ざわりと教室の中の空気が揺らぐ。
「え? あれ、誰?」
「嘘、オタヨシ? あんな顔だった?」
「まっぶ」
ウッセー女子ども、こっち見んな。
ケガの治療のために切った横髪に合わせて、全体を短くカットした。おかっぱツーブロック?
なんと呼ぶのか知らないけれど、美容師は自分の腕を自画自賛していた。悪くはない、と思う。
ただ流行りの髪型だから、ダサいオタク風眼鏡が似合わない。もうどうにでもなれと覚悟を決め、吉井旺太十六歳、素顔をさらすことにした。
そして今がこの反応。くそ……おい、夏休みデビューとか言うやつやめろ。デビューじゃねえよ。誰も注目されたくないし。
休み前までなら全てを分厚い前髪でシャットアウトできた。でも今日は違う。
飛んでくる視線が刺さりそう。
窓側から二番目、前から三列目という微妙に中央に近い位置の席につく。
そしてギリギリに登校したおかげで二分後にはチャイムが鳴り、誰も俺に声をかけることもなく夏休み明けのだるい学校が始まった。
一限目が終わるとすぐ、女子たちがワラワラと俺の机の前に集まって来た。うわぁ、トイレに逃げる暇もねえ。
それを興味津々で他の生徒が見ているのを感じる。暇だな、お前ら。休みは休めよ。
「ねー、吉井君、イメチェンしたの?」
「可愛いじゃん。ハムスターみたい」
「目、くりくり」
うるさい。勝手に喋るな。顔に触ろうとするな。モンスターどもめ。
何が吉井君だ。これまで通りオタヨシって呼べばいいだろ。俺が許可してやるよ。
「……休み中に頭を怪我したから。その時に眼鏡も壊した」
眼鏡はまだ家にあるけど、壊れたということにする。
「え~、大丈夫だったの?」
「入院して検査して何もなかった」
「うそ! まじ? それやばいじゃん」
「えー、でもそれで髪切ったなら……ねぇ」
きゃーきゃーとこっちのことは全く気にもせず盛り上がっている。
ああ、もう疲れた。帰りたい。でも今日はどうしても学校に来る理由があった。
だから根性で休み時間の苦行を耐え、そして昼の時間が来た。
女子たちとはひたすら目を合わせず、耳にイヤホンを押し込む。いつも通りの超簡単おにぎり三つを口に詰め込めば、昼は終わる。
そして俺はトートバッグを持って立ち上がった。
この時間なら、学校に来ているのなら、チョータはあそこにいるはずだ。
