従姉がナンパしたグループの一人は、俺が男だと知ったあとも距離を縮めてくる

 文化祭当日。
 俺は従妹の杏奈とともに海里くんの学校に来ていた。
 道が不安だったため、杏奈も文化祭に行くと聞いて一緒に来たのだ。
 杏奈も友達と回る予定なので、合流したらそれぞれ別行動になる。
 校門からして装飾が凝っていて、文化祭の雰囲気が伝わってくる。
「すごっ」
 思わずそう呟いた。
「今年も気合い入ってるわね」
 杏奈が校舎を見上げながら言った。
 杏奈は去年の文化祭も、怜に案内してもらいながら回ったそうだ。
「時間までもう少しだし、あそこで待つ?」
 杏奈が指さしたのは、校門の近くにある大きな樹の下だった。
「ここなら目に入りやすいし、邪魔にもならないから」
「そうだね」
 俺たちは校門の外で待っていた。
 海里くんは朝のHRが終わったら迎えに来てくれることになっている。
 待ち合わせの時間まであと少し。
 ぼんやりと人の流れを眺めていると、不意に杏奈が声を上げた。
「あ」
 杏奈が前方に向かって手を振った。
「来た来た」
 二人の女の子がこちらへ駆け寄ってきた。
「ごめん、待った?」
「全然」
 杏奈が笑って答える。
 そのとき、友達の一人が俺を見て目を丸くした。
「うわ」
 何やら口元を押さえながら驚いた様子を見せる。
「ちょっ、杏奈の友達?」
「ん?ああ、従弟」
 二人の視線が俺に集まる。
 あまりにもじっと見られるので居心地が悪い。
 とりあえず軽く会釈をして、杏奈に手を振った。
 早く先に行ってくれ、という意味を込めて。
 杏奈は意図を察したのか、小さく頷く。
 けれど――。
「ねえ」
 杏奈が口を開くより先に、友達の一人が俺に声をかけてきた。
「従弟くんもよかったら一緒に回らない?」
「……はっ?」
 突然の言葉に、思わず固まった。
「友達もいるなら、その子も一緒にどう?」
「いや、やめときます」
 今度は即答できた。
「ええー」
 杏奈は友達の肩を軽く叩く。
「ナンパ失敗ね。ほら、行くわよ」
「少しだけでもどう?」
「あんたね」
 なおも食い下がらない友達に、杏奈が呆れたようにため息をつく。
「この子、困ってるからやめてあげなさい」
 杏奈があまりにもはっきり言うので、俺は苦笑しながら頭を下げた。
「ごめんなさい。二人で回る約束もしてるので」
「もしかして、彼女と?」
「違いますけど」
「なら――」
「伊吹」
 名前を呼ばれて顔を上げる。
 視線の先には海里くんが立っていた。
「海里くん!」
 思わず声が弾む。
「ごめん、待たせて」
「いえ、さっき来たところです」
 海里くんのもとへ駆け寄る。
 その背中を見送りながら、杏奈の友達が小さな声で呟いた。
「あー、なるほど」
「彼女じゃなくて、彼氏の方だったか」
 杏奈は、落ち込む様子を見せる友達の肩を軽く叩いた。
「杏奈も恋人がいるなら教えてよ」
「ごめんごめん。勝手に伝えるのはどうかと思って」
「ああ、そっか。ジェンダー問題になるもんね。ごめん」
「ううん」
 杏奈は振り返って二人の様子を見る。
「それにしてもお似合いだね」
「そうだね」
 ……確かに、これは勘違いするのも無理はない。
 でも、まだ付き合ってはいないのだろう。
 だって、いぶちゃんは分かりやすい。
 もし恋人になっていたのなら、今ごろもっと照れた様子を見せているはずだ。
 それに、付き合ったら真っ先に報告してくれる気がする。
「ほんと、いい雰囲気」
 二人の後ろ姿を見ながら、杏奈は小さく笑った。
 お互いを特別に思っていることくらいは、見ていれば分かった。
「わかったなら、さっさと恋人候補探しに行くわよ」
 杏奈はそう言って、友達の背中を押した。