従姉がナンパしたグループの一人は、俺が男だと知ったあとも距離を縮めてくる

 ホームで電車を待っていると、先に伊吹が乗る電車がやってきた。
 隣のホームにいる伊吹に軽く手を振ると、小さな手が振り返される。
 やがて電車が滑り込み、その姿が見えなくなった。
 発車を待っていると、伊吹が車内の奥からドアの近くまで移動してくる。
 俺を見つけた伊吹は、少し照れたように小さく手を振った。
 ……わざわざ来てくれたんだ。
 そう思った瞬間、頬が緩む。
「かわいいな」
 気づけば、そんな言葉が口をついて出ていた。
 発車のアナウンスが流れ、電車がゆっくりと動き出す。
 俺は見えなくなるまで手を振り続けた。
 以前の伊吹なら、きっと深々と頭を下げるだけだっただろう。
 自分から手を振ることなんて、なかったはずだ。
 少なくとも、前の俺たちの距離なら。
 あんなふうにわざわざドアの近くまで来てくれることもなかった。
 仲良くなれてる。
 そう実感できて、うれしかった。
 それに、来週の誘いを本当に受けてくれるとは思っていなかった。
「やばいな。うれしい」
 思わず笑みがこぼれる。
 次はどこへ行こうか。
 そんなことを考えているうちに、ホームへ自分の乗る電車が滑り込んできた。
 家に帰ると、リビングでは弟がソファに寝転がりながらスマホをいじっていた。
「おかえりー。遅かったね」
「ただいま。まあ、電車で出かけてたからな」
 冷蔵庫からお茶を取り出して返事をすると、弟がこちらを見てにやりと笑う。
「もしかして、デート?」
「いや、普通にお出かけ。それに相手は男だよ」
「ふーん、そうなんだ」
 弟がソファから体を起こす。
「でも、兄ちゃん。今どき男同士だからデートじゃないってのも違うと思うけど」
「ん?」
「ほら、俺たちの幼馴染もそうじゃん」
「ああ」
 言われてすぐに顔が浮かぶ。
 確かに、あの二人は付き合っている。
 昔から見慣れた光景すぎて、「男同士」ということをわざわざ意識したこともなかった。
「男だからって理由だけでデートじゃないとは言えないでしょ」
「そうだな」
「でしょ?まあ、男同士でもデートだと断定するのも違うか」
 弟はそう言うと、再び携帯ゲームに目を落とした。
 俺はお茶を飲み終えると、自分の部屋に戻ってベッドに寝転ぶ。
 弟に言われて、今日やったことを順に思い返した。
 課題を一緒にやって。
 一緒にご飯を食べて。
 あちこち見て回って。
 来週の約束もして。
 電車に乗る前には手を振り合った。
 そうして思い返していると、不思議と浮かぶのは伊吹の笑顔ばかりだった。
 楽しそうに笑う顔も。少し照れたように手を振る姿も。
 もっと見たいと思った。
 もっと一緒に出かけたいとも思った。
 そこでようやく気づく。
 ああ、俺は伊吹のことが気になっているんだと。
 そう自覚した瞬間、胸の奥が少しだけ落ち着かなくなった。
 これは友達に向ける感情とは、少し違う気がする。
 ……だとしたら。今日のあれは、デートだったのかもしれない。
 そう思うと、なんだかむず痒い気持ちになった。
 俺は照れ隠しのように寝返りを打った。