ミステリアスで寡黙なエースは、恋愛をしたら変わりすぎる!

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週が明けて月曜日の放課後。
放送部、部室。


「蒼也のインタビューを取り直すことにする」


俺の宣言を聞いて、パソコンを見ていた多田が、過去の動画一覧を開いて見せた。


「過去の企画も見直して、反省点を洗い出すか。ちなみに、【突撃!職員室の昼ご飯】は60再生」


過去に俺が作った企画。
レポーター役の俺とカメラの宮本が昼休みの職員室に突撃し、そこにいる先生からひたすらお昼ご飯を見せてもらう企画だ。


始めてみると、学校近くの弁当屋を利用している先生があまりにも多く、ふたを開けても開けても同じ日替わり弁当だったのが惜しまれる。


なお、放送部顧問の加納先生の弁当は、自作だった。


とても美味しそうだったので、物欲しそうな顔をしたら、俺と宮本に卵焼きを1つずつくれた。卵焼きは甘い出汁の味がした。


「結構いけると思ったんだけどなあ…宮本の撮る画面はめっちゃ綺麗だし」


映像のセンスに長けた宮本が撮る画は、本当に美しい。
PCの中では、550円の日替わり弁当が無駄に美しく映し出されている。


「被写体がよくないんですよ。弁当とか。しかもほとんど同じ弁当」


宮本が面白くなさそうに言った。


「それは悪かったって!」


弁当が美味しそうに撮れるのはすごい技術なのではないかと思ったが、宮本が不服そうだったので言わなかった。


「やはり被写体は重要か…やはり蒼也しかない! 次の作戦を伝えてくる!」
「次の作戦?」


俺はリュックを掴むと、部室を飛び出した。


サッカー部の練習は終わりかけていた。


部員たちに混ざって、蒼也もボールやコーンを片づけていた。
片付けが終わるのを隅っこで待つ。
やがて蒼也がこちらへやってきた。


「次の作戦を考えたんだ」


いきなり現れた俺に、蒼也は見慣れつつある変な生き物がまた現れたみたいな顔をした。


「玲生」
「いきなり自分の感情を出すのはハードルが高いのかもしれない。そこで…」


もったいぶって溜めた俺の言葉の続きを、蒼也は大人しく待っていた。




「まずは自分の感情じゃなくていい! 一緒に映画を観て、登場人物が何を考えていたのか話そう!」
「……?」


蒼也はわずかに首を傾げた。


「練習ですか」


真面目な顔で聞かれたので、俺も精いっぱい神妙な顔をして返す。


「練習です」
「行きます」


蒼也は真剣な顔で頷いた。


俺は内心、ほくそ笑んだ。


やっぱり【練習】は、蒼也のキラーワードだ。


■
次の日曜日の朝。


ショッピングセンターの中の映画館で、蒼也と待ち合わせていた。


「練習のために、感情の振り幅が大きいテーマの映画を選んだ」

さりげなく練習という言葉を混ぜると、蒼也は深く頷く。
問題はそのテーマだ。


「青春恋愛もの……」


急にがくんと元気がなくなった俺を、蒼也が不審そうに見てくる。
誠に遺憾だが、やむを得ない。


映画館を訪れている人も俺たちのような学生が多い。デート風の男女も結構いる。


映画のキービジュアルは青空をバックにした青春活劇風で、独特のタイトルが添えられていた。


『透明なクワガタはいなくなった』


「タイトル、おかしくないですか」
「そうかな〜?」


珍しく蒼也がツッコミをしたのに、これから恋愛を鑑賞するプレッシャーに緊張していたせいで拾えなかったのが悔やまれる。


しかしすぐに、映画館の雰囲気に高揚してきた俺は、物販に吸い寄せられていった。


「ポップコーン買お! おごるから」
「いただきます」


後ろからついてくる蒼也が、館内の女子の視線をちらちら集めているのがわかる。
スラリと背が高くて目立つのだ。


――さすがイケメン。


蒼也を被写体にすれば、宮本ならさぞかし美しい画にするだろう。
500再生が、少しだけ現実味を帯びた気がした。
俺は打算的にニヤリとしたが、蒼也には気づかれなかった。


映画が始まってからは忙しかった。


登場人物たちに乗り移り、笑って、息を呑んで、また笑った。


幼なじみの女子との別れのシーン。
海が見える絶景のバス停。主人公は何度も好きだと言おうとするが、結局言えない。


幼なじみは主人公と別れたあと、一人で顔を覆った。


(好きなのに、分かってもらえないなんて辛すぎる。気づいてやれよ……)


涙があふれる。


物語の中で時間が巻き戻り、二人は再びあのバス停に立つ。
今度は主人公が、幼なじみの震える手に気づく。


(やればできる! 絶対言え!!)


離れたくない、好きだと主人公が告げた途端、幼なじみの笑顔が歪む。


(よかったーー!!)


幼なじみは、隠さざるをえなかった気持ちをやっと見つけてもらえたのだ。
分かった瞬間、また号泣した。


一方、隣の蒼也はそこに存在しただけでほとんど姿勢を変えなかった。
気のせいかもしれないが、何度かこちらを見たような気がした。


たぶん、また少し引いていたのだろう。


ポップコーンは半分以上残った。
俺は感情の振れ幅に忙しく、蒼也は映画でポップコーンを食べるという習慣がないようだった。
あとで蒼也と半分にして食べよう。

スタッフロールとともにエンディング曲が流れ、館内が明るくなる。


「うう……だから恋愛は無理なんだって…」


情緒が限界だった。
二人が結ばれてよかった。
ハンカチを持ってくればよかった。


盛大に鼻をすする俺に、蒼也はポケットから綺麗に折り畳んだ大きなハンカチを取り出し、無言で差し出した。


「ありがと…」