従姉がナンパしたグループの一人は、俺が男だと知ったあとも距離を縮めてくる

 おばさんに頼まれて、俺たちは貸し出し用品の受付と管理をする場所へ来ていた。
 返却されたものに故障がないか確認しながら、次の貸し出しに備えていく。
 作業を続けていると、杏奈がやってきた。
「遅かったな。何をそんなに話してたわけ?」
 怜がそう声をかけると、杏奈は少し笑って答えた。
「ん?ああ、いぶちゃんと仲良くなりたいって相談されてたの」
「俺?」
 まさか自分の話をされているとは思ってもみなかった。
「本当だよ。海里くんに相談されたんだから」
「海里さんが?」
 予想もしていなかった名前まで出てきて、俺はますます訳が分からなくなった。
「私、てっきり海里くんもいぶちゃんと同じタイプだと思ってたから、ちょっとびっくりしちゃった」
「何が?」
「人にあんまり興味がないタイプだと思ってたんだよねー」
 すると、隣で話を聞いていた怜が口を挟んだ。
「いや、そのはずだけど」
「ん? 怜って、海里くんと友達だったの?」
「いや、同じ学校なだけ。友達から聞く話や噂だと、そういう人らしいよ」
「へー。やっぱりそうなんだ」
 杏奈は、自分の勘が当たったことに満足そうな顔をする。
「ああ。いつメンくらいしか、自分から話しかけに行かないらしいし。他の人に話しかけられても、相槌を打つくらいで、あんまり反応しないって。SNSも鍵かかってて見れないから、女子たちが特に嘆いてたな」
 俺はそれを聞いて、首を傾げた。
 昨日の海里さんは、普通に話しやすいように声をかけてくれたからだ。
 俺が年下だから、気にかけてくれたのかな。
「杏奈たちは、海の家で知り合ったの?」
「いや、私がナンパした」
「は?」
 予想外の答えだったのだろう。怜が思わず声を漏らした。
「客として知り合ったわけじゃないのか?」
「うん。私が声かけに行ったの。ね」
 俺が頷くと、怜は目を見開いた。
「もしかして、いぶも一緒に連れてったの?」
「うん」
 怜の頬が、ぴくぴくと引きつった。
「いぶちゃんも男友達作れるから、いいかなーって思って」
「え?そうだったの?」
 それは初めて知った。
 てっきり、イケメンとの出会いだけを求めて向かったのかと思っていた。
 俺の反応を見て、怜も察したのだろう。
 俺が杏奈に無理矢理連れていかれたのだと。
「お前、またやったな!」
「本当に嫌がってたらやってないもん! 無理って言ってなかったのよ。いぶちゃん、本当に嫌だったら無理って言うでしょ」
 杏奈が言い訳するように続ける。
 怜が俺のほうを見る。
 どうだったんだ、と目で訴えているのが分かった。
「……嫌とは言った」
「杏奈!」
 怜が声を荒らげる。
「いい加減にしろよ。嫌だって言ってることを無理にさせるなよ」
「それは悪かったと思ってるわよ!でも、どうしても声かけたかったんだもん」
「一人で行けよ!」
「女一人で男三人のところに話しかけに行けっていうの!」
「一人で声かけられないんだったら、行かなきゃいいだろ!」
「それはそうだけど……」
 杏奈が不満そうに口を尖らせる。
「私だって彼氏が欲しくなったのよ。周りが彼氏持ちばっかりなんだもの。さすがに私も焦ってきたの!」
「そんなの知るか!お前はいつも自分勝手なんだよ。自分がどうしたいかばっかりで!いぶが優しいからって、甘えるなよ」
 怜が本格的に説教を始める。
 俺はこっそり入口のほうへ逃げた。
 ここで口を挟んだら、俺まで怒られることになりそうだからだ。
 嫌なら嫌って、ちゃんと言えって、また言われるに決まっている。
 俺は入口付近で立ったまま、外の様子を窺う。
 さすがに、こんなところをお客さんに見られるわけにはいかない。
 客が来たら、すぐに怜に知らせられるよう、ここで待つことにした。
 それからしばらくして、貸し出し用の浮き輪を手にしたお客さんが、こちらへ向かってくるのが見えた。
 どうやら返しに来たらしい。
「怜、客来た」
 俺が伝えると、怜は杏奈を見て、ため息をついた。
 それからまもなく、お客さんがレンタル小屋の中へ入ってきた。
 怜は気持ちを切り替えるようにして、お客さんの対応を始めた。
 そのあとは、お客さんが帰っても、怜が杏奈を説教することはなかった。
 どうやら、言いたいことは全部言ったらしい。
 しばらくして、怜が俺のほうを見る。
「んで、いぶは友達になったわけ?」
「友達ってほどじゃないけど……まあ、連絡は取り合い始めた」
 それを聞いて、怜は頬杖をついた。
「へー、珍しいじゃん」
「そう?」
「先輩相手に連絡先交換したんだろ?」
「うん」
「いつも先輩と話すのも緊張するって言ってるじゃん。そもそも話すところまでいかないから、連絡先交換することもないだろ」
「まあ……確かに」
 言われてみれば、その通りだった。
「でも、海里さんとは普通に話せたんだよね」
「へー。そんなに話しやすかったんだ?」
「ふーん……」
 怜はどこか複雑そうに笑った。
「良かったじゃん。話せる人ができて」
「うん」
 その様子を見ていた杏奈が、怜の顔を覗き込む。
「怜、寂しくなってるでしょ」
「は?」
 怜が怪訝そうに杏奈を見る。
「だって、いぶちゃんが他に気にする人ができたから。嬉しいけど、寂しいなーって感じ?」
「別に寂しくねーし」
「ほんとは?」
 杏奈がにやっと笑う。
「……ああ、そうだよ! 寂しいよ!」
 怜が開き直ったように言う。
「でも、いぶが一番心を開いてるのは俺だって分かってるから、いいんだよ」
「うわ、なにその自信?」
「ほんとのことだろ。な?」
 怜が俺のほうを見る。
 その視線を受けて、俺は頷いた。
「うん」
 すると、怜は少し照れたように笑った。
 そんな怜を見て、俺も自然と笑っていた。