ミステリアスで寡黙なエースは、恋愛をしたら変わりすぎる!


◆
#5
あっという間に遠ざかっていく、蒼也の後ろ姿を見ていた。


「蒼也……!?」


――俺が怖がったから。


蒼也の考えていることが、その表情から少しわかるようになってきていた。


蒼也は、俺に気持ちを伝えたことを…後悔したんだ。


「蒼也、違う!!」


慌てて蒼也の後ろ姿を追おうとする。
だが足の速い蒼也の姿はもう、見えなかった。


駐輪場まで走り、自分の自転車を取り出す。
蒼也の自転車があるのを見つける。
蒼也は川沿いを自転車で通学していたはずだ。
まだ校内にいるのだろうか。
だがなんとなく、蒼也なら走ってそのまま出ていきそうな気がした。


自転車を全力で漕いで、広い河川敷を進んでいく。


校外の町に遮るものは何もなく、高い青い空が広がっている。
ゆったりと大きな雲が流れている。


全力で自転車を漕いで、河川敷を行く。
川に向かって草の上に座っている男子高校生の姿が見えた。


「蒼也ーー!!」




■


蒼也はゆっくり振り返った。
側に自転車を止める。


「蒼也……っ、……」


心臓が激しく脈打ち、うまく息が吸えない。肺が酸素を求めている。


「ハァハァハァハァ……」


ちょっと大げさなくらいの俺の様子に、蒼也は心配そうに近づく。


「玲生…大丈夫…?」
「はあ……」


肩で息を整える。しばらくして、喋れるようになる。


「……中学まで、体が弱くて。今はすっかり健康体だけど。蒼也を追いかけられるようになってよかった」


蒼也は俺を見た。
それから、視線を落とした。


「……ごめんなさい。腕を掴んで…乱暴にした」
「ちょっと怖かった」


そんなことないとも言えたけど。正直に言った。
蒼也の肩が強張り、慌ててその顔を覗き込む。


「好きって言ってくれた蒼也の気持ちを怖がったんじゃない。なんだけど…俺も、どうしたいのか、わからなくて…」


いつもは、蒼也が言葉を探すのを、俺が待っていた。
今は逆だ。
蒼也は黙って、俺が続きを言うのを待っている。


「だから、ちょっと待っててほしい。ちゃんと考えるから」


蒼也は頷いた。
その顔を見て、ようやく肩の力が抜けた。


「俺も、告白を笑ってごまかして、三日も逃げたこと、ごめん」


蒼也は首を振った。


「……俺も、蒼也に謝らないといけないことがある」


鉛を飲み込んだようにズドンと気持ちが重くなる。
でも、言わなければ。


「俺…、蒼也を放送部のために利用してた」
「……?」


顔を上げられなかった。


「放送部がなくなりそうで、存続のために、どうしても…500再生される企画が欲しかったんだ。サッカー部のミステリアスなイケメンエースなら、動画にしたらウケる。最初に考えたのはそれだった。撮れ高になりそうだから、蒼也を選んで取材した」


「なんとなく、知ってる。玲生が時々言ってたし」


蒼也は何でもないことのように、あっさり言った。


「えっ」


そ……そうだっけ…!?


「放送部がなくなりそうなことは、知らなかったけど」


蒼也はしばらく考えていた。
胸が重く沈む。


「玲生が、俺と一緒にいてくれたことは全部、再生数のためだったんですか」


蒼也が俺を見る。


「……違う」
「なら、利用されたとは思ってない」
「放送部のために必死だったのはそう…。でも、蒼也といるのがめちゃくちゃ楽しかったのも、本当だよ」
「俺も楽しかった」


蒼也は微笑みを見せてくれた。


「蒼也が笑った」
「玲生といると、玲生の顔がうつる」
「笑ってるってこと?」
「そう」


胸の奥につかえていたものが、軽くなった。


「……恋愛は苦手だけど、蒼也の気持ちは…苦手じゃない」


蒼也は頷いた。
河川敷を気持ちのいい風が吹き抜けていく。


「玲生が嫌じゃないのなら、玲生を好きな気持ちを表すのは続ける」
「続けるんだ!?」
「自転車を一生懸命漕いできたの、可愛かった」
「ああああ!!」


蒼也が座っていた隣に、俺も腰を下ろした。
蒼也も座り直す。
リュックに手を突っ込んで、箱が少し潰れたホワイトチョコを取り出した。


「安心したら腹減ったな! チョコ食べる? 非常食」


川の水の流れる音を聞きながら、ホワイトチョコを半分ずつ食べた。


「蒼也、部活…どうしたの?」
「休むと連絡しました。さっき。こんなこと初めてです」
「そっか」
「玲生は?」
「俺も今日は休むって、多田に連絡しとこ」


甘い。なんだか妙に疲れた身体に、やたらとうまい。
隣を見ると、蒼也はゆっくり味わうように食べていた。
蒼也はチョコが好きなんだな。