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チャイムが鳴り、七限の授業の終わりを知らせる。
クラスメートたちが帰り支度を始める。
俺は一番に教室を飛び出し、大急ぎで一年の廊下へ走る。
バスケ部・諸橋のクラスへ急ぎ、教室から出てくるのを、少し離れたところから待ち構える。
身体が大きく、赤茶けた長めの髪で目立つ男子生徒。諸橋が現れる。
「こないだはお昼の放送ありがとう!」
諸橋は突然現れた俺に、少し驚いた顔を見せた。
「あんたは放送部の…」
「貝谷玲生!」
ついでにウインクする。
諸橋は何こいつ…という顔をしたあと、片頬を上げるとニッと笑った。
「昼の放送聞いて、バスケ部の試合、見てみたくなったって言われました」
「ほんと!?」
諸橋は満更でもなさそうに言った。
「すごいすね、放送部」
俺は満面の笑みを浮かべていたと思う。
諸橋は蒼也と同じくらい背が高いが、タイプは違う。
蒼也はすっとした切れ長の目をしていて、少し近寄りがたい雰囲気がある。
諸橋は日焼けしていて野性味が強く、ちょっと迫力がある。
「今日は相談があって来たんだ。次の企画動画、諸橋くんをメインに撮らせてもらえないかな」
「…才川が出てるやつすか?」
「そう! 見てくれたんだ! 次の企画を探してて」
諸橋が不審そうな顔をする。
「才川みたいなエースプレイヤーが出るやつすよね。なんで俺?」
「それは…」
続けようとした俺の言葉を、諸橋は遮った。
「怪我してるやつに同情するみたいなのは嫌す」
「そうじゃない。怪我でやりたいことができなくなるのは、誰にでも起こりうることで。諸橋くんの考えてることは響くと思う。怪我で今は試合に出られない選手が、コートの外から何を見て、何を考えてるのか。諸橋くんの経験と、考えてることを聞かせてほしい」
諸橋は少し考えていた。
「ふーん…。興味なかったけど、なんか放送部って面白そう」
「面白いよ!」
「……いいすよ」
諸橋は俺を見下ろすと、あっさり言った。
「ほんと!? ほんと!?」
「でもイケメンに撮れてないとNGにするんで」
「撮影担当が優秀なんで、それはご心配なく」
部活へ向かう諸橋と軽口をたたきながら、体育館の入り口まで一緒に行く。
「あと、『くん』はいらないす。落ち着かないから」
「俺も玲生でいいよ! じゃ! 木曜、放課後に話を聞かせてね!」
上機嫌で手を振って、放送部の部室のあるB棟へ続く廊下に向かおうとした、そのとき。
後ろから聞き慣れた声がした。
「今の…」
蒼也だった。
「蒼也! 次の企画が見つか…」
いいところに来たと、笑顔で振り返る。
蒼也は珍しく言葉を遮った。
「次の取材先ですか」
「そう、バスケ部一年。あと命の恩人」
「命の恩人!?」
蒼也は、すぐ側の体育館裏に俺についてくるように促した。
体育館と校舎に挟まれた狭い空間で、人があまり通らない。
足元には、園芸部が育てているらしい何らかの植物が植わっていた。
体育館からは、練習のにぎやかな声がずっと聞こえていた。
バスケ部の取材で諸橋に出会ったことを話す。
話を聞いている最中、蒼也は見たことのない剣呑な目をしていた。
「…あいつにも、俺にしたみたいなこと、するんですか?」
いつも落ち着いて静かな蒼也らしくなく、少し言葉が強い。
「蒼也にしたみたいなこと…?」
「二人で出かけて、名前で呼んで、写真を撮って、その人のことを全部知ろうとする」
なんだその馴れ馴れしい変なやつ?
そしてそれが、蒼也から見た俺のことだと気づいた。
「それは、蒼也のための練習で…」
「俺との時間も、取材に必要だったからですか」
「それは……」
すぐに否定したかった。
なのに、最初に蒼也へ近づいた理由が喉につかえた。
その躊躇いに蒼也は目ざとく気が付く。
「俺の次に、玲生が知りたいのはあいつなんですか」
「蒼也…? どうしたんだよ」
蒼也らしくない言い方をする。
「玲生は誰にでも平等に優しい。そういうところもすごく好きです。けど」
蒼也は近づいてきた。
後ろは壁だ。
「俺はそれだけじゃ足りない。玲生の特別になるには、どうしたらいいんですか?」
「蒼也…?」
気圧されて一歩下がったのを、逃げようとしたと受け取ったのか、蒼也が手を伸ばしてくる。
「待って」
手首を掴まれる。
引き止める力に驚いて身体を引いた途端、踵がもつれた。
「あっ」
背中が壁にぶつかり、そのまま尻もちをついた。
驚いた蒼也の手が離れ、俺を起こそうとして、もう一度伸びてくる。
身体がほんの少しこわばる。
思わず、蒼也の手を取るのを、一瞬ためらった。
――初めて、蒼也が向けてくる感情の強さを、少しだけ怖いと思った。
おそるおそる見上げると、蒼也と目が合った。
蒼也の動きはぴたりと止まっていた。
「蒼也…?」
蒼也はフッと顔をそらし、それから俺を見ようとしなかった。
その表情はうかがえない。
「すみません……!!」
