従姉がナンパしたグループの一人は、俺が男だと知ったあとも距離を縮めてくる

「終わったー」
 最後の問題を解き終わると、俺はペンを置いた。
「お、もう終わった?」
「はい」
「早かったね」
 海里くんが少し驚いたように笑うと小論文のテキストを閉じた。
「凄い集中できたので」
「そっか。お疲れ様」
「海里くんもお疲れ様です。お陰で課題終わりました。ありがとうございます」
「こっちこそありがとう。それにしても、お腹空いたね」
「はい。ペコペコです」
「じゃあ、頑張ったご褒美に食べよっか」
「はい!」
 海里くんはそう言って、テーブルの端に置かれていたメニューを手に取った。
「何頼む?」
 メニューを開き、料理の写真を眺める。
「うーん……どれにしようか迷うな」
 どれも美味しそうで、なかなか決められない。
 ランチメニューに目を移すと、おすすめと書かれた料理が目に入った。
「俺は、あんかけスパにします」
「おすすめのやつ?」
「はい。人気とも書いてあるので」
「なるほどね」
 海里くんもメニューに目を落とす。
「海里くんは?」
「俺は……」
 少し考えたあと、海里くんはランチメニューのハンバーグを指差した。
「ガッツリ食いたいし、ハンバーグにするわ」
「美味しそうですね」
「でしょ。味見する?」
「いいんですか?」
「うん。伊吹も一口ちょうだいね」
「それはもちろん」
「あと、ポテト頼まない?二人で半分こしよ」
「はい。食べたいです」
「じゃあ、決まり」
 海里くんはテーブルの真ん中に置かれていた注文用のQRコードを携帯で読み込んだ。
 俺にも画面が見えるように、携帯をテーブルの上に置いてくれる。
「えーと……ハンバーグは、あった。飲み物は……アイスコーヒーにしようかな」
 海里くんが自分の注文を選択する。
 次に、俺が頼むあんかけスパを選択する。
「伊吹、飲み物は?」
「んー、アイスカフェオレで」
「了解」
 海里くんが画面を操作し、続けてポテトも注文する。
「これで大丈夫?」
「はい。大丈夫です」
「よし」
 海里くんが注文を確定する。
「楽しみですね」
「うん。めっちゃ腹減った」
 料理を待つ間、以前のやり取りを思い出した。
「そういえば、文化祭、夏休み明けって言ってましたよね?」
「うん」
「海里くんのところは、いつなんですか?」
「俺のところは9月18・19日だよ。伊吹は?」
「9月26・27日です」
「じゃあ、俺のところより一週間あとなんだ」
「そうですね」
「伊吹のクラスは何するの?」
「迷路です」
「へぇー、面白そうだね」
「はい。夏休み明けから準備に取り掛かるらしいです。海里さんは?」
「俺は、ダンス」
「え、見たい」
 思わず、食い気味に言ってしまった。
「校内発表の一日目だけなんだよね。一般公開は自由行動で、何もやらないんだ」
「あ、じゃあ、見られないんですね」
 そう聞いて、少し残念に思った。
「海里くんの高校って、文化祭が凝ってるって有名ですよね」
「そうだな。学校側も力入れてると思う」
「そうなんですね。怜から話は聞いてたので、一回は行ってみたいなーって思ってたんですよね」
「なら、今年来る?もし来れるなら、俺と一緒に回らない?」
「……一緒に?」
 思わず聞き返してしまった。
「うん。よかったらだけど、案内するよ」
「海里くんはいいんですか?友達と回らなくて」
「一日目に回る約束してるから大丈夫。それに、伊吹が来てくれるなら、一緒に回ってみたいな」
 思いがけない誘いに、胸が少し弾んだ。
「俺も海里くんと回りたいです」
「じゃあ、決まりだね」
「はい。楽しみです。今までの文化祭ってどんな感じだった?」
「俺は去年は……」
 その後も、海里くんからこれまでの文化祭でやったことや、ダンスで何を踊るのかなど、いろいろな話を聞いた。
 しばらくすると、ランチセットのサラダと飲み物が運ばれてきた。
「ありがとうございます」
 店員さんがテーブルを離れると、海里くんが飲み物を俺の前に置いてくれた。
「甘い方が好きなの?」
「はい。コーヒーも飲めるんですけど、苦くて。海里くんは苦い方が好きなんですか?」
「そうだね。こっちの方が好みかな」
 それからしばらくして、ポテトも運ばれてきた。
 俺はポテトを口に運びながら、さてどうしようかと考えた。
「あ、そうだ。駅前のショッピングモール、行ってみたいです」
「あそこ?」
「はい。前から気になってたんですけど、まだ行ったことなくて」
「なるほど。俺は何回か行ったことあるよ」
「本当ですか?」
「うん。いろんな店があるから見てるだけでも結構楽しいよ」
 海里くんの話を聞いているうちに、ますます興味が湧いてくる。
「じゃあ、そこにしようか」
「はい」
 行き先が決まると、タイミングを見計らったようにメイン料理が運ばれてきた。
 料理がテーブルに並べられると、食欲をそそる香りがふわりと広がった。
「うわー、すごいいい匂い」
「だな。味見、ここでいい?」
「はい」
 海里くんが料理を一口サイズに切り分け、俺の皿の端に置いてくれた。
「ありがとうございます」
 俺も同じように一口分を切り分け、海里くんの皿の端に置く。
「ありがと」
 二人で手を合わせ、早速料理に手を付けた。
「うまっ」
「美味しいです」
 海里くんがくれたハンバーグも口にすると、美味しくて、思わず頬が緩む。
「こっちもすごく美味しいです」
「だよな! 伊吹の方もうまいな」
 美味しくて、つい手が進む。
 気づけば、二人とも料理を食べ終えていた。
「美味しかったですね」
「うん。じゃあ、そろそろ行く?」
「はい」
 二人で席を立ち、店を出る。
「俺、久しぶりにショッピングモール行きます」
「そうなの?」
「はい。外にあまり出ないので」
「そうなんだ。俺はたまに行くな。そういえば、ここはアニメの店もあったよ」
「そうなんですか!」
「うん。グッズも結構売ってたから、伊吹の好きなのもあるかも」
「アニメ好きなの、覚えてくれてたんですね」
 自分の好きなものを覚えていてくれたことが嬉しくて、自然と頬が緩む。
「そりゃーね。着いたら、そこ行こうか」
「はい! 海里くんは行きたいところありますか?」
「んー、パッと思いつかないから、ぶらぶら見て回っていい?」
「はい!」
 こうして俺たちは次の目的地であるショッピングモールに向かった。