「いいかな?」
「はい」
でも真っすぐ見てくる目には、強い意志を感じる。 返事もはっきりしている。
突然、放送部が取材に来るなんて警戒するよな。 意図を見定めようとしてるのかも。
「じゃあカメラ2台で、才川くんを動画で撮らせてもらうね。緊張しないで大丈夫! イケメンに撮るから! もとからイケメンかあー」
リラックスしてもらおうと、ちょっとおちゃらけた言い方をしてみる。
「はい」
空気も才川の表情も変わらなかった。
撮影用のスマホを2台、才川に向けて設置して、位置を調整する。
1台はロング、1台は画角を変えてアップ。
それぞれのカメラの映り具合を調整して、録画ボタンを押す。
「じゃあ質問形式でインタビューしてくね。気負わないで、友達との雑談のように話してね」
「はい」
「才川くんがサッカーを始めたのはいつ?」
「小一です」
「そうなんだ、きっかけはなんだったの?」
「…クラブがあったからです」
「そうなんだ」
「小中とどんな子だった?」
「普通」
…うん?
「なぜこの学校を選んだの?」
「サッカー部に入りたかったからです」
「どうして、このサッカー部に?」
「……試合を見たから」
「何がよかったのかな?」
「動き」
才川は最短の単語だけで全て返していく。
不審に思い始めた俺は、ある考えに行き着く。
インタビュー、あまり気乗りしてない…?
表情から感情を伺い知ろうと、笑顔で顔を覗き込んでも、才川の表情からは何の感情も読み取れない。
「サッカーをやっていて一番楽しいことは?」
「…思った通りになったとき」
「どういうとき思い通りになったって思う?」
「思い通りになったとき」
……??
「例えば…」
質問が悪いか…
「じゃあ、苦しいと思うときはどんなとき?」
「時々」
さすがに言葉に詰まる。
答えたくなさそうな才川に、さらに質問を重ねて踏み込んでいいのだろうか。
いや、そもそも取材を受けたくなかったんじゃ…… !?
質問を変えてみても、どれも短い返事で終わる。
聞きたいことも、深掘りしたいことも、回答のパターンをいくつも想定して準備してきた。
それなのに、全て才川の短い言葉で弾かれていく。
――せっかく見つけた、起死回生のカードなのに……!!
音を上げたのは俺の方だった。
立ち上がって2台のスマホに手を伸ばし、録画を止める。
あまりに長い時間に感じたが、時計を見ると、20分しか経っていなかった。
「質問は以上かな…。今日はどうもありがとう」
才川の無言の視線を感じる。
「俺がうまく聞けなくて…ごめん」
「いいえ」
才川の表情は一切変わらず、その声も淡々としたままだった。
用事が終わったと理解したらしい才川は、立ち上がった。
「失礼します」
「うん、ありがと! 何かあれば放送部まで! B棟3階の東の隅が部室、放課後は大体誰かいるから!」
笑顔で手を振ったつもりだったが、上手くできた自信はなかった。
視界の端で、才川がぺこりと頭を下げる。
最後までその表情は変わらなかった。
俺は、人の話を聞くのが好きだ。
自分が知らない場所や、経験したことのない時間へ、連れていってもらえるから。
だから、才川が見ているサッカーの世界を知りたかった。
なのに、入り口すら見つけられなかった。
長身が校舎に消え、ズシっと落ち込んでくる。
自己嫌悪で押しつぶされそうだ。
クールでミステリアスなエースってだけで飛びついた。
特集動画を作られるのが、嫌だったのかもしれない。
本人の気持ちを置き去りにして、企画にしようとしてた。
俺も終わってるし、放送部も終わりだ……!!
■
翌日の放課後。
B棟3階の東の隅。
視聴覚準備室の表札が付いた、ちょっと埃っぽい部屋が、放送部の部室だ。
普通の教室より狭く、壁に古い放送機材が寄せてある。
窓の外からは、走り込みをする陸上部の賑やかな声が聞こえていた。
真ん中の机で、俺は伸びていた。
「才川の取材どうだった? なんとなく想像つくけど」
多田は俺の顔の前にアメを一つ置いた。
多田は面倒見がよく、よく気がつく。
「たぶん嫌われた……」
「珍しい。いつも器用に取材先の懐に入る切り込み隊長が」
「俺が悪い… 起死回生のカードとか勝手に思ってた俺が…」
「ミステリアスなエースの企画は駄目かあ」
アメを手に取って口のなかに放り込む。 甘くてしゅわっとした炭酸の味が口の中に広がる。
机に手をついて、がばりと起き上がった。
「切り替えていこう! 次の企画を…」
「次の企画って?」
「それは今から考え…」
そのとき、ガラリと音がして、部室の扉が開いた。
宮本か加納先生が来たのかと扉の方を見て、驚きで椅子から落ちそうになる。
「才川!?」
そこにいたのは、才川だった。
「失礼します」
俺と目が合うと、才川は部室に入ってきた。
無言のまま、スタスタと最短距離でこっちに近づいてくる。
「放送部への苦情なら、顧問の加納先生まで…!」
慌てた多田が、才川の進路に立ちふさがろうとした。
相変わらず表情が変わらず、感情が読めない。
何考えてるかわからないイケメンが無表情で近づいてくる様は圧があるなあと、俺は他人事のように思っていた。
「……」
才川は手に持っていた紙を、俺の目の前の机にすっと置く。
「何の紙…?」
ノートを一枚綺麗に切り取った紙。
何か書いてある。
それを覗き込む。
「こ、これは…!!」
「書いてきました。昨日、答えられなかったので」
「はい」
でも真っすぐ見てくる目には、強い意志を感じる。 返事もはっきりしている。
突然、放送部が取材に来るなんて警戒するよな。 意図を見定めようとしてるのかも。
「じゃあカメラ2台で、才川くんを動画で撮らせてもらうね。緊張しないで大丈夫! イケメンに撮るから! もとからイケメンかあー」
リラックスしてもらおうと、ちょっとおちゃらけた言い方をしてみる。
「はい」
空気も才川の表情も変わらなかった。
撮影用のスマホを2台、才川に向けて設置して、位置を調整する。
1台はロング、1台は画角を変えてアップ。
それぞれのカメラの映り具合を調整して、録画ボタンを押す。
「じゃあ質問形式でインタビューしてくね。気負わないで、友達との雑談のように話してね」
「はい」
「才川くんがサッカーを始めたのはいつ?」
「小一です」
「そうなんだ、きっかけはなんだったの?」
「…クラブがあったからです」
「そうなんだ」
「小中とどんな子だった?」
「普通」
…うん?
