従姉がナンパしたグループの一人は、俺が男だと知ったあとも距離を縮めてくる

 ショッピングモールに着き、入口を見上げる。
「でか……」
 思わず声が漏れた。
 こんなに大きなショッピングモールに来るのは初めてだ。
 中に入ると、海里くんの後を追うように歩く。
 見たことのない店がいくつも並んでいて、ついキョロキョロと周りを見てしまう。
「……ふふっ」
 横を歩いていた海里くんが、微笑ましそうに笑った。
「そんなに珍しい?」
「はい。ここは初めて来たので」
「そっか」
 海里くんが笑う。
「じゃあ、上から順番に回っていく感じでいい?」
「はい!」
 海里くんと一緒に、エスカレーターへ向かった。
 エスカレーターを上がると、そこにもいくつもの店が並んでいた。
「こっちにもいっぱいありますね」
「うん。結構広いから、ゆっくり見て回ろう」
「はい」
 海里くんと並んで歩きながら、気になった店を覗いていく。
「ここの服、かっこいいですね」
「そうだね」
「こっちは雑貨屋……」
 見慣れない店が多くて、つい足を止めてしまう。
「あっ! ガチャガチャ」
「見てみよっか」
「はい!」
 並んでいるガチャガチャを一つずつ見ていく。
「楽しそうだな」
「はい。こういうの見てるだけでも楽しいです」
 海里くんが笑いながら、俺の歩く速さに合わせてくれる。
 一階下の階へ降りて歩いていると、見覚えのあるキャラクターが描かれた看板が目に入った。
「あ……」
「ん?」
「海里くんが言ってたの、あそこですか?」
 指を向けると、そこにはアニメグッズが並んだ店があった。
「お、見つけたな」
「行ってもいいですか?」
「もちろん」
「やった!」
 思わず声が弾む。
「そんなに楽しみだった?」
「はい!」
 海里くんが楽しそうに笑う。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
 俺は海里くんと並んで、アニメショップへ向かった。
 店の中に入ると、たくさんのグッズが並んでいた。
「わぁ……」
 目の前に広がるグッズを眺めながら、気になるものを一つずつ見て回る。
「伊吹」
 突然、海里くんに肩を軽く叩かれた。
「はい?」
「これ、伊吹の好きなやつじゃない?」
 海里くんが指差した先を見る。
「あっ、そうです!」
 好きな作品のグッズを見つけて、思わず顔がほころぶ。
「よく分かりましたね」
「前に話してたじゃん」
「覚えてたんですね」
「そりゃ覚えてるよ」
 そう言って海里くんが笑う。
「ここ、見ていいですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます」
 俺は棚に並んだグッズを眺めていると、海里くんが口を開いた。
「俺もこのアニメ見始めたよ」
「そうなんですか?」
「うん。伊吹がおすすめしてくれて、面白そうだなって思って」
「どうですか?」
「面白いね。まだ一シーズン目しか見れてないんだけど」
「その後も面白いですよ。ちなみに、今三シーズン目です」
「え、そんなにあるんだ」
「はい。今、放送してます」
「じゃあ、早く追いつかないとな」
「そうですね。続きも面白いですよ」
「伊吹はどのキャラが好きなの?」
「俺はこのキャラが一番好きです」
 そう言って、棚に並んだグッズを指差す。
「へえ。このキャラなんだ」
「はい。性格もかっこいいですし。あと、声も好きです」
「声?」
「このキャラの声優さん。俺がアニメを見て好きになるキャラクターって、だいたいこの声優さんなんです」
「そうなの? でも、確かに声が低くてイケボだったな」
「ですよね」
 自分と同じように感じてくれたことが嬉しくて、自然と笑顔になる。
「見終わったらまたおすすめ教えてくれる?」
「はい。もちろんです!」
 その後も店内を見て回り、気になったグッズをいくつか手に取っていく。
「これ、買おうかな」
「いいんじゃない?」
「はい。買ってきます」
 いくつか選んだグッズを持って、レジへ向かう。
 買い物を終えると、海里くんと一緒に店を出た。
 この階も一通り回り終えると、エスカレーターで一階へ降りた。
「次、どこから見たい?」
