「なあなあ、不思議じゃない?
こいつが高校にいるの?」
「その頭、勉強じゃなくて、
便器用なんじゃない?」
……・・・ ・ ・ ・
ぽた、ぽた、私の頬のそばを、水が滴る。
放課後、トイレ、個室。
私は、頭が、悪い。
呪いのようにその言葉が。
頭の中を渦巻いて流れない。
気配。
トイレの入り口。
誰かが、入ってくる。
気配だけ、足音は無くて。
ザバッ 水を捨てる音?
キュるキュる 蛇口を捻る音?
ジャー、こっこっ 水を注ぐ音?
コトン 何かを置く音?
そして、音が消えて。
いなくなった? と、思ったら、
コンコンコン!
「ひゃっ、入ってますっ!」
潜めていた声は裏返り、思わず大きな声で。
「入っているのは、知ってるよ。
出したいんだよ、僕は」
えっ? ぼぼぼ、僕?
低い声、おとっ、えっ?
「でっ、出てってください」
「いやいや離しがしたいだけなんだ」
「話すことなんてありません」
「離しと話しでズレてるな。
中に入れて、出すだけなんだ」
「中? ばかじゃないのっ。
馬鹿じゃない?
変態。死ね」
「なんか、バカなことを考えてるなあ。
馬鹿は化かされやすいからなあ。
なんだかもう、面倒だ。
啓蒙啓蒙。もう開くよ」
ガチャっ。
内鍵が、外から? 開けられたっ!
「いやっ」
外へと逃げる扉を、押さえようと、
立ち上がるも。扉は引かれていく。
勢いのまま、私は。外に。
ポフ。ぶつかる。学ランの黒。
頬に当たる冷たい金ボタン。
「きゃぁっ、
私の叫ぶ口を鷲掴まれ、
んむ」
「おっと悲鳴は、やめてくれ。
音量で怨霊にでもなられちゃ困るからね」
胸に抱かれたまま、ん、胸に? 柔
柔らかい? 手で口を塞がれたまま、
私は見上げる。
目が、合う。長い、まつ毛。女の子?
分からない。息が、出来ない。
「おっと、いけない。
もう、大声を出さないと誓えるかい」
コクコクと私は、頷いた。
口から、手が外れた。
「ぶはっ。はっ、はっ、はあ。
お、おと、おと」
「おっとこんな格好じゃ分からない?
男じゃないよ。女だよ。
ほら、下に、何も付いていない」
彼女?が身を引いた。
下には、本当に何も付いていない!
足が、下半身が、胴から下が、ない!
上半身だけで、私を見下げ、浮いている!
「僕は、男装の麗人で。断層の霊人なのさ。
重ね言葉で、存在を重ねている」
そう言って、彼女は胸を張って。
鮮明な上半身の切断面を見せてくる。
「うっ、おええええ」
私は、個室に戻って。思い切り戻した。
「うっ。あなたって、一体」
「半分しかないから半体さ、は冗談。
いけないね、上段だけで生きてるもので。
下らない話しは置いておこう。
改めまして自己紹介を。
僕は、改談師、交談師、駄洒霊媒師。
この学校と提携している、さ。
提携提携で。テケテケさん。
とでも呼んでくれ」
「怪談? 講談? 駄洒落? 霊媒師?
