#2
細いシャーペンで書かれた、綺麗な文字を目で追う。
『サッカーを始めたきっかけは、近所にクラブがあって、隣の家の子が入っていたから』
『楽しいときは、自分がいけると思ったとおりにプレーがつながったとき』
『苦しいときは、考えていることを仲間にうまく伝えられないとき』
そこには、昨日聞いたインタビューの答えが、端的に書かれていた。
「えっ、これ…!? 帰ってから考えてくれたの!?」
「はい」
穴が開くほど、才川の顔を見ていたと思う。
「取材…嫌じゃなかった…?」
才川は表情を変えないまま言った。
「別に嫌じゃなかったです」
人見知りしてた…?
ううん、打ち解けていないからってわけじゃなさそう。
「そんな大事なこと、昨日言って!」
「聞かれなかったので」
「顔に出して!」
「普通の顔でした」
「分かんないって!」
「よく言われます」
昨日のインタビューの後、ずっと落ち込んでた。
夜は大好きな豚玉のお好み焼きを半分しか食べなくて、母親に心配された。
「でも、考えてきてくれて嬉しい! すっごく嬉しい!!」
もう一度、紙を見る。
昨日、俺がうまく聞けなかったことに、全部答えてくれている。
「……これ、俺に見せるために書いてくれたんだな!」
「はい。……インタビューが嫌なわけじゃないです」
言葉の続きを待つ。
多田が「ちょっと用事思い出した…」と言いながら立ち上がり、部室から出ていった。
部室は、才川と俺の二人きりになった。
カーテンが窓からの風を受けて、ぼわっと広がっているのが視界の隅に見える。
才川が再び口を開いた。
「必要としてくれるなら協力したい…と思っています」
「おお…嬉しい! 今キュンとした!」
才川は珍しい生き物を見るような目で、こっちを見た。
「喋るのとか、あんまり得意じゃない方…だよね…」
「……はい」
なにも考えていないわけではない。言葉にするのが苦手ということか。
「……中学のチームでは、喋って伝えなくても、プレーで引っ張れば上手くいってて」
才川の言葉を待つ。
出てこない。ので、聞いてみる。
「……最近うまくいかない?」
「何をしたいのか、仲間に伝えられなくて、上手くいかないこともあって」
才能があって、勘でうまくいってきた。
だから感情や思考を伝えることをしてこなくても、困らなかったのだろうか。
この調子なら、確かに不便なことはありそうだ。
「ふーん……」
才川自身もまだ言葉にできていない考えが、たくさんありそうだ。
これはどうしてもインタビューをして、聞き出したい!
そして、動画にして彼のことを伝えたい!
しおれていたやる気が、ボコボコと再び湧き上がってくるのがわかる。
だが才川がこの調子では、ろくにインタビューが成立しない。
どうしたものかと、しばらく考えた末に思いついたのは――
「俺と、一緒に練習する…?」
「練習…?」
「気持ちを言葉にする練習」
「練習」という言葉に才川はピクリと反応して、即答する。
「します。自分のことを話せるようになりたい」
才川はぺこりとお辞儀をした。
「貝谷先輩、よろしくお願いします」
とはいっても、練習にあてがあるわけではない。
トレーニングを考えないと。俺は唸りながら、その場でぐるりと回った。
「なんか、その場の勢いに流されたら、気持ちがバッと出たりしないかな…?」
「勢い…流れ…?」
「そうだ、カラオケだ!!」
突然手を叩く俺に、才川は不審そうな目を向けてきた。
「どう?」
「行ったことないです」
「二人で行かない? 練習だよ」
「練習」のところに重みを置いて言うと、才川は動きを止め、神妙に頷いた。
「行きます」
「やった~…」
どうやら、体育会系の才川には【練習】がキラーワードのようだった。
純粋にカラオケが楽しみで喜びかけたが、これは練習なのだ。気を引き締めて真顔に戻る。
「これは練習だから」