「うーん……あっち行ってみませんか?」
「うん。そうしよ」
 通路を歩きながら、いろいろな店を眺めていると、海里くんがふと足を止めた。
「ちょっと、スポーツ店みていい?」
「はい」
「タオル買いたかったんだよね」
「タオルですか?」
「うん。部活で使うやつ。そろそろ新しいの欲しくて」
 二人でスポーツ店に入り、タオルが並んでいる売り場へ向かった。
「結構種類ありますね」
「うん。どれにしようかな」
 海里くんが並んだタオルを一枚ずつ見ていく。
 その横で俺も何気なくタオルを眺める。
 ふと目に入ったのは、俺の好きな色のタオルだった。
「……この色」
 手に取ってみると、ふわりと柔らかい。
 指先で撫でると肌触りがよくて、思わず何度も触ってしまう。
「それ、いいの?」
 隣から海里くんが覗き込んできた。
「あ、はい。肌触りもよくて」
 そう言ってタオルを差し出すと、海里くんも触ってみる。
「あ、ほんとだ。気持ちいいな」
「ですよね。俺も買おうか迷ってきちゃいました」
「俺は、買おうかな」
 海里くんは別の色の同じ種類のタオルを手に取る。
「うん、肌触り好きだし。これにしようかな」
「はい。いいと思います」
「ちょっと、これ買ってくる」
 海里くんはタオルを手にレジへ向かった。
 その背中を見送りながら、俺は手にしていたタオルへもう一度視線を落とした。
「どうしようかな……」
 好きな色だし、肌触りもいい。
 だけど、今日ここに来た目的は別だったし、なくても困るものじゃない。
 棚へ戻しかけて、ふと手が止まる。
 海里くんが買ったのは、今俺が持っているのと同じ種類のタオルだ。
 俺も買ったら。
「……お揃い、か」
 思わず口にすると、少しだけ恥ずかしくなる。
  しばらく迷った末、俺は結局そのタオルを持ってレジへ向かった。
 列に並ぶと、少し前にいた海里くんがふとこちらを振り返った。
 そして俺の手にあるタオルを見つけると、一瞬だけ目を丸くする。
 けれど、俺たちの間には何人か並んでいて話せる距離ではない。
 海里くんは小さく笑うと、すぐに前を向いた。
 そのまま順番が来て、海里くんは先に会計を済ませていく。
 俺も会計を終え、待っていた海里くんのもとへ向かった。
 すると海里くんの視線が、俺の手に提げた袋へ向く。
「買ったんだね」
「はい。やっぱり気になっちゃって」
 そう言うと、海里くんは楽しそうに笑った。
「そっか。じゃあ、お揃いだね」
 さらりと言われた一言に、胸が少しだけ跳ねる。
「……そうですね」
  なるべく平静を装って答えると、海里くんは嬉しそうに頷いた。
「じゃあ、残りも見て回ろうか」
「はい!」
 その後も二人でいくつかの店を見て回り、気付けば外は夕方になっていた。
 ショッピングモールを出て駅まで歩く。
 その間も会話が途切れることはなく、気付けばあっという間に改札前へ着いてしまった。
「今日はありがとうございました」
 俺が頭を下げると、海里くんも軽く頭を下げる。
「こちらこそありがとう。楽しかったよ」
「俺もです」
 本当に楽しかった。
 一人だったら来ることもなかった場所だし、海里くんと一緒だったから余計に。
 少し迷ってから、俺は口を開いた。
「あの……また遊びたいです」
 海里くんが少し目を丸くしたあと、ふっと笑う。
「うん。俺もまた遊びたい」
 その言葉に、胸がじんわりと温かくなる。
 すると海里くんが冗談めかした口調で言った。
「じゃあ、来週は?」
「え?」
「なんてね。急すぎるか」
「いえ。俺、空いてます」
 反射的にそう答えると、海里くんが目を丸くした。
「ほんとに?」
「はい」
 冗談半分で聞いたつもりだったのだろう。
 海里くんは少し驚いたように俺を見ていたが、やがて嬉しそうに笑った。
「じゃあ、出かけよっか」
「はい!」
 即答すると、海里くんの笑みが少し深くなる。
「決まりだね」
 次の約束までできたことが嬉しくて、自然と口元が緩んだ。
「じゃあ、また来週」
「はい。また来週です」
 改札で別れたあと、俺は買ったばかりの袋を抱え直す。
 その中には、海里くんとお揃いのタオルが入っていた。
 来週が、今から待ち遠しかった。