従姉がナンパしたグループの一人は、俺が男だと知ったあとも距離を縮めてくる

 迷路の入口には思ったより人が並んでいた。
 順番を待ち、俺たちは中へ入る。
 最初の分かれ道には看板が立っていた。
『クイズ1:どちらに進みますか?←左、右→』
「なんだこれ」
 二人で思わず笑ってしまう。
「これ、クイズなんだ」
「どっち行く?」
「んー、じゃあ右で」
 二人で右へ進む。
 すると数メートル先で行き止まりになっていた。
「あ」
「外れだったな」
 海里くんが苦笑する。
「最初から引っかかりましたね」
 来た道を戻り、今度は左へ進む。
 その先には次の問題が置かれていた。
『クイズ2 日本で一番面積が広い都道府県は?←北海道、愛知県→』
「これは簡単ですね」
「さすがに北海道だな」
 その後も何問か二択クイズを解きながら進んでいく。
 途中で何度か迷いながらも、俺たちは無事に出口へたどり着いた。
「結構、面白かったですね」
「な。参考になった?」
「はい、なりました」
 迷路を出た後も、俺たちは文化祭を見て回った。
 お化け屋敷では驚かされたり。
 クイズラリーでは二人で問題を解いたり。
 フォトスポットでは記念に写真を撮ったり。
 気付けば時間はあっという間に過ぎていた。
「文化祭ってこんな感じなんですね」
 思わず呟くと、海里くんが笑う。
「伊吹は初めてだもんな」
「はい。思ってた以上に楽しいです」
「それはよかった」
 気付けば、パンフレットに載っていた場所をいくつも回っていた。
「ん?」
 ポケットの中で携帯が震えた。
 画面を見ると、怜からのメッセージだった。
【今から担当入る】
「あ」
「どうした?」
「俺、二年七組のところ行きたいんですけどいいですか?」
「二の七?」
「はい。従弟が今から店に出るって」
「従弟って……海の家の?」
「はい」
「怜って名前だったよな?」
「覚えてたんですね」
「そりゃー、覚えてるよ」
 海里くんは笑った。
「同じ学校だったんだ」
「そうです。あ、海里くんと同級生になりますね」
「ああ、そうなるのか」
 海里くんはパンフレットへ視線を落とした。
「二の七なら模擬店やってるな」
「模擬店エリアですか?」
「いや、あっちは部活の模擬店だけ」
 海里くんはパンフレットの反対側を指差す。
「クラスの模擬店はこっち」
「分かれてるんですね」
「うん。分かりやすくするためらしいよ」
 海里くんはパンフレットを閉じた。
「じゃあ、行ってみようか」
「はい」
 海里くんに続いて歩き出す。
 クラス模擬店の並ぶエリアは、さっきまでいた場所とは少し雰囲気が違った。
 部活動の方は積極的に呼び込みをしていたが、こちらは近付いてきた人へ声をかける程度らしい。
「二年七組……」
 パンフレットと看板を見比べながら探していると、
「あれじゃない?」
 海里くんが指差した。
 視線の先には『2-7』と書かれた看板が見える。
「本当だ」
 二年七組の模擬店へ近付く。
 店の前には何人か客が並んでいて、思ったより賑わっていた。
「人気ですね」
「みたいだな」
 店の中へ視線を向ける。
 すると、見慣れた姿が目に入った。
「いた」
 怜は注文を聞き、会計をする係らしく、愛想よく客と話している。
「……うわ」
 思わず呟くと、海里くんが笑った。
「どんな感想だよ」
「いや、あんな他人行儀な怜を久しぶりに見たので、つい」
「へえ」
 並びながら待っていると、ふと怜がこちらを見た。
 俺に気付いたらしく、小さく笑って手を振る。
 すぐに接客へ戻ったが。
「ふーん。確かに全然違うな」
「え?」
「笑顔が」
 海里くんが怜へ視線を向けたまま言う。
「まあ、従弟の俺に余所行きの顔する必要ないですからね」
