従姉がナンパしたグループの一人は、俺が男だと知ったあとも距離を縮めてくる

「ごめん、待たせて」
「いえ、さっき来たところです」
 そう答えながら海里くんを見る。
 Tシャツ姿は見慣れているはずなのに、いつもと少し違って見えた。
 場所が学校だからだろうか。
「海里くんのクラスTシャツですか?」
「そう」
 海里くんは胸元をつまんだ。
「結構おしゃれだろ?」
「はい。かっこいいです」
 実際、文化祭用に作ったとは思えないくらデザインが良かった。
「伊吹のところもあるの?」
「ありますけど、まだ届いてないみたいです」
「そうなんだ。届くの楽しみだな」
「はい。こういうの作るの初めてなので、どんな感じに仕上がるのか楽しみです」
「デザインはどんなの?」
 海里くんが興味深そうに尋ねる。
「迷路をイメージしたデザインです」
「へえ、展示に合わせたんだね」
「はい。クラスで投票して決めたんです」
「そうなんだ。完成したら見せてよ」
「はい」
 俺が頷くと、海里くんは校舎を指さした。
「じゃ、行こっか」
 そこでふと杏奈たちのことを思い出した。
 海里くんに気を取られて、すっかり忘れていたのだ。
 けれど、さっきまでいた場所にはもう誰もいなかった。
「あれ?」
「ん?」
「杏奈たちがいなくて」
 俺が辺りを見回していると、海里くんが「ああ」とこぼす。
「杏奈ちゃんなら先に行ったよ」
「そうなんですか?」
「うん。俺が来た頃にね」
 そんなに前に行っていたのか。
 全然気づかなかった。
「じゃあ、俺たちも行こっか」
「はい」
 海里くんに促され、俺は校門をくぐった。
 校内にはたくさんの人がいて、あちこちから賑やかな声が聞こえてくる。
 模擬店の呼び込みや、ステージから流れる音楽。
 自分の学校の文化祭とはまた違った雰囲気に、つい周囲を見回した。
「すごいですね」
「結構人来るからね」
 海里くんが笑う。
「どっか行きたいところある?」
 海里くんが文化祭のパンフレットを差し出した。
「ありがとうございます」
 受け取って広げる。
 地図には模擬店や展示の場所がぎっしり載っていて、それだけでわくわくした。
「んー、……おすすめありますか?」
「うーん。宣伝させてもらうと、陸上部が模擬店やってるんだ」
「そうなんですか。何やってるんですか?」
「たこ焼き」
「いいですね。食べたいです」
「じゃあ、早めに昼食とる感じで模擬店エリアに行こっか」
「はい」
 海里くんの隣を歩きながら、模擬店が並ぶエリアへ向かった。
 模擬店エリアに入ると、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。
「いい匂い」
「だね。お腹すいてくるな」
 海里くんに案内されながら歩いていると、たこ焼きの屋台が見えてくる。
 数組が列を作っていて、なかなか繁盛しているようだった。
「人気なんですね」
「結構売れてるらしいよ」
 列へ並び、順番を待つ。
 やがて俺たちの番になると、屋台にいた先輩が海里くんに気付いて手を振った。
「あ、海里」
「お疲れ様です」
 海里くんが軽く手を上げる。
 すると先輩の視線が俺へ向いた。
「お、綺麗な子連れてるじゃん」
「え?」
 反応に困っていると、隣にいた女性も頷く。
「美人さんだね」
「あ、ありがとうございます……」
 とりあえず礼は言ったものの、素直には喜べない。
 けれど、返事を聞いて俺が男だと気付いたらしい。
「あれ、男の子?」
「はい」
「えっ、ほんとに?」
 女性が目を丸くする。
「男です」
 俺は校門をくぐってから被っていた帽子を軽く持ち上げた。
 人が多い場所では落ち着かなくて、つい帽子を被ってしまう。
「ごめん。完全に女の子だと思ってた」
「たまに間違えられます」
 苦笑しながら答え、再び帽子を被り直した。
「たこ焼き一つお願いします」
 半ば話を切り上げるように注文すると、先輩は「1つね」と笑った。
 先輩は手際よくたこ焼きを容器へ詰めて差し出す。
「はいよ」
「ありがとうございます」
 海里くんがお金を払おうとすると、先輩が手を振った。
「いいって」
「え?」
「サービス」
「いや、払いますよ」
「いいからいいから。間違えちゃったお詫び。ごめんね」
 先輩が俺の方を見て手を合わせる。
「いえ、大丈夫です」
「ありがとう」
 そう言うと、先輩は周囲を見回した。
「でも他のお客さんにバレると怒られるからな。後ろが来る前に、さっさと持ってけ」
 先輩は追い払うように手を振った。
 海里くんは少し困ったように笑ったが、「ありがとうございます」と頭を下げて、たこ焼きを受け取った。
「おう。二人とも楽しんでね」
「はい。たこ焼きもありがとうございます」
 先輩たちへ頭を下げ、俺たちは屋台を離れた。
 その後もフランクフルトや焼きそば、唐揚げを買い込み、空いていたベンチへ腰を下ろす。
「結構買ったね」
「ですね」
 改めて並べてみる。
「……茶色いですね」
 思わず呟くと、海里くんが吹き出した。
「確かに。まあ野菜も一応入ってるから」
「確かにそうですけど」
「だろ?」
 海里くんは笑いながら唐揚げを掲げる。
「それじゃ、食べよっか」
「はい」
「いただきます」
「いただきます」
 唐揚げにかぶりつく海里くんを見ながら、俺はたこ焼きの蓋を開けた。
 湯気と一緒にソースの香りが広がる。
 爪楊枝でたこ焼きを持ち上げ、息を吹きかける。
 一口かじると、中は思った以上に熱かった。
「あ、つ……」
「大丈夫?」
「……だい、丈夫です」
 口の中を冷ましながら答える。
「……美味しいです」
 そう言うと、海里くんは少し嬉しそうに笑った。
「それならよかった」
 海里くんもたこ焼きを一つ口へ運ぶ。
「あ、ほんとだ。うまいな」
「昨日食べてないんですか?」
 思わず聞くと、海里くんは首を振った。
「今日がはじめて」
「そうなんですね」
「うん。昨日は違うの食べてたから」
 満足そうにたこ焼きを頬張る海里くんに、思わず笑みがこぼれた。
 その後は焼きそばや唐揚げも半分ずつ分けながら食べた。
 フランクフルトだけは一本ずつ買っていたので、それぞれ自分のものにかぶりつく。
「なんか文化祭って感じですね」
「だな」
 海里くんはフランクフルトをもう一口かじった。
「こんな騒がしい中で食べると、余計うまく感じるんだよな」
「わかる気がします」
 周りでは楽しそうな声が飛び交い、模擬店の呼び込みも聞こえてくる。
 その賑やかさを聞きながら食べるたこ焼きは、なんだかいつもより美味しく感じた。
「去年もこんな感じだったんですか?」
「うん。似たようなもん」
「楽しそうですね」
「楽しかったよ」
 海里くんは笑いながら答えた。
 二人とも食べ終えると、海里くんがポケットからパンフレットを取り出した。
「次どこ行く?」
「迷路行きたいです」
「お、いいじゃん」
「どんな感じなのか見てみたいです」
 俺たちも文化祭で迷路をやる予定だ。
「もしかしたら参考になるかもな」
 海里くんは納得したように頷く。
「じゃあ行ってみようか」
「はい」
 俺は海里くんの隣を歩きながら、次の目的地へ向かった。