夏が終わったら逢いにきて 〜初めて恋した相手は幽霊でした〜

 あの後、なんとなくユーレイさんと気まずくなってしまった。
 結果、僕の足は第三音楽室から遠ざかっていた。
 ユーレイさんは別に第三音楽室に縛られてる地縛霊じゃないはずなのに、他の場所で逢うことはなかった。
 それを少し寂しく思いつつも、あの気まずい空気を思い出しては自業自得だとため息を吐く。
 それの繰り返しだった。

 あの日、なんであんなことを言ってしまったのか、自分でもわからない。
 別に希死念慮なんて持ってなかったはずなのになぁ。

 ただ……。
 幽霊らしからぬ明るさと行動力を持ってるユーレイさんを見てて、思うところがあっただけだ。
 あの人が生きてた方がよっぽど良かったんじゃないかって……。

 なんでユーレイさんが幽霊になったかわかんないけど。きっとそんな気がする。

 ユーレイさんだって好き好んで幽霊になったわけじゃないだろう。
 むしろ生前のあの人は生きるバイタリティに溢れてそうなイメージだし。
 だからこそ、安易にあんなことを言ってはいけなかったのだ。
 今さらながらに強くそう思うけど、一度口にした言葉をなかったことにする術は持っていなかった。

「しまちゃ~ん」

 ぼんやり頬杖を突きながら教室の窓から外を眺めてると、背後から僕を呼ぶ声が聞こえてきた。

「ん? どしたの?」

 今日も元気そうな葛西君が、僕の目の前でひらりと手を振っていた。

「ん? いや? 島ちゃん元気?」

 変なことを聞くもんだなぁと思いながらコクリと頷きを返せば、少しだけ安心したように微笑まれた。

「んじゃさ、さっき返された小テストの……ここの問題教えてくんね?」

 センセの解説聞いてもよくわかんなかった。
 なんて悪びれなくいう彼が指し示した問題は、確かにちょっとした引っ掛け問題だった。
 僕も最初わかんなくて、あの第三音楽室で幽霊さんに教えてもらった問題だ。

「あぁ……ここはね……」

 前の席の椅子を借りて座り込んだ葛西君が僕の前にプリントを広げる。
 ユーレイさんに習った解き方を順を追って説明すれば、彼の顔にも理解の表情が広がっていった。

「へぇ! すげー! 島ちゃんすげぇな! 説明めっちゃわかりやすかった!」

「そ、そんなことないよ……」

 最後まで解説して、確認のために葛西君が頭からもう一度解き直す。
 おんなじ答えになったことを見て、葛西君が感嘆の声をあげた。

「いやすげぇわかりやすかったって! 問題作った保坂っちの解説よりわかりやすかったって!」

 それもどうなんだろう? なんてことを思いながら、カノジョとの待ち合わせに向かう葛西君と手を振って別れた。

 あの問題の解き方は別に僕が考えた訳じゃない。
 あれはユーレイさんが教えてくれたものだ。
 だから称賛を受けるべきは僕ではない。
 称賛を受けるべきは……。

 気が付けば僕は走り出していた。
 第三音楽室へ向かって。
 今一番会って話がしたいと願う人のところへ向かって、僕は全速力で廊下を駆け抜けたのだった。