従姉がナンパしたグループの一人は、俺が男だと知ったあとも距離を縮めてくる

 結局、砂埋めは時間が足りず、途中で区切りをつけてやめることになった。
 中央のあたりばかり作り込んでしまい、他の部位に手を回す余裕がなかったらしい。
 ひとまず形になったところで写真を撮り、海水浴場のシャワーで砂を落として着替えた。
 そのまま三人で、行き慣れたラーメン屋に寄った。
 券売機の前に立つが、三人とも頼むものはだいたい決まっている。
 いつも通り、それぞれ好きな味の食券を買い、席についた。
 ラーメンが来るのを待っている間、悠人が今日撮った写真をグループのアルバムにまとめて送ってくれた。
 アルバムを開き、写真を順番にスクロールしていく。
 何枚か眺めていると、砂に埋められている自分の写真が出てきて、思わず指が止まった。
「うわ、なんだこれ」
「ん、どれ?」
 二人が覗き込んできたので、画面を見せる。
「砂埋めのやつ」
「あー!」
「それか」
 二人も写真を見ると、楽しそうに笑った。
 作っていたときのことを思い出したのか、ニヤニヤしている。
 俺はそこで初めて、完成したマッチョ姿を見た。
 まさか、ここまで極端な仕上がりになっているとは思わなかった。
 腹筋と胸筋、肩は、それなりに力を入れて作ったらしく、筋肉の盛り具合までしっかり表現されている。
 でも、腕や足まで作る余裕はなかったようで、本当にただの砂の塊だった。
 力を入れたところと手を抜いたところの差がひどすぎて、どう見てもバランスがおかしい。
「てか、なんでここら辺だけ特にうまいの?」
 俺が指差したのは、右肩のあたりだった。
「あー、そこ、いぶちゃんが作った」
「いぶちゃんが?」
「そうそう。一生懸命作ってくれてたよ」
 そこが一番きれいに作られていて、筋肉の形までしっかり表現されている。
 見本と見比べてもそっくりで、思わず器用だなと思った。
 すると、翔がふと思い出したように口を開く。
「これ、杏奈ちゃんに送るんだっけ?」
「うん。見たいって言ってたから。送るって約束したし。翔が送る?」
「いやー、送っといて」
「ん。じゃあ、送っとくわ」
 翔が悠人の言葉に、苦笑いを浮かべる。
 そりゃー、そうだ。
 だって、あの子、どう見ても悠人狙いだったし。
 あんなあからさまにアピールして、メッセージを送るきっかけまで作っているのに、他のやつから送るなんて考えられない。
 まあ、鈍感な悠人は気づいていないようだが。
 悠人はそのまま、開いていたSNSの画面を操作している。
 ちょうどいい。
 今のうちに聞いておこう。
「なあ、いぶちゃんのアカウント教えて」
「ん。ちょっと待ってね。先に杏奈ちゃんの送るわ」
 悠人がそのままプロフィールのURLをコピーして、従姉のアカウントを送ろうとしたところで、俺は口を挟んだ。
「いや、いぶちゃんだけで大丈夫」
「えっ?」
「そっちの子とは話してないし」
「あ、そう?わかった。えーと……あった。これだ」
 悠人からいぶちゃんのアカウントが共有され、俺はそのままフォローする。
 アカウント名には「伊吹」と表示されていた。
 なるほど。
 だから「いぶちゃん」って呼ばれているのか。
 そのあと、プロフィール画像をタップして拡大する。
 そこには、カメラ目線でお座りしているトイプードルが写っていた。
 かわいいな。
 犬飼ってるのか。
 そんなことを考えながらプロフィールを眺めたあと、俺はDM画面を開いてメッセージを送った。
【こんにちは。今日、海で話した海里です。アカウント教えてもらったので、フォローしました。よろしくね】
 送信したのを確認して、スマホをしまう。
 すると、悠人が口を開いた。
「明日、何時に行く?海の家」
「何時からやってるんだっけ?」
 翔が営業時間を調べて答える。
「9時から17時だって」
「ピークは避けた方がいいよな」
「そーだな。午後は暇って言ってたから、15時半くらいに行く?」
「そうしよ。海里もそれでいい?」
「うん」
 俺が頷いた直後、テーブルの上に置かれていた二人のスマホが、ほとんど同時に鳴った。
「ん?」
 二人がそれぞれスマホを手に取る。
 翔は通知を確認すると、にやっと笑った。
「誰から?」
「最初に声をかけてくれた子たち」
「俺も。その子たちと、杏奈ちゃん」
 今日、俺たちは何組かのグループから声をかけられていた。
 悠人と翔と一緒にいると目立つし、俺自身、告白されたこともある。
 だから、自分がモテるほうだという自覚はある。
 でも、知らない人に声をかけられるのは苦手だった。
 特に、初対面なのにいきなり親しげに話しかけてくるナンパは苦手だ。
 うるさいし、いちいち相手をするのも面倒だから、顔にタオルをかけて、寝たふりをした。
 たまに気を遣って、俺の連絡先まで聞いてくる子もいたけど、悠人と翔には教えないでくれと頼んでおいた。
 だから、俺のフォローは一人しか増えていない。
 悠人と翔は、初対面の相手でも連絡先を聞かれれば、特に抵抗なく教えるタイプだ。
 悠人は、友達が増えるくらいの感覚なのだろう。
 特に気にする様子もなく、届いたメッセージを返している。
 一方の翔は、いい子がいたら一緒に遊びに行きたいとでも思っているのか、嬉しそうにメッセージを返していた。
 俺はそんな二人を横目に、自分のスマホに目を落とした。
 いぶちゃんをフォローしたとき、連絡が来たらすぐに分かるように通知をオンにしておいた。
 悠人が従姉から返信が来たと言っていたから、俺のところにもいぶちゃんから連絡が来るかもしれない。
 そう思って待っていたけれど、スマホにはまだ何の通知も届いていなかった。
 一方、二人は今日声をかけてきた女の子たちの中で、誰が気になるかという話をしていた。
「俺ね、最初に声をかけてくれたショートカットの子が気になるな。悠人は気になる子、いた?」
「んー、俺はまだ分からないな。海里は……」
 そこで悠人が言葉を止める。
「……って、いないか」
 いつもなら「いない」と即答するところだった。
 けれど、今回は何も答えなかった。
「……あれ?」
 翔も不思議そうに俺を見る。
「海里が?」
「誰かいるの? 気になった子?」
 二人から聞かれて、少し迷う。
「気になるっていうか……また話したいなとは思ったけど」
「へー、珍しいじゃん」
「誰?」
「……いぶちゃん」
 一瞬、二人が黙った。
「いぶちゃん?」
「うん」
「いぶちゃんが、気になった女の子?」
「うん」
「えっ、でも、いぶちゃんって……」
 二人は一度、顔を見合わせた。
「あー、海里はタオルかぶってたな」
「あー、そーだ」
「でも、可愛い系だったよな」
「言われてみると」
 二人は揃って頷いた。
「なんだよ?」
「いや、別に」
 そう言って、二人はニヤニヤと笑いながら、俺の肩をぽんぽんと叩いた。
「まあ、明日のお楽しみってことで」
「……?」
 意味が分からず、俺は首を傾げた。
 二人が何を考えているのか、このときの俺にはまだ分からなかった。