蒼也はそのまま背を向け、走るように立ち去っていった。
「蒼也…!?」
チャイムが鳴り、七限の授業の終わりを知らせる。
クラスメートたちが帰り支度を始める。
俺は一番に教室を飛び出し、大急ぎで一年の廊下へ走る。
バスケ部・諸橋のクラスへ急ぎ、教室から出てくるのを、少し離れたところから待ち構える。
身体が大きく、赤茶けた長めの髪で目立つ男子生徒。諸橋が現れる。
「こないだはお昼の放送ありがとう!」
諸橋は突然現れた俺に、少し驚いた顔を見せた。
「あんたは放送部の…」
「貝谷玲生!」
ついでにウインクする。
諸橋は何こいつ…という顔をしたあと、片頬を上げるとニッと笑った。
「昼の放送聞いて、バスケ部の試合、見てみたくなったって言われました」
「ほんと!?」
諸橋は満更でもなさそうに言った。
「すごいすね、放送部」
俺は満面の笑みを浮かべていたと思う。
諸橋は蒼也と同じくらい背が高いが、タイプは違う。
蒼也はすっとした切れ長の目をしていて、少し近寄りがたい雰囲気がある。
諸橋は日焼けしていて野性味が強く、ちょっと迫力がある。
「今日は相談があって来たんだ。次の企画動画、諸橋くんをメインに撮らせてもらえないかな」
「…才川が出てるやつすか?」
「そう! 見てくれたんだ! 次の企画を探してて」
諸橋が不審そうな顔をする。
「才川みたいなエースプレイヤーが出るやつすよね。なんで俺?」
「それは…」
続けようとした俺の言葉を、諸橋は遮った。
「怪我してるやつに同情するみたいなのは嫌す」
「そうじゃない。怪我でやりたいことができなくなるのは、誰にでも起こりうることで。諸橋くんの考えてることは響くと思う。怪我で今は試合に出られない選手が、コートの外から何を見て、何を考えてるのか。諸橋くんの経験と、考えてることを聞かせてほしい」
諸橋は少し考えていた。
「ふーん…。興味なかったけど、なんか放送部って面白そう」
「面白いよ!」
「……いいすよ」
諸橋は俺を見下ろすと、あっさり言った。
「ほんと!? ほんと!?」
「でもイケメンに撮れてないとNGにするんで」
「撮影担当が優秀なんで、それはご心配なく」
部活へ向かう諸橋と軽口をたたきながら、体育館の入り口まで一緒に行く。
「あと、『くん』はいらないす。落ち着かないから」
「俺も玲生でいいよ! じゃ! 木曜、放課後に話を聞かせてね!」
上機嫌で手を振って、放送部の部室のあるB棟へ続く廊下に向かおうとした、そのとき。
後ろから聞き慣れた声がした。
「今の…」
蒼也だった。
「蒼也! 次の企画が見つか…」
いいところに来たと、笑顔で振り返る。
蒼也は珍しく言葉を遮った。
「次の取材先ですか」
「そう、バスケ部一年。あと命の恩人」
「命の恩人!?」
蒼也は、すぐ側の体育館裏に俺についてくるように促した。
体育館と校舎に挟まれた狭い空間で、人があまり通らない。
足元には、園芸部が育てているらしい何らかの植物が植わっていた。
体育館からは、練習のにぎやかな声がずっと聞こえていた。
バスケ部の取材で諸橋に出会ったことを話す。
話を聞いている最中、蒼也は見たことのない剣呑な目をしていた。
「…あいつにも、俺にしたみたいなこと、するんですか?」
いつも落ち着いて静かな蒼也らしくなく、少し言葉が強い。
「蒼也にしたみたいなこと…?」
「二人で出かけて、名前で呼んで、写真を撮って、その人のことを全部知ろうとする」
なんだその馴れ馴れしい変なやつ?
そしてそれが、蒼也から見た俺のことだと気づいた。
「それは、蒼也のための練習で…」
「俺との時間も、取材に必要だったからですか」
「それは……」
すぐに否定したかった。
なのに、最初に蒼也へ近づいた理由が喉につかえた。
その躊躇いに蒼也は目ざとく気が付く。
「俺の次に、玲生が知りたいのはあいつなんですか」
「蒼也…? どうしたんだよ」
蒼也らしくない言い方をする。
「玲生は誰にでも平等に優しい。そういうところもすごく好きです。けど」
蒼也は近づいてきた。
後ろは壁だ。
「俺はそれだけじゃ足りない。玲生の特別になるには、どうしたらいいんですか?」
「蒼也…?」
気圧されて一歩下がったのを、逃げようとしたと受け取ったのか、蒼也が手を伸ばしてくる。
「待って」
手首を掴まれる。
引き止める力に驚いて身体を引いた途端、踵がもつれた。
「あっ」
背中が壁にぶつかり、そのまま尻もちをついた。
驚いた蒼也の手が離れ、俺を起こそうとして、もう一度伸びてくる。
身体がほんの少しこわばる。
思わず、蒼也の手を取るのを、一瞬ためらった。
――初めて、蒼也が向けてくる感情の強さを、少しだけ怖いと思った。
おそるおそる見上げると、蒼也と目が合った。
蒼也の動きはぴたりと止まっていた。
「蒼也…?」
蒼也はフッと顔をそらし、それから俺を見ようとしなかった。
その表情はうかがえない。
「すみません……!!」
蒼也はそのまま背を向け、走るように立ち去っていった。
「蒼也…!?」
