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それから三日後。土曜日の午後。
時間通り待ち合わせ場所に才川は現れた。
その姿に気がついて大きく手を振ると、才川はぺこりと小さくお辞儀をした。
夏服のシャツの袖には、一年の印のネイビーの校章。
部活終わりらしく、デカい荷物を肩からかけている。
俺は今日は部活がないので、私服だ。
「来てくれて、嬉しー!」
周りをぐるぐる回っても、才川は冷静だった。
スムーズにカラオケを楽しむため、決めておいたある提案をすることにする。
「今日は友達というていでいくので、敬語はなしでいこう!」
「先輩にそれはできません」
即断られる。
「さすが体育会系…。じゃあ努力目標にしよう…。じゃあさ、下の名前で呼びあうことにしよ! 蒼也!」
蒼也はわずかに動きを止める。
俺が「俺の名前は…」まで言ったところで、蒼也が口を開いた。
「玲生さん」
「おお! 俺の名前知ってくれてた!? 嬉し~!」
嬉しくてその場で飛び跳ねてしまう。
「あっ、さんはいらないから!」
「……玲生」
「おお! 行こう蒼也!」
俺がカラオケで受付をする後ろで、蒼也は料金表や奥へ続く長い廊下を、物珍しげに見ていた。
狭いカラオケの廊下。
蒼也は周囲の部屋から爆音が漏れてくるのに目を丸くし、俺の後ろについてくる。
ドリンクバーで俺はコーラを、蒼也はオレンジジュースを入れた。
暗いカラオケの部屋に入ると、蒼也は今度はモニターや分厚いリモコンを不思議そうに眺めていた。
座って、それぞれ飲み物を飲んで一息ついてから、俺はおもむろに立ち上がった。
「じゃーまずは俺が歌うね! セトリ作ってきたから」
一瞬、カラオケの機器から流れ出る音のでかさに蒼也がビクっとする。
選び抜いたセトリ。アイドル曲は振りも練習してきた。
やばい楽しくなってきた!
1曲目ですっかりテンションの上がった俺は、2曲、3曲と一人で歌って踊る。
蒼也は隅っこでオレンジジュースを持って小さくなっていた。
歌って踊りきって一息つく。
蒼也は鳥の求愛ダンスでも目撃したような顔をしていた。
これは求愛じゃなくって、感情表現の練習なんだけど。
「勢いで感情を出すのがいいんじゃないかと思って、だんだんテンションが上がるようにセトリを作って、ダンスの振りも練習してきた! どう? 歌ったり叫んだりしたくならない!?」
「よくわかりません」
「そっか~」
音楽を止める。
この作戦は失敗かもしれないと思い、俺は考え込みながらいったん座ってコーラをすすった。
蒼也が珍しく自分から口を開いた。
「どうしてこんなにしてくれるんですか?」
蒼也の方から俺に質問してきたのは、たぶん初めてだと気づいて、その顔をじっと見てしまう。
「えっ…? 面白いから」
蒼也は今度は宇宙からやってきた生き物を見るような目で俺を見ていた。
「面白い」は、まずかったかもしれない。
だって今日は蒼也の練習のために来てるんだし。
「あっごめん…俺ばっかり楽しくなってて」
「もう一回、歌って踊ってもらえますか」
「えっ!? アンコール!? やっぱりよかった!?」
蒼也が俺に何かを望んだのは、たぶん初めてのことだった。
間髪入れずマイクを手に取る俺。
「任せろ! 実はアンコールに備えて、もう1曲準備してあるんだ」
隠し手札として準備していた曲を、素早く入れる。
蒼也は歌い踊る俺を、真剣な顔で凝視していた。
「ふう…。でかいステージを目指したくなってきた」
一曲が終わりマイクを置く。
「一緒に武道館目指さない? 蒼也のルックスがあればいけるかもしれない」