「なぜこの学校を選んだの?」
「サッカー部に入りたかったからです」
「どうして、このサッカー部に?」
「……試合を見たから」
「何がよかったのかな?」
「動き」
才川は最短の単語だけで全て返していく。
不審に思い始めた俺は、ある考えに行き着く。
インタビュー、あまり気乗りしてない…?
表情から感情を伺い知ろうと、笑顔で顔を覗き込んでも、才川の表情からは何の感情も読み取れない。
「サッカーをやっていて一番楽しいことは?」
「…思った通りになったとき」
「どういうとき思い通りになったって思う?」
「思い通りになったとき」
……??
「例えば…」
質問が悪いか…
「じゃあ、苦しいと思うときはどんなとき?」
「時々」
さすがに言葉に詰まる。
答えたくなさそうな才川に、さらに質問を重ねて踏み込んでいいのだろうか。
いや、そもそも取材を受けたくなかったんじゃ…… !?
質問を変えてみても、どれも短い返事で終わる。
聞きたいことも、深掘りしたいことも、回答のパターンをいくつも想定して準備してきた。
それなのに、全て才川の短い言葉で弾かれていく。
――せっかく見つけた、起死回生のカードなのに……!!
音を上げたのは俺の方だった。
立ち上がって2台のスマホに手を伸ばし、録画を止める。
あまりに長い時間に感じたが、時計を見ると、20分しか経っていなかった。
「質問は以上かな…。今日はどうもありがとう」
才川の無言の視線を感じる。
「俺がうまく聞けなくて…ごめん」
「いいえ」
才川の表情は一切変わらず、その声も淡々としたままだった。
用事が終わったと理解したらしい才川は、立ち上がった。
「失礼します」
「うん、ありがと! 何かあれば放送部まで! B棟3階の東の隅が部室、放課後は大体誰かいるから!」
笑顔で手を振ったつもりだったが、上手くできた自信はなかった。
視界の端で、才川がぺこりと頭を下げる。
最後までその表情は変わらなかった。
俺は、人の話を聞くのが好きだ。
自分が知らない場所や、経験したことのない時間へ、連れていってもらえるから。
だから、才川が見ているサッカーの世界を知りたかった。
なのに、入り口すら見つけられなかった。
長身が校舎に消え、ズシっと落ち込んでくる。
自己嫌悪で押しつぶされそうだ。
クールでミステリアスなエースってだけで飛びついた。
特集動画を作られるのが、嫌だったのかもしれない。
本人の気持ちを置き去りにして、企画にしようとしてた。
俺も終わってるし、放送部も終わりだ……!!
■
翌日の放課後。
B棟3階の東の隅。
視聴覚準備室の表札が付いた、ちょっと埃っぽい部屋が、放送部の部室だ。
普通の教室より狭く、壁に古い放送機材が寄せてある。
窓の外からは、走り込みをする陸上部の賑やかな声が聞こえていた。
真ん中の机で、俺は伸びていた。
「才川の取材どうだった? なんとなく想像つくけど」
多田は俺の顔の前にアメを一つ置いた。
多田は面倒見がよく、よく気がつく。
「たぶん嫌われた……」
「珍しい。いつも器用に取材先の懐に入る切り込み隊長が」
「俺が悪い… 起死回生のカードとか勝手に思ってた俺が…」
「ミステリアスなエースの企画は駄目かあ」
アメを手に取って口のなかに放り込む。 甘くてしゅわっとした炭酸の味が口の中に広がる。
机に手をついて、がばりと起き上がった。
「切り替えていこう! 次の企画を…」
「次の企画って?」
「それは今から考え…」
そのとき、ガラリと音がして、部室の扉が開いた。
宮本か加納先生が来たのかと扉の方を見て、驚きで椅子から落ちそうになる。
「才川!?」
そこにいたのは、才川だった。
「失礼します」
俺と目が合うと、才川は部室に入ってきた。
無言のまま、スタスタと最短距離でこっちに近づいてくる。
「放送部への苦情なら、顧問の加納先生まで…!」
慌てた多田が、才川の進路に立ちふさがろうとした。
相変わらず表情が変わらず、感情が読めない。
何考えてるかわからないイケメンが無表情で近づいてくる様は圧があるなあと、俺は他人事のように思っていた。
「……」
才川は手に持っていた紙を、俺の目の前の机にすっと置く。
「何の紙…?」
ノートを一枚綺麗に切り取った紙。
何か書いてある。
それを覗き込む。
「こ、これは…!!」
「書いてきました。昨日、答えられなかったので」
