夏が終わったら逢いにきて 〜初めて恋した相手は幽霊でした〜

 あの日はピアノのコンクールだった。
 中学生の部門とはいえ狭き門で。
 幼少期からピアニストを目指してきた子どもたちのための登竜門。
 出られるだけもどこか誇らしくなれる場所だった。

 僅かな緊張と、堪えきれないワクワクを胸に、母の車で会場へと向かっていた。
 あと少し。
 あと少しでピアノが弾ける。
 そんな僕の目に映ったのは……。

 逆走しながら猛スピードでこちらに向かってくる一台の白い車だった。

 そして……。
 
 耳に突き刺さるブレーキの音。
 ドンっと身体に感じた衝撃。
 それから……。
 誰かの悲鳴。
 そして……腕を伝うぬるい液体の感触が……いつしか感じられなくなった頃、僕はやっと意識を手放せたのだった。

 その後のことは正直よく覚えていない。
 もうだいぶ前の出来事だっていうのもあるし、当時は色々ばたついてて、色んな記憶がおぼろげだった。

 ただ……。

 潰れたドアに挟まった左手が、もう元のように動くことはない。
 ……今までのようにピアノを弾くことができなくなった。
 ただそれだけが……僕に残された現実だった。