「サッカーしたいので」
「そうだったあ~」
一息ついた俺たちはドリンクバーに行き、それぞれ違う飲み物を入れると、部屋に戻った。
「そうだ、写真撮ろ〜!」
いいことを思いついたと自信満々の俺に、蒼也は戸惑いを見せる。
「何のですか?」
「え? そんなのもちろん俺たちの写真に決まってるじゃん。楽しかった記念」
俺はその場で蒼也と俺に向けてスマホを構える。
「もうちょっと近づいて」と手招きすると、蒼也は律義にフレームの中に収まった。
撮れた画像を見ようと、二人でスマホを覗き込む。
とりあえず収まっているだけなのに、イケメンはいるだけで目を引く。
「写真もイケメンだなあ。送るから、蒼也の連絡先教えて!」
蒼也は素直にスマホを取り出した。
蒼也のアイコンは、人懐こそうな目の小さな白い犬だった。
「この犬、家で飼ってるの?」
「うちのベルです」
「かわいい! 他に写真ある!?」
蒼也は頷くと、スマホにあるベルの写真を何枚か見せてくれる。
ご飯を食べているベル。河川敷を散歩するベルの背中。トリミングしたばかりのベル。
ベルの写真を見る蒼也の目は優しかった。
ベルの表情からも、蒼也のことが大好きなのが伝わる。
ベルには、言葉がなくても、蒼也の気持ちがわかるんだな。
手を振って蒼也と別れてすぐ、撮った写真とメッセージを送った。
『今日はありがと! 楽しかった〜! またどっか行こうね!』
『ありがとうございました』
『敬語いらないよ!?』
しばらくして、返信が来た。
『先輩なので』
『そっか〜!』
二人の写真を見返してみる。
歯を見せて大笑いしながらピースサインを作っている俺と、とりあえず収まってこっちを見ているだけの蒼也。
やっぱり、俺が楽しかっただけになってしまった。
よく考えたら、蒼也はカラオケってキャラじゃないだろ。
次は違う方法を考えよう。
それから三日後。土曜日の午後。
時間通り待ち合わせ場所に才川は現れた。
その姿に気がついて大きく手を振ると、才川はぺこりと小さくお辞儀をした。
夏服のシャツの袖には、一年の印のネイビーの校章。
部活終わりらしく、デカい荷物を肩からかけている。
俺は今日は部活がないので、私服だ。
「来てくれて、嬉しー!」
周りをぐるぐる回っても、才川は冷静だった。
スムーズにカラオケを楽しむため、決めておいたある提案をすることにする。
「今日は友達というていでいくので、敬語はなしでいこう!」
「先輩にそれはできません」
即断られる。
「さすが体育会系…。じゃあ努力目標にしよう…。じゃあさ、下の名前で呼びあうことにしよ! 蒼也!」
蒼也はわずかに動きを止める。
俺が「俺の名前は…」まで言ったところで、蒼也が口を開いた。
「玲生さん」
「おお! 俺の名前知ってくれてた!? 嬉し~!」
嬉しくてその場で飛び跳ねてしまう。
「あっ、さんはいらないから!」
「……玲生」
「おお! 行こう蒼也!」
俺がカラオケで受付をする後ろで、蒼也は料金表や奥へ続く長い廊下を、物珍しげに見ていた。
狭いカラオケの廊下。
蒼也は周囲の部屋から爆音が漏れてくるのに目を丸くし、俺の後ろについてくる。
ドリンクバーで俺はコーラを、蒼也はオレンジジュースを入れた。
暗いカラオケの部屋に入ると、蒼也は今度はモニターや分厚いリモコンを不思議そうに眺めていた。
座って、それぞれ飲み物を飲んで一息ついてから、俺はおもむろに立ち上がった。
「じゃーまずは俺が歌うね! セトリ作ってきたから」
一瞬、カラオケの機器から流れ出る音のでかさに蒼也がビクっとする。
選び抜いたセトリ。アイドル曲は振りも練習してきた。
やばい楽しくなってきた!
