従姉がナンパしたグループの一人は、俺が男だと知ったあとも距離を縮めてくる

 翌日。
 携帯のアラームが鳴り、目を覚ます。
 手を伸ばしてアラームを止めると、そのまま携帯が目に入った。
 そこで、ふと海里さんと連絡先を交換したことを思い出す。
「そういえば……」
 俺は携帯を手に取り、アプリを開いた。
 すると、昨夜、海里さんからメッセージが届いていた。
【だよね。俺も写真見たとき思わず笑っちゃった】
【明日、15時半くらいに行くね】
 明日……ということは、今日か。
「本当に来てくれるんだ……」
 メッセージを見つめていると、胸の奥がじんわりと弾んだ。
 今日、会えるんだ。
 そう考えると、自然と頬が緩んでしまう。
 せっかく来てくれるんだから、少しでも話せたらいいな。
 仕事が忙しくなければ、話す時間もあるだろうか。
 そんなことを考えながら、俺は身支度を進めた。
 杏奈と一緒に海の家へ向かい、着くとエプロンを着けて、開店の準備を始めた。
 俺は店内の机や椅子を整え、杏奈は調理場の方を手伝っている。
「はよー」
「おはよう」
 声を掛けられ、俺は振り返りながら挨拶を返した。
「あれ、怜?」
 そこにいたのは、俺より一つ年上の従兄、怜だった。
 怜は従姉の杏奈と双子で、普段は部活があるため、アルバイトに来ることはあまりない。
「今日来たんだ」
「うん。部活ないから」
「じゃあ、手伝いに来てくれたの?」
「そう。暇だったし、お小遣い欲しいし」
 怜はそう言って笑った。
「そっか」
 俺は頷いた。
「怜がいると助かるから嬉しいな」
「でしょ?」
 怜は笑いながら、俺の隣で準備を始めた。
 しばらくすると、調理場の手伝いを終えた杏奈が店内へ戻ってきた。
「あれ?今日部活ないの?」
「そう」
「そうなんだ。じゃあ、その分しっかり働いてね」
 杏奈が冗談っぽく言うと、怜は笑った。
「はいはい。分かってますよ」
 そんな二人のやり取りを聞きながら、俺も少し笑った。
 それから三人で、それぞれの作業を進めながら開店の準備をしていった。
 しばらくすると、他のアルバイトの子たちも少しずつ集まり始めた。
「おはようございます」
「おはよう」
 それぞれ挨拶を交わしながら、持ち場につき、開店に向けて準備を進めていく。
 人が揃ったところで、最後の確認を終えると、海の家が開店した。
 開店してからはそれほど忙しくなかったが、昼時になると一気に忙しくなった。
 今日は海水浴場に来ている人が多く、家族連れも多かった。
 そのため、一度の注文で料理をいくつも頼まれることも多い。
 忙しく動き回りながら、改めて怜がいてくれてよかったと思った。
 ピークが過ぎても店内にはまだお客さんが多かったため、俺と怜と杏奈は、今日は時間をずらして休憩を取ることになった。
 俺が休憩を終えて店内に戻ると、入れ替わるように怜が休憩に入ろうとしていた。
 そのタイミングで、叔母さんが俺たちに声をかけてきた。
 「怜、いぶちゃん。買い出し頼んでいい?」
 怜はエプロンを外しながら頷いた。
「いーよ。何、買ってきたらいい?」
「重いものばかりになっちゃうけど……」
 叔母さんがメモを取り出し、怜に渡した。
 これから休憩に入る怜と、休憩を終えたばかりの俺。
 そのことを考えると、俺が一人で行ったほうがいいと思った。
「俺、休憩終わったばっかだから、一人で行ってくるよ」
「え?でも……」
 怜が受け取ったメモに目を落とす。
 書かれている内容を確認すると、飲み物や氷など、重そうなものがいくつも並んでいた。
「飲み物とか氷もあるじゃん。これ、結構重くない?」
「平気だって」
「でも、二人で行ったほうがいいんじゃない?」
 怜の言葉に、俺は首を振った。
「大丈夫だって。俺も男だよ?」
「そうだけど……」
「怜も疲れてるだろうし、休憩してて」
 怜は少し迷ったように叔母さんを見る。
「どうする?」と聞くような息子の視線に、叔母さんは頷いて答えた。
「いぶちゃんが持てる量にするわ」
「……それなら、お願いしようかな」
 怜は少し考えたあと、頷いた。
 その言葉に俺はほっとした。
 怜は一緒に行こうと言ってくれたけれど、ここまで働いてきた怜を買い出しに付き合わせるのは、やっぱり申し訳なかったから。
 それに、スーパーまでは歩いて往復するだけでも三十分ちょっとかかってしまう。
「何買ってきたらいい?」
「ちょっと待ってね。印つけるわ」
 おばさんはメモに目を通し、買ってきてほしいものに印をつけていく。
「丸をつけたのを買ってきて欲しいわ」
「分かった。じゃあ、行ってくるね」
「ありがとうね。気を付けて行ってらっしゃい」
 俺は頷くとエプロンを脱ぎ、買い出しに向かった。
 一番近くのスーパーに着くと、メモを見ながら印のついたものを買い物カゴに入れていく。
 全部入れ終わったところで、カゴの中を覗き込んだ。
 思っていたよりも少ない。
「これくらいなら、まだ持てそうだな」
 叔母さんはもともと、俺と怜の二人で買い出しに行くつもりで、メモに必要なものを全部書いていた。
 カゴの中を見る限り、これくらいならまだ余裕がある。
「せっかく来たんだし、全部買っていこう」
 また買いに来るのも手間だし、メモに残っているものも買ってしまうことにした。
 メモを確認しながら、印のついていないものもカゴに追加していく。
 買い物を終え、レジを済ませる。
 カートに乗せていた二つの袋を、それぞれ片手に持った。
「……思ったより重いな」
 カートで押しているときは気にならなかったけれど、実際に持ってみると、ずしりと腕に重さがかかった。
 それでも、持てないほどではない。
「まあ、これくらいなら大丈夫か」
 そう思って、そのまま店を出た。
 両手に袋を一つずつぶら下げて歩いていると、次第に持ち手が手のひらに食い込んできた。
「……ちょっと痛いな」
 手のひらの位置を何度かずらしながら歩き、海岸まで来たところで、さすがに一度休むことにした。
 近くのベンチに二つの袋を置く。
「ふぅ……」
 両手をぶらぶらと振って、手をほぐした。
 袋を下ろしている間は、手も腕もずいぶん楽だった。
 けれど、買ってきたものがなくて困っていたら大変だし、あまりゆっくりしているわけにもいかない。
「よし……」
 気合を入れて、二つの袋を持ち上げる。
「重っ」
 持ち上げた瞬間、改めてその重さを実感した。
 さっきまで下ろしていた分、余計に重く感じる。
 少しふらつきながらも、なんとか体勢を整えて歩き始める。