「そいういもんなのかな」
「そういうもんです」
 そう答えたのに、海里くんはまだ何か引っかかっているようだった。
「どうしたんですか?」
「ん?」
「なんか気になることでもありました?」
「いや」
 海里くんは少し考え込む。
 それから、小さく苦笑した。
「……嫉妬かな」
「え?」
 思わず聞き返す。
「なんでもない」
 海里くんはそう言って肩をすくめた。
 俺には意味がよく分からなかった。
 嫉妬。
 そんなものをするようなことが、あっただろうか。
 首を傾げながら海里くんをじっと見つめる。
「……すごい見るじゃん」
「気になるので」
「気にしなくていいって」
「気になっちゃいます」
「えー」
 それでも見つめ続けていると、海里くんは困ったように笑った。
 それから観念したように息を吐く。
「仲いいんだなって」
「怜とですか?」
「うん」
「まあ、小さいころから一緒ですし。従弟ですし」
「まあ、そうなんだけど」
 海里くんは頬を掻いた。
「なんか伊吹とすごい仲いいんだなって思ったら羨ましいなって思って」
 俺はそれを聞いて首を傾げる。
「俺は、海里くんともすごく仲よくなれたと思ってたんですけど」
「え」
 海里くんが固まった。
 その反応を見て、少し焦った。
「違うんですか?」
「いや」
 一瞬視線を逸らしたあと、海里くんは照れたように笑った。
「違わない」
「ああ、びっくりした。俺だけだと思ってたらどうしようかと思いました」
「……伊吹」
 海里くんは額を押さえた。
「なんですか?」
「いや」
 何か言いかけて、結局飲み込む。
 それから小さく笑った。
「伊吹もそう思ってくれてるって知れてうれしいよ」
「はい」
 それを聞けて、俺も嬉しかった。
 海里くんとは仲がいいと思っていたし、そう思っていたのが俺だけだったら結構ショックだった。
「次の方どうぞー!」
 ちょうどその時、怜の声が響いた。
 気付けば列はかなり進んでいて、もうすぐ俺たちの順番だった。
 そして、ついに俺たちの番が来る。
「いぶちゃん」
 怜がこちらを見て少し笑う。
「来てくれたんだ」
「うん」
「二人は何にする?」
「ココア」
「プレーンで」
「了解」
 怜は手早く注文票に書き込む。
「ココア一つとプレーン一つで」
 奥へ声を掛けると、怜は改めて俺たちを見た。
「文化祭どう?」
「楽しい」
「それならよかった」
 怜は少し嬉しそうに笑う。
「海里くんがいろいろ案内してくれてるんだ」
「へえ」
 怜の視線が海里くんへ向く。
「ありがとうございます」
「いや、そもそも俺が誘って付き合ってもらってるから」
 そう言って海里くんが俺を見て笑う。
「伊吹と回るの楽しいし」
「……仲よくなったね」
 怜がぽつりと呟いた。
「そう?」
「うん」
 怜は少し笑う。
「海の家のときはこんな感じじゃなかったし」
「確かに」
 海里くんも苦笑した。
「さっきも海里くんと仲よくなったねって話してたんだ」
 そう答えると、怜はどこか安心したように頷いた。
「そっか」
 そのとき、奥から声が飛んだ。
「チュロスできたよー」
「はーい」
 怜は受け取ると、俺たちへ差し出す。
「ココアとプレーンどうぞ」
「ありがとう」
 怜が代金を告げる。
 海里くんが財布を取り出すより早く、俺は先にお金を差し出した。
「あ」
 海里くんが少し驚いた顔をする。
「今日は案内してもらってるので」
「いや、そんなのいいのに」
「お礼です」
「じゃあ、お言葉に甘えようかな」
 怜はそんなやり取りを見ながら代金を受け取った。
「文化祭、楽しんで」
「うん」
「怜も頑張って」
「あと少しだから大丈夫。じゃあね」
「うん」
 怜へ手を振り、俺たちは店を後にした。