1曲目ですっかりテンションの上がった俺は、2曲、3曲と一人で歌って踊る。
蒼也は隅っこでオレンジジュースを持って小さくなっていた。
歌って踊りきって一息つく。
蒼也は鳥の求愛ダンスでも目撃したような顔をしていた。
これは求愛じゃなくって、感情表現の練習なんだけど。
「勢いで感情を出すのがいいんじゃないかと思って、だんだんテンションが上がるようにセトリを作って、ダンスの振りも練習してきた! どう? 歌ったり叫んだりしたくならない!?」
「よくわかりません」
「そっか~」
音楽を止める。
この作戦は失敗かもしれないと思い、俺は考え込みながらいったん座ってコーラをすすった。
蒼也が珍しく自分から口を開いた。
「どうしてこんなにしてくれるんですか?」
蒼也の方から俺に質問してきたのは、たぶん初めてだと気づいて、その顔をじっと見てしまう。
「えっ…? 面白いから」
蒼也は今度は宇宙からやってきた生き物を見るような目で俺を見ていた。
「面白い」は、まずかったかもしれない。
だって今日は蒼也の練習のために来てるんだし。
「あっごめん…俺ばっかり楽しくなってて」
「もう一回、歌って踊ってもらえますか」
「えっ!? アンコール!? やっぱりよかった!?」
蒼也が俺に何かを望んだのは、たぶん初めてのことだった。
間髪入れずマイクを手に取る俺。
「任せろ! 実はアンコールに備えて、もう1曲準備してあるんだ」
隠し手札として準備していた曲を、素早く入れる。
蒼也は歌い踊る俺を、真剣な顔で凝視していた。
「ふう…。でかいステージを目指したくなってきた」
一曲が終わりマイクを置く。
「一緒に武道館目指さない? 蒼也のルックスがあればいけるかもしれない」
「サッカーしたいので」
「そうだったあ~」
一息ついた俺たちはドリンクバーに行き、それぞれ違う飲み物を入れると、部屋に戻った。
「そうだ、写真撮ろ〜!」
いいことを思いついたと自信満々の俺に、蒼也は戸惑いを見せる。
「何のですか?」
「え? そんなのもちろん俺たちの写真に決まってるじゃん。楽しかった記念」
俺はその場で蒼也と俺に向けてスマホを構える。
「もうちょっと近づいて」と手招きすると、蒼也は律義にフレームの中に収まった。
撮れた画像を見ようと、二人でスマホを覗き込む。
とりあえず収まっているだけなのに、イケメンはいるだけで目を引く。
「写真もイケメンだなあ。送るから、蒼也の連絡先教えて!」
蒼也は素直にスマホを取り出した。
蒼也のアイコンは、人懐こそうな目の小さな白い犬だった。
「この犬、家で飼ってるの?」
「うちのベルです」
「かわいい! 他に写真ある!?」
蒼也は頷くと、スマホにあるベルの写真を何枚か見せてくれる。
ご飯を食べているベル。河川敷を散歩するベルの背中。トリミングしたばかりのベル。
ベルの写真を見る蒼也の目は優しかった。
ベルの表情からも、蒼也のことが大好きなのが伝わる。
ベルには、言葉がなくても、蒼也の気持ちがわかるんだな。
手を振って蒼也と別れてすぐ、撮った写真とメッセージを送った。
『今日はありがと! 楽しかった〜! またどっか行こうね!』
『ありがとうございました』
『敬語いらないよ!?』
しばらくして、返信が来た。
『先輩なので』
『そっか〜!』
二人の写真を見返してみる。
歯を見せて大笑いしながらピースサインを作っている俺と、とりあえず収まってこっちを見ているだけの蒼也。
やっぱり、俺が楽しかっただけになってしまった。
よく考えたら、蒼也はカラオケってキャラじゃないだろ。
次は違う方法を考えよう。
