従姉がナンパしたグループの一人は、俺が男だと知ったあとも距離を縮めてくる

 人通りの少ない校舎裏まで来たところで、海里くんが足を止めた。
「この辺ならいいかな。とりあえず座ろっか」
 海里くんはそばにあったベンチを指差す。
 俺は頷いて、その隣に腰を下ろした。
 二人で並んで座ると、海里くんは少し笑った。
「なんか緊張するな」
「はい」
 その言葉につられて、俺の緊張も高まる。
 風が吹いて、木々が揺れた。
 海里くんは一度大きく息を吐く。
「さっき、デートって言ったじゃん」
「はい」
 俺は黙って次の言葉を待った。
「俺、伊吹のこと好きなんだ」
 一瞬、何を言われたのか分からなかった。
 海里くんは真っ直ぐ俺を見る。
「だから、友達としてじゃなくて」
 海里くんが続ける。
「恋愛的な意味で今日は誘った」
 その言葉が頭の中へ落ちてくる。
「――え」
 遅れて理解した瞬間、顔が熱くなった。
 心臓がうるさい。
 胸の奥でどくどくと大きな音を立てている。
「お、俺のことを?」
 やっとのことでそれだけ口にすると、海里くんは笑った。
「うん」
 否定も誤魔化しもなく、まっすぐ頷かれる。
 ますます顔が熱くなった。
 どうしよう。
 嬉しい。
 恥ずかしい。
 心臓が苦しいくらい速い。
 何を言えばいいのか分からない。
 ただ心臓だけが、痛いくらいに鳴り続けていた。
「……だから、俺のことをこれから意識してくれたら嬉しい」
 海里くんが静かに言う。
「男に告白されて困ってるだろうけど、少しずつでも」
 ――困る。
 確かに困っている。
 だけど。
 嫌ではなかった。
 むしろ――。
「俺」
 気付けば口が動いていた。
「嬉しいです」
 海里くんが目を瞬く。
「え?」
「告白、されて」
 自分で言ってさらに顔が熱くなる。
「嬉しかったです」
 海里くんは一瞬固まる。
 それから、少しだけ目を細めた。
「そっか。そう言ってもらえて俺も嬉しいよ」
 その声は、どこかほっとしたように聞こえた。
「でも、海里くん」
「うん」
「俺、……恋愛したことないんです」
「うん」
「海里くんといると楽しくて、もっと会いたいなって思います」
 海里くんが少し照れたように笑った。
「そうなんだ」
「今も凄いドキドキしてます」
 胸に手を当てる。
 本当にびっくりするくらい速い。
「でも、これが恋なのか分からないんです」
 正直な気持ちだった。
 海里くんのことは好きだ。
 一緒にいると楽しい。
 会えると嬉しい。
 今日だってずっと楽しかった。
 でも、それが恋なのかと聞かれると分からなかった。
「難しいよね」
 海里くんは少し考えるように空を見上げた。
「実はさ」
「はい」
「俺も分からなかったんだよね」
「え?」
 思わず顔を上げる。
 海里くんは照れたように笑った。
「これが初恋だから」
 ドクンと心臓が鳴る。
「だから、好きだって気付けたのも最近なんだ」
「そうなんですか?」
「うん」
 海里くんは俺を見る。
「だから伊吹もゆっくり考えてくれたら嬉しい」
 優しくそう言われて、少しだけ肩の力が抜けた。
 海里くんは何も急かさなかった。
 俺の返事を待ってくれると言ってくれた。
 それなのに。
 胸の奥がじわりと熱くなる。
 海里くんはずっと俺のことを見てくれていた。
 俺が困らないように。
 俺が怖がらないように。
 俺のことを考えながら言葉を選んでくれている。
 そのことが、どうしようもなく嬉しかった。
 そして、その瞬間、ふと気付いたのだ。
「あ……」
 思わず小さく声が漏れる。
「伊吹?」
 海里くんが不思議そうに俺を見る。
 俺は自分の胸元を押さえた。
 やっと分かったのだ。
 さっき、海里くんに女の子たちのことを伝えなかった理由が。
 ――嫉妬したからだ。
 嫌だと思ったのだ。
 海里くんが、あの子たちと話すが。
 あの子たちのことを考えるのが。
 俺から視線を外すのも。
 想像しただけで胸の奥が苦しくなった。
 そして、その原因に名前を付けるとしたら――。
「俺……」
 胸に一番しっくりくる言葉が浮かぶ。
「好きです。海里くんが」
 自分で口にした瞬間、心臓が大きく跳ねた。
「俺、付き合いたいです」
 数秒。
 海里くんは何も言わなかった。
 ただ、信じられないものを見るみたいに俺を見つめている。
「海里く――」
 言い終わる前に、ぐっと引き寄せられた。
「わっ」
 気付けば海里くんの腕の中にいる。
「海里くん?」
 抱きしめられている。
 そう理解した瞬間、顔がさらに熱くなった。
 心臓が壊れそうなくらいうるさい。
「やばっ」
 耳元で海里くんが小さく笑う。
「ちょっと無理」
「え?」
「嬉しすぎる」
 抱きしめる腕に少し力がこもった。
「そっか。両想いなんだ」
 その声が少し震えていて、俺は目を瞬く。
 海里くんも凄い緊張していたんだ。
 そう思うと胸がぎゅっとした。
 そっと腕を伸ばし、俺も海里くんの服を掴む。
「……はい。両想いですね」
「うん」
「俺、こんなにドキドキするの初めてです」
 海里くんは少しだけ体を離した。
 それでもまだ近い。
「伊吹」
「はい。海里くん」
「俺の恋人になってくれる?」
「はい、恋人になりたいです」
 海里くんと俺は照れたように笑い合う。
 胸の奥は相変わらずうるさいままだったけれど、それが心地よかった。