夏が終わったら逢いにきて 〜初めて恋した相手は幽霊でした〜

「ねぇ、ほくちゃん……。俺……君のことがす……むぐっ?!」

 皆まで言わせるものか、と沢渡先生の口を手で塞ぐ。
 顔半分を僕の手に覆われた沢渡先生は、どこか不満げに目を眇めていた。

 だけど、ダメなものはダメだ。
 なんか僕に都合のいい展開が待ってそうだけど、今はダメだ。

「むー……。ぷはっ?! もー、なんで止めるのさ」

 僕の手を振りほどいた沢渡先生は相変わらず不満げだ。
 だけどしょうがないだろう?
 
「沢渡先(・)生(・)。なんか僕に都合の良い言葉を聞かせようとしてるみたいですが、今はダメです」

「……なんでよ」

 ぷすりと片頬を膨らませて、遺憾の意を表明する沢渡先生。
 二十歳を越えてる大人のくせにあざと可愛いく見えるのはなんでだ?!

「それは……沢渡先生が今、沢渡先(・)生(・)だからです」

 真剣な表情で告げれば、僕の真意は伝わったらしい。
 だいたい彼は教師になりたいがために死の淵から生還したんだ。
 ついでに未練は『教師になりたいって夢を綴った手紙を探したい』だったくらい筋金入りだ。

 そんな教師になるために頑張ってた人の障害に、僕がなるわけにはいかないんだから。
 何せ僕は……彼が教師を目指す背中を二度ほど押してるんだから。

 きょとんと僕を見返す沢渡先生。
 じっと見つめ返す僕。

 廊下を走っていく誰かの足音が聞こえて、そして遠ざかっていった。

「……なるほど? じゃあ教育実習期間が終われば、ほくちゃんは俺のものになってくれるってこと?」

 ……ちょっと飛躍し過ぎじゃないか? と思いつつ、素直にうなずいてしまう。
 く……っ! 自分のチョロさが嫌になるっ!

「……ふぅん」

 意味ありげに頷いていた先生が、ニヤリと……それはもう楽し気に笑った。

「なぁるほど? まぁ、それもそうか。俺も教育実習終わるまでそこそこ忙しいしね。これが終わってから……じっくり……お話しようね?」

 ほくちゃんが中三の時のことも含めて……。
 そう言って笑う沢渡先生は……とても活き活きとしていた。だから僕は……。
 
「ひゃ、ひゃい……」

 情けない返事をするので精いっぱいだった。