最高のダンスをあなたに

 カラオケタイムは、たいそう盛り上がった。竜平は、親世代の邦楽に熟知しており、直人とは大いに意見が合った。すると松岡は、こんなことを言い出した。
「関根が初対面の奴とこんなに打ち解けてるとこって、初めて見たわ」
「そう……かな?」
 確かに、竜平は話しやすかった。まるで、以前から知り合いだったかのようだった。
「俺も、関根さんと話すの楽しいですよ」
 竜平は、にこにこしながら言った。
「今度は、関根さんの好きな歌を教えてくれません?」
「そうだな……。一番好きなのは、『最高のダンスをあなたに』かな」
 すると竜平は、身を乗り出した。
「あ、あの曲! 俺も大好きです」
 松岡も、知った様子でうなずいている。『最高のダンスをあなたに』は、二十年以上前に大ヒットした曲だ。明るいメロディと、アイドルが披露したキレのあるダンスが、爆発的な人気を得たのである。
「あのダンスも、好きなんだよな……、あ」
 そこで直人は、思い出した。
「そういえば、竜平ってダンスやってたんだよな?」
 そこへ、松岡の鋭い声が響いた。
「その話題は止せ」
 松岡は、驚くほど険しい表情をしていた。
「大丈夫ですよ、松岡先輩」
 竜平は、松岡に向かってきっぱりと告げると、直人の方へ向き直った。
「実は俺、プロダンサーを目指してたんです。でも、高校入学前に交通事故に遭って、足の関節をやられたんです。それで後遺症が残って……。医者には、本格的にダンスを続けるのは諦めろと言われました」
「こいつのダンスはさ、並のレベルじゃねえんだぜ?」
 松岡が、悔しそうに顔をゆがめる。
「ガキの頃から注目されてて、中学時代には、もうバックダンサーとして活躍してた。将来性間違いなしって言われてたのに……」
「……ごめん」
 申し訳なく思い、直人は頭を垂れた。だが竜平は、意外にもかぶりを振った。
「いいんですよ。ある意味事故は、いいきっかけになったと思っています。あの時に俺、自分の進路を考え直しましたから。それで、演出家を目指そうと決めました。元々、振付や構成を考えるの、好きでしたし……。第一、失った物のことを考えていたら、時間がもったいないじゃないですか」
 竜平は、真っ直ぐな瞳で語っている。強がりではなく、心底そう思っているのが感じられた。
(時間がもったいない、か……)
 その言葉は、高校受験の失敗を引きずっている直人の胸に響いた。