ゾウのおなかに一等星 ~偽タトゥーなあいつと擬態オタクな俺の恋~


 翌日、病院を無事退院した後、俺と母さんはまず近くの警察署に行った。
 改めて話し合って被害届を出すことにした。チョータの親だけどあいつは屑だ。
 あいつがいつまでもチョータの親面して、保護者ぶってチョータの権利を奪っていることに心底腹立つ。
 犯罪者として捕まえて、チョータを法的にも開放してやりたい。
 俺の考えに母さんは同意してくれた。母さんは保護者として俺と一緒に警察に付き添ってくれた。
 前もって病院に来た警察官に連絡を入れておいたおかげで、被害届の提出は思ったよりも時間がかからなかった。

 それから、俺は母さんとヨーコさんのところにお礼に行くことにした。
 途中寄った洋菓子店では、三千円と五千円の詰め合わせをそれぞれ買う。ヨーコさん個人用と他に俺を助けに駆けつけてくれた男性陣用らしい。細やかなことだ。
 それからあまり早い時間に押しかけても良くないだろうと、母さんと一緒にケーキセットを食べた。
 母さんは目を輝かせてゴッテゴテにチョコが乗ったケーキを頼んでいた。

「平日に休めるっていいわ」
「そりゃよかったね」

 もちろん、たまに有給休暇を取得しているのは知っている。リビングに「明日、休み」というメモがある日は起こさないようにそっと家を出ているから。
 でもそんな休みに何をしているのかは知らなかった。でも多分、甘いものとか普段食べないものを食べに行ってるんだろうな。横文字のお店の名前をいっぱい知ってるし。
 夏休みだと分かっていても、平日のこんな時間に母さんと一緒にケーキを食べているのは不思議な気分。

 そして四時過ぎにスナック・ヨーコを訪れた。

「あんた、無事でよかったよぉ、連絡くれて本当に……」

 皺皺な目元に涙を浮かべ、がっしりと俺の両腕を掴んだヨーコさん。
 小さな頃はチョータとオニババァなんて呼んでたこと、今更ながら申し訳なく思える。

「ありがとう、ヨーコさん」
「ありがとうございました、蓉子(ようこ)さん」
「まぁまぁ、こんな立派なもん、気にしなくてよかったのに」

 母さんから差し出された焼き菓子を受け取りつつ、ヨーコさんが破顔する。やっぱり洋菓子派だと思ってたんだ。

「ヨーコさん、あれからチョータは?」

 俺の質問にヨーコさんはふるふると首を振る。

「救急車が行った後、ちょっと喋ったけどぼんやりしててねぇ。昨日客を連れて家に見に行ったけど、バイトで留守だったみたい」
「そっか。俺、チョータのスマホ持ってるんだけどヨーコさんから返してもらえる?」
「……自分で、返さないのかい?」
「今は家に近づかない方がいい気がして」
「そう。分かった。渡しておくよ」
「ありがと」

 なんのカバーもかけてない、板だけのスマホをヨーコさんに手渡す。
 チョータに渡せれたらヨーコさんから連絡してくれるとのこと。本当に色々迷惑をかけた。
 帰り際、「また二人でおいで」と言われる。
 俺は、不恰好な笑みを返した。次が約束できなくて。

 そうして結局、夏休みの間チョータからは一度も連絡が来ることはなかった。