従姉がナンパしたグループの一人は、俺が男だと知ったあとも距離を縮めてくる

 夏休みが終わり、新学期が始まった。
 久しぶりの学校は相変わらず騒がしく、教室のあちこちでは夏休みの思い出話が飛び交っている。
 翌日には課題テストがあり、それが終わると文化祭の準備も本格的になっていた。
 日が進むにつれて教室には段ボールや資材が増えていく。
 それはほかのクラスも一緒で、学校は文化祭一色になっていった。
「いぶ、運ぶの手伝って」
「うん」
 呼ばれて段ボールを運ぶ。
 放課後の教室は、いつもより少しだけ慌ただしかった。
 作業の合間に、ふとスマホを見る。
 画面には海里くんからのメッセージが届いていた。
 思わず口元が緩む。
 夏休みの間、俺たちは何度か一緒に出かけた。
 ショッピングモールへ行ったり、ご飯を食べに行ったり。
 海里くんの部活の試合を見に行ったこともあった。
 一緒に過ごす時間は、前よりずっと増えていた。
「何、携帯見て笑ってんの?」
 友達の悟(さとる)が不思議そうに覗き込んでくる。
「別に」
「恋人?」
 俺は首を振った。
「違うよ」
「じゃあ、気になる人とか?」
「……違うけど」
 そう答えたものの、なぜか一瞬だけ海里くんの顔が浮かんだ。
「違うんだ」
「なんで?」
「なんかニヤニヤしてたから、いい人ができたのかと思った」
 ニヤニヤか。
 俺はちらりと携帯を見た。
「先輩と話してただけ」
「へー、先輩とか珍しいじゃん」
「うん」
「仲良い先輩なんていたんだな」
「夏休みに知り合ったんだよ」
「なるほどね。だから最近よくスマホ見てたのか」
「え?」
「いつもは放課後くらいしか見ないのに、最近は放課でも見てるじゃん」
「そうだっけ」
 そんなに携帯を見ていただろうか。
「見てる見てる」
 悟は笑いながら頷いた。
「まあ、文化祭準備やろうぜ」
「ああ」
 俺は携帯をポケットにしまい、再び作業に戻る。
 段ボールをガムテープで留めながら、迷路の壁を作っていく。
 海里くんは今、クラスのみんなとダンスの練習中らしい。
 思ったより難しくて苦戦していること。
 でも、みんなで練習するのは結構楽しいこと。
 メッセージにはそんなことが書かれていた。
 本当は海里くんのダンスも見てみたかった。
 見られないのは残念だけど、文化祭は一緒に回る約束をしている。
 ……海里くんの学校はどんな感じなんだろうか。
 何から見て回ろうか。
 まだ先のことなのに、考えているだけで自然と口元が緩んだ。
「伊吹、手止まってるぞ」
「あ、ごめん」
 慌てて返事をして作業を再開する。
 文化祭が、今から待ち遠しかった。