『この手紙を読んだ誰かへ
この手紙を読んでるってことは、あの本を開いたんだと思う。たぶん先生になりたくて下調べしたってとこじゃないかな?
まぁ、たまたまって可能性もあるけど。将来の夢を持ってる誰かの後押しになれたらいいなって思ってこれを書いてます。
唐突に自分語りするけど、俺も教師になりたくて、でも途中でなれないんじゃないかって悩んで悩んでわけわかんなくなってた時期がありました。
そんな俺を励まして背中を押してくれたのは、名前も知らない中学生だったよ。
図書館でたまたま会っただけの相手で、勉強で悩んでたみたいだから声掛けたのね。
べ、別に下心があったわけじゃなくて……! ただなんか、その子も色々悩んでるみたいで。途方に暮れてる感じが自分の現状に重なって、なんか放っておけなかったんだよね。
中三で高校受験を控えてるんだけど、急遽志望校を変えたから大変だって言ってた。
だから軽い気持ちで勉強を教えたんだよね。ほら、悩んではいたけどもともと先生になりたかったから。
でも人に教えるのって……大変だよね。自分で思ってることがちゃんと伝わらないと相手は理解できない。
そん時クラスメイトの質問にちゃんと答えられなかったことがあってさ。ホントに些細なことなんだけど、自分先生に向いてないんじゃないかって考えちゃってた時期なんだよね。
だから、その子に勉強教えるのもめちゃくちゃ緊張してさ。中三の内容だから解けるのが当たり前なのに、本当にそれでいいのか、問題と解答を何度も見比べたりしてさ。
たぶんその子からしたら情けない男だったと思うよ。
でもさ、教え終わった後、その子が言ってくれたんだ。教えるの上手ですねって。先生とか向いてそうって。
我ながら単純だけどさ、その子のその一言で視界が開けたってーか、吹っ切れたっていうか。
単純なのは自分でもわかってんだけどさ。でも確かに彼の言葉に……俺は救われた。背中を押された気分になったんだ。
だから、彼が俺にしてくれたみたいに、誰かの救いに、一歩を踏み出す力になれるように、この手紙を残す。
頑張って夢を叶えようぜ! 俺も頑張る!
三年二組 沢渡 雄志』
「……ふはっ……あはは……あははは……」
口から零れ落ちる笑いが止まらない。
なんだよ……。なんだよこれ……。
青臭くって、ガキっぽくて、単純で、甘ったるくて……。
それでいて……力強い。
手紙の内容はそんな感じだった。
そして沢渡さんが書き残した手紙の登場人物に、僕は心当たりがあった。
「あははは……なんだよ……なんだよそれ……! 僕が発した言葉に背中を押されたって! なんだよそれっ!」
嬉しい気がする。
あの時勉強を教えてくれたお兄さんに悩んでる素振りなんて微塵も感じなかったけど本当は……。
夢を諦めるかどうかの瀬戸際だったらしい。
だけど僕が何気なく伝えた言葉が……あの人の夢を生かした。
同じ言葉で……ユーレイさんは消えてしまったのに……。
「なん……で……」
ぐしゃりと手紙を握りつぶす。
なんで、僕なんかの言葉で……っ!
あんな無責任な! 深く考えてもいない! ただ思っただけを口にしただけなのにっ!
片方は夢を叶えようとしていて、片方は消えてしまった。
それが……酷く重い。
「なんで……だよ……」
握り締めた手紙の皺を伸ばすように指を這わす。
だけど……一度くしゃくしゃになった紙は、元のようには戻らなかった。
けっして元の形には戻らない。
それがまるでユーレイさんの存在みたいで……。
僕はさみしくなって、寂しくてどうしようもなくなったのだった。



