男だと知っても、従姉がナンパした友達が俺との距離を縮めてくる

「あの子たち、イケメンじゃない?」
 肩を叩かれて振り返ると、海の家で一緒にアルバイトをしている従姉の杏奈(あんな)が、砂浜の方を指さしていた。
 言われるままにそちらへちらりと目を向ける。
 けれど、特に興味もなかったので、すぐに視線を外した。
「そうだね」
 適当に返事をすると、俺は仕事がないか辺りを見渡した。
「ちょっと」
 少し低い声で呼ばれ、俺は視線を戻した。
 杏奈は眉を顰め、じっと俺を見ている。
 その顔を見れば、何を言いたいのかはすぐに分かった。
 ――ちゃんと見ろ。
 そんな無言の圧に負け、俺は仕方なく、もう一度砂浜へ目を向けた。
「……どの人?」
「ほら、あそこ! 信号カラーの海パン三人組!」
 杏奈が指差した先へ視線を向けると、言われた通り、青・赤・黄色の海パンを履いた男たちが立っていた。
 立っているがーー。
「顔なんて全然見えないけど」
 ここからじゃ距離がありすぎて、輪郭すら曖昧だ。
「見えなくても分かるの。雰囲気でイケメンって」
 杏奈は自信満々に言い切った。
 どこからそんな自信が出てくるのか分からない。
 本当なら、「なんだ、その自信」と突っ込みたいところだ。
 けれど、そんなことを言えば、杏奈はきっと「女の勘よ」とでも言って、根拠のない自信を得意げに説明し始める。
 それを聞くのも面倒だった。
「……へぇ」
 とりあえず否定も肯定もしない返事をして、俺はそれ以上突っ込むのをやめた。
「なによ、その反応。もっと興味持ちなさいよ」
 杏奈は不満そうに俺を見る。
 いつもなら適当に聞き流すところだった。
 けれど、暑さと疲れのせいか、つい本音が口からこぼれた。
「いや、興味ないし」
 そう言って杏奈の顔を見る。
 ……あ。
 やらかした。
 案の定、杏奈は気に入らなかったらしい。
「もう!いぶちゃんはもっと人に興味持ちなさい」
 子どもに言い聞かせるような言い方に、俺は少しむっとする。
「持ってるよ」
「もっと!それで、イケメンの友達を作って私に紹介してよ」
「……はあ?」
 意味がわからないことを言われて、一瞬、思考が止まる。
「私もいい加減、彼氏が欲しいの。だから、イケメンと友達になってきて」
 いや、それなら自分で友達になればいいじゃん。
 そんなことのために、俺が知らない人に声を掛けて、仲良くなれと?
「めんどくさ……」
 また思わずこぼれた本音に、杏奈が眉を顰めた。
 俺は何か言い返される前に、視線を逸らした。
 これ以上相手をしていたら、また同じようなことを言われるだけだ。
 ちょうど目の前には、まだ片づけていない食器が残っている。
 俺はこれ幸いとお盆を持ち、杏奈から逃げるようにその場を離れた。