最高のダンスをあなたに

(あれっきり、だったな……)
 それから四年後。大学四年生になった直人は、一人暮らしのアパートで回想にふけっていた。
 竜平が言った日時に、直人はカラオケ店へ行かなかった。それ以降も、ずっとだ。松岡には、もう練習には付き合えないと告げた。
 その後大学へ進学してからは、女性と付き合う努力をしたが、どうしても無理だった。とうとう自分をゲイだと認めたのは、大学三年の時だった。
 その時直人は、勇気を出して松岡に、竜平の消息を尋ねた。すると何と、アメリカにいるという答が返ってきた。高校卒業後、本格的に演出を学ぶため、渡米したのだという。 
 相変わらずの前向きさに感嘆しつつも、直人は激しくショックを受けた。虫のいい話だとわかっていたが、会いたかったのだ。でも、もはや叶わない夢だった……。
(僕にとってあれは、初恋であり、唯一の恋だった)
 直人は、しみじみと振り返った。自分をゲイと認めて以降、男性と付き合ったこともあるが、長続きはしなかった。心のどこかに、竜平が住み着いていたからだった。
(それに竜平は、僕の人生を変えてくれた……)
 現在直人は、理学療法士の資格取得を目指して勉強している。病院へ実習へ行くこともあるが、実際に患者と接し、現場の様子を見ていると、実にやり甲斐のある仕事だと思う。あの時医学部を諦めて正解だったと、心から思えた。そして交通事故に遭った患者に遭遇する度、直人は必ず竜平のことを思い出すのだった。
(――せめて、あの曲を聴こうか)
 あれ以来直人は、『最高のダンスをあなたに』を聴かなくなった。だが今夜は、久しぶりに聴いてみたくなった。
 スマホで、無料動画サイトを開く。検索すると、曲の動画はたくさんアップされていた。コメントも、たくさん付いている。そんな中、とあるコメントに、直人の目は留まった。
『思い出の曲です。四年前、好きな年上の人がいました。その人に見せたくて、一生懸命振り付けを練習した記憶があります……。結局見せられなかったけれど、今でも彼が好きです』
 ぎゅん、と心臓をつかまれた気がした。おそるおそる、投稿主のユーザーネームを確認する。
(――R・K)
 直人は震える手で、コメントに返信し始めた。この投稿主は、竜平なのか……。
(もしそうなら。彼は、今でも僕を好き……?)
『R・Kさんへ。もしかしたら僕は、君の言っている人かもしれない。そうであれば、謝りたい。最後の日に言ったことは、全部嘘だ。ずっと、君が好きだった。今でも、その気持ちは変わらないよ。N・S』
 一気に入力して、直人は詰めていた息を吐いた。気持ちを伝えられたことに、ほっとしたのだ。ただ一つ不安なのは、これが本当に竜平なのかということだった。
(もし、別人だったら……)
 その時、パッと返信が表示された。
『N・Sさんへ。俺はずっと、あなたのことを考えていました。その時間は、とても貴重なものでした。失った物のことを考えていた時間は、決してもったいないものではありませんでしたよ』
(――竜平だ)
 直人は、確信した。これは、初対面の時に彼が告げたフレーズだ……。
 こらえきれず、涙が頬を伝った。