てて、提携って? なな、なんの?」
「なななんの、と言われれば
七難を完成させない仕事」
「なななん?」
「七難。七不思議。学校の怪談。
七つ目を知った人には〜、
って知らない?」
「知ってますけど」
「七つ揃えばアンラッキーセブン。
不幸の洪水、百鬼夜行。
僕は七不思議が完成しないよう。
あの手この手で、テケテケするのさ」
「てけてけ?」
「色々な方法があるけど。今回は、交換さ」
「交換?」
「君と、あれを」
私の鼻を指し、そして、
トイレの洗面台の方を指した。
ザバッ
キュるキュる
ジャー、こっこっ
コトン
ああ、あの音は。
鏡と鏡の間。
花瓶が置いてあった。
「七不思議ってのはね、
一つの場所に一不思議なのさ。
地縛霊の一種。
場所からの力を受けてるからね。
君の名前のように。ね。
トイレの花子さん」
「……えっ、花子さん? えっ、私?」
「そう、君がトイレの花子さんなんだ。
君がトイレでメソメソ泣くから。
噂が立った。一人歩きで。走り回った。
そこで、僕は交換する。
交換する。交談師。
改める。改談士。
学校の全てのトイレに花瓶を置いて。
毎日毎日、新しい花に替えた。
トイレの花交換さ」
「トイレの、花、交換?」
「そう、言霊の事騙し。
駄洒霊媒師の逆術。
トイレの花子さんから、
トイレの花交換へと、
怪談改め、改異譚へと」
彼は、花を、一輪。私に渡した。
指を指す。花瓶の方に。
私は進む。並ぶ鏡。
鏡に、背中に、揺らめく何か。
「振り向いては駄目。真っ直ぐ進む」
私は、花瓶の前。
花の茎をそっと、沈めた。
ふっと、浮かび上がるよう。
肩が、軽くなった。
「さあて、花の色は、移りにけりな。
離しは、終わり。
といっても、対症療法。
根治にはまだまだ。
こっちの話に戻ろうか?」
「こっちの話?」
「君だよ。君が泣くから、
こんなことになったの。
勉強が出来ないんだって?」
「はい勉強に、ついていけなくて」
「ついていけなかったのは。
憑いて、いけなかったからさ。
だって、トイレの花子さんは、
小学生の女の子。
高校生の勉強なんて、
ついていけるわけがないさ」
「じゃあ、私は」
「馬鹿に、化かされてたのさ。
さて、人を呪わば穴二つ。
呪い返しの倍返し。
君に花子さんを憑かせたやつに。
悪い不思議に会いに行こう。
二人の駄洒霊媒師にね」
こいつが高校にいるの?」
「その頭、勉強じゃなくて、
便器用なんじゃない?」
……・・・ ・ ・ ・
ぽた、ぽた、私の頬のそばを、水が滴る。
放課後、トイレ、個室。
私は、頭が、悪い。
呪いのようにその言葉が。
頭の中を渦巻いて流れない。
気配。
トイレの入り口。
誰かが、入ってくる。
気配だけ、足音は無くて。
ザバッ 水を捨てる音?
キュるキュる 蛇口を捻る音?
ジャー、こっこっ 水を注ぐ音?
コトン 何かを置く音?
そして、音が消えて。
いなくなった? と、思ったら、
コンコンコン!
「ひゃっ、入ってますっ!」
潜めていた声は裏返り、思わず大きな声で。
「入っているのは、知ってるよ。
出したいんだよ、僕は」
えっ? ぼぼぼ、僕?
低い声、おとっ、えっ?
「でっ、出てってください」
「いやいや離しがしたいだけなんだ」
「話すことなんてありません」
「離しと話しでズレてるな。
中に入れて、出すだけなんだ」
「中? ばかじゃないのっ。
馬鹿じゃない?
変態。死ね」
「なんか、バカなことを考えてるなあ。
馬鹿は化かされやすいからなあ。
なんだかもう、面倒だ。
啓蒙啓蒙。もう開くよ」
ガチャっ。
内鍵が、外から? 開けられたっ!
「いやっ」
外へと逃げる扉を、押さえようと、
立ち上がるも。扉は引かれていく。
勢いのまま、私は。外に。
ポフ。ぶつかる。学ランの黒。
頬に当たる冷たい金ボタン。
「きゃぁっ、
私の叫ぶ口を鷲掴まれ、
んむ」
「おっと悲鳴は、やめてくれ。
音量で怨霊にでもなられちゃ困るからね」
胸に抱かれたまま、ん、胸に? 柔
柔らかい? 手で口を塞がれたまま、
私は見上げる。
目が、合う。長い、まつ毛。女の子?
