従姉がナンパしたグループの一人は、俺が男だと知ったあとも距離を縮めてくる

 チュロスを座って食べようという話になり、近くの飲食スペースへ向かう。
 空いている席をつけ、腰を下ろそうとしたそのときだった。
「海里ー!」
 不意に後ろから声が飛んでくる。
 振り返ると、海里くんの友人らしい男子たちが手を振っていた。
「あ」
「写真撮ろうぜ!」
 海里くんは少し困ったように俺を見た。
「ごめん。ちょっと行ってきていい?」
「もちろんです」
「チュロス預かってますので、行ってきてください」
「助かる」
 俺は海里くんのプレーンのチュロスを受け取った。
 海里くんは笑うと、友人たちの方へ向かっていった。
 俺は空いていた席へ腰を下ろし、両手に一本ずつ持つ。
 少し離れた場所で、海里くんたちが楽しそうに写真を撮り始めた。
「ねえ」
 話しかけられて顔を上げると、二人組の女の子が立っていた。
「何ですか?」
 声をかけると、二人は揃って目を丸くする。
「え」
「男……?」
「はい、男です」
 今日だけで二回目だ。
 思わず声が硬くなる。
「なんだ、男だったんだ。良かった」
「彼女かと思って焦ったじゃん」
 その反応に、胸の奥がもやっとした。
「何か用ですか?」
 できるだけ平静を装って尋ねる。
 すると二人は顔を見合わせた。
「あ、そうそう。私たちも一緒にいい?」
「一緒?」
「席まだ空いてますけど」
「そうなんだけど。海里くんと話したいんだ」
 そう言って二人は、少し離れた場所で写真を撮っている海里くんへ視線を向けた。
「ああ」
 ようやく意味を理解する。
 どうやら海里くん目当てらしい。
「海里くんの友達ですか?」
「いや、仲よくなりたいなって」
「そうなんですね」
 二人は期待するような目で俺を見る。
「じゃあ、一緒にいてもいい?」
「それは無理です」
「え?」
 二人はきょとんとした顔になる。
「今日は二人で回る予定なんです。だから無理です」
 二人は顔を見合わせた。
「……何この子」
「ね」
 小さな声だったが、しっかり聞こえてしまった。
 二人の表情が少し険しくなる。
 どうやら気を悪くさせてしまったらしい。
「なんか感じ悪くない?」
「ほんと。なんかえらそうだし」
 聞こえるような声で話す二人に、どう返したものか迷う。
 そのときだった。
「伊吹」
 聞き慣れた声がして顔を上げる。
 海里くんがこちらへ戻ってきていた。
 海里くんの姿にほっとする。
「ごめん。お待たせ」
「おかえりなさい」
 海里くんが手を差し出したので、俺は預かっていたチュロスを渡した。
「ありがと」
 海里くんは受け取ると、そこで初めてそばに立つ二人に気付いたらしい。
「誰?」
 女の子たちは一瞬で表情を変えた。
「海里くん!」
「こんにちは」
「……こんにちは」
 海里が眉をしかめて二人を見る。
「なんか用?」
「ちょっと、海里くんと話したいなって思って」
 そう言いながら、二人はちらりと俺を見る。
 まるで余計なことは言うなと言われているみたいだった。
 どうやら、さっきの態度が感じ悪かったという自覚はあるらしい。
 海里くんもその視線に気付いたらしい。
「伊吹、何かあった?」
 俺は海里くんに、さっき彼女たちに言われたことを告げ口してやろうかと考えた。
 けれど、やめた。
 理由はよく分からない。
 ただ、胸の奥にもやもやとしたものが引っかかっていて、そんな気分になれなかった。
 俺は首を振る。
「特に何も」
 海里くんは少し不思議そうな顔をしたが、それ以上は聞かなかった。
「あのさ、海里くん」
 女の子の一人が声を掛ける。
「このあと一緒に回らない?」
「は?やだよ」
 海里くんは即答した。
 女の子たちはぽかんとした顔になる。
 だが、諦めきれないのか、なおも声をかけてきた。
「いや、ちょっとだけでも」
「無理」
 海里くんは大きくため息を吐いた。
「ていうか、デートの邪魔しないでくれる」
「え」
 女の子たちが目を丸くする。
 俺も思わず目を丸くした。
 デート?
「なんで知らないやつと一緒にならないといけないわけ?」
 海里くんは二人へ視線を向ける。
「せっかく誘ってOKもらえたのに」
 その目は冷たかった。
「そもそも、知らない人に話しかけられるの嫌いなんだけど」
 海里くんは不快感を隠すこともなく告げる。
 それを目の当たりにした女の子たちは、びくりと肩を震わせた。
「そ、そうなんだ。邪魔してごめんね!」
 慌てたようにそう言うと、二人は足早に去っていった。
 俺は隣を見る。
 海里くんがあんな言い方をするのは少し意外だった。
 俺と話しているときとは、まるで違う。
 けれど、それ以上に気になる言葉があった。
「海里くん」
「ん?」
「デートなんですか?遊びじゃなくて、デートとして誘ってくれたんですか?」
 海里君はじっと俺を見た。
 それからゆっくり頷いた。
「そうだよ。デートで誘った」
 海里くんは少し照れたように笑うと、手に持っていたチュロスを一口かじった。
「これ食べたら、場所移動して話さない?」
「は、い」
 そのあとは二人とも無言のまま食べ進めた。
 俺はなんだか緊張してしまい、チュロスの味が分からなくなった。
 気が付けば、チュロスはあっという間になくなっていた。
「食べ終わった?」
「はい」
「じゃ、移動しよっか」
「分かりました」
 海里くんは立ち上がる。
 俺も慌てて後を追った。
 何の話をされるのかは分からない。
 それなのに、胸だけが妙に落ち着かなかった。