶を終わりのホームルームでしていたところ、他のクラスからも人が集まってきて収集がつかなくなっていた。
 バサバサと沢渡先生の腕に積まれていく花束。
 それからプレゼント? なんか紙袋とか手紙も乗せられていく。

「……すごいねー」

 葛西君のドン引きしたような声が隣から聞こえてきて、僕は小さく同意を返すことしかできなかった。

「ほら! 全員散れっ! まだこのクラスのホームルームは終わってないんだよ! 解散解散っ!」

 保坂先生の一喝にそこかしこから不満げな声が上がるも、他クラスの生徒は渋々と出ていった。
 他クラスの生徒の押しに負けずと立ち上がってたウチのクラスの女子たちも席に戻り、教室はなんとなくの落ち着きを取り戻す。

「お前……高校生ん時よりすげぇな」

 呆れたような保坂先生の声に、沢渡先生が苦笑する。

「ほら、あれですよ。スーツ効果と若くてイケメン、でも先生より近い存在ってことで、持ち上げてるだけですよ」

「そらそうだが……。つか、自分でイケメンとか言うなよ」

 ベシンと沢渡先生の背中を叩く保坂先生。
 イテテ……と口にはしてるけど、音ほどは痛くなさそうだ。
 どこまでも嬉しそうな顔で笑ってる。
 そんな沢渡先生を見て、僕も自分のことのように嬉しい。

 あの第三音楽室で話し合って以降、僕と沢渡先生は普通の距離感を保ってきた。
 あくまで教育実習生とこの学校の生徒だっていう当たり前の距離感。
 そう。それが最早当たり前で……。むしろあの日の出来事が夢みたいで。

「つか、無事に教育実習が終わってよかったなぁ。ホント……」

 しみじみと呟いた保坂先生の目は僅かに潤んでいた。
 五月のはじめ、沢渡先生の事故の報を電話で受けていた保坂先生の姿を不意に思い出す。
 あの時は本当に焦っていて、顔色も悪くて……。
 そこまで心配した相手がこうして無事に教育実習を終えたのだ。
 その喜びは僕らには思い至らないほど大きいんだろう。

「あー、くそ! 湿っぽくていけないなっ! ほらみんな! 最後に礼をしろー」

「あ、先生待って待って。俺、お世話になったみんな一人一人に手紙を書いてきたんです。配ってもいいですか?」

「……お前、見た目チャラいのにマメな奴だよなぁ……」

 チャラいは余計ですってと言いながら、沢渡先生が机と机の間を抜け、一人一人に封筒を渡していく。

「はい。島原くん」
 
 僕の手にもシンプルな封筒が渡される。
 見覚えのある、少しクセのある力強い筆跡が僕の名前を綴っていた。
 なんとなしにその字をなぞりながら、教壇へと戻った沢渡先生に視線を向ける。

「というわけで、こんな中途半端な時期に、しかも受験とかで忙しい三年生の君たちのクラスで教育実習ができたこと、こうして無事終われたことを本当に嬉しく思います。一ヶ月お世話になりました」

 ぺこりと長躯を曲げて礼をする沢渡先生。
 また感情が高ぶったのか、小さく鼻をすすりながら拍手をする保坂先生。
 そんな保坂先生に釣られるようにして、僕たちも拍手をしながら、口々に沢渡先生へのお礼とお別れを告げたのだった。