分からない。息が、出来ない。
「おっと、いけない。
もう、大声を出さないと誓えるかい」
コクコクと私は、頷いた。
口から、手が外れた。
「ぶはっ。はっ、はっ、はあ。
お、おと、おと」
「おっとこんな格好じゃ分からない?
男じゃないよ。女だよ。
ほら、下に、何も付いていない」
彼女?が身を引いた。
下には、本当に何も付いていない!
足が、下半身が、胴から下が、ない!
上半身だけで、私を見下げ、浮いている!
「僕は、男装の麗人で。断層の霊人なのさ。
重ね言葉で、存在を重ねている」
そう言って、彼女は胸を張って。
鮮明な上半身の切断面を見せてくる。
「うっ、おええええ」
私は、個室に戻って。思い切り戻した。
「うっ。あなたって、一体」
「半分しかないから半体さ、は冗談。
いけないね、上段だけで生きてるもので。
下らない話しは置いておこう。
改めまして自己紹介を。
僕は、改談師、交談師、駄洒霊媒師。
この学校と提携している、さ。
提携提携で。テケテケさん。
とでも呼んでくれ」
「怪談? 講談? 駄洒落? 霊媒師?
てて、提携って? なな、なんの?」
「なななんの、と言われれば
七難を完成させない仕事」
「なななん?」
「七難。七不思議。学校の怪談。
七つ目を知った人には〜、
って知らない?」
「知ってますけど」
「七つ揃えばアンラッキーセブン。
不幸の洪水、百鬼夜行。
僕は七不思議が完成しないよう。
あの手この手で、テケテケするのさ」
「てけてけ?」
「色々な方法があるけど。今回は、交換さ」
「交換?」
「君と、あれを」
私の鼻を指し、そして、
トイレの洗面台の方を指した。
ザバッ
キュるキュる
ジャー、こっこっ
コトン
ああ、あの音は。
鏡と鏡の間。
花瓶が置いてあった。
「七不思議ってのはね、
一つの場所に一不思議なのさ。
地縛霊の一種。
場所からの力を受けてるからね。
君の名前のように。ね。
トイレの花子さん」
「……えっ、花子さん? えっ、私?」
「そう、君がトイレの花子さんなんだ。
君がトイレでメソメソ泣くから。
噂が立った。一人歩きで。走り回った。
そこで、僕は交換する。
交換する。交談師。
改める。改談士。
学校の全てのトイレに花瓶を置いて。
毎日毎日、新しい花に替えた。
トイレの花交換さ」
「トイレの、花、交換?」
「そう、言霊の事騙し。
駄洒霊媒師の逆術。
トイレの花子さんから、
トイレの花交換へと、
怪談改め、改異譚へと」
彼は、花を、一輪。私に渡した。
指を指す。花瓶の方に。
私は進む。並ぶ鏡。
鏡に、背中に、揺らめく何か。
「振り向いては駄目。真っ直ぐ進む」
私は、花瓶の前。
花の茎をそっと、沈めた。
ふっと、浮かび上がるよう。
肩が、軽くなった。
「さあて、花の色は、移りにけりな。
離しは、終わり。
といっても、対症療法。
根治にはまだまだ。
こっちの話に戻ろうか?」
「こっちの話?」
「君だよ。君が泣くから、
こんなことになったの。
勉強が出来ないんだって?」
「はい勉強に、ついていけなくて」
「ついていけなかったのは。
憑いて、いけなかったからさ。
だって、トイレの花子さんは、
小学生の女の子。
高校生の勉強なんて、
ついていけるわけがないさ」
「じゃあ、私は」
「馬鹿に、化かされてたのさ。
さて、人を呪わば穴二つ。
呪い返しの倍返し。
君に花子さんを憑かせたやつに。
悪い不思議に会いに行こう。
二人の駄洒霊媒師にね」


