ミステリアスで寡黙なエースは、恋愛をしたら変わりすぎる!

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「よろしくお願いします!」


夕方。河川敷に隣接する、人気のない広い公園。


蒼也のバレーボール個人レッスンが始まった。
俺がぺこりと体育会系風にお辞儀すると、蒼也が爽やかに微笑んだ。


「任せてください」


蒼也は綺麗なフォームでボールをサーブした。


慌てて両腕を出して、それを受ける。


「ボールが全部いいとこに集まってくる~!」


蒼也の返すボールは全て綺麗な弧を描き、俺が受けやすいところに集まってきた。


一方、俺の返すボールはあっちにいったりこっちにいったり。
それを蒼也は走り回って器用に受けていく。


「蒼也、本当にバレーボールも上手いんだな」


ボールはきちんと蒼也の言うことを聞く。
だが、俺が触ると、ボールは急に自由になる。


「集中しないと…」


俺が受けたボールが、そのまま真上へ跳ねた。
その行方を追って真上を向く。


「あ”っ」


真上からそのまま落ちてきたボールが、俺の額に直撃。
蒼也がすごい速さで駆け寄ってくる。


「玲生! 大丈夫…?」


蒼也は心配そうな顔で見てくれるが、今日二度目のツボで爆笑してしまう。


「あははははははッ!! 全力サーブだったらヤバかった!!」


蒼也は俺の顔の無事を念入りに確認した。


「絶対顔にぶつけないように返したのに……? 今ので顔にぶつけるの、逆にすごくないですか」
「なにそれ!?」


練習が再開すると、今度はフォームの指導に入る。


「まず、こう構えてください。もっと肘を伸ばして」
「伸ばしてるよ」
「曲がってます」
「これ以上伸ばしたら取れるって!」
「腕の当たる位置が違う。ここ」

蒼也は腰を落としてボールを受ける構えをし、親指の付け根から少しだけ上のあたりを指さした。


「ここ…」


見えないボールがゆっくりと蒼也の腕に向かってきているらしかった。


「こうきたらこう」
「うん?」
「それでこう」


蒼也はゆっくりと見えないボールをレシーブした。
見えないボールは向こうに飛んでいったらしく、蒼也は飛んだ方を見ていた。


「???」


蒼也、説明の仕方もわりと直感型だな。
蒼也も伝わっていないことに気がついたようだった。


「触ります」
「う、うん」


蒼也は近づいてきて、俺の肘と肩へ触れ、姿勢を整えた。
近くてちょっと動揺する。


俺のことが好きな人に触られてる……!
今、好きな相手に触ってると思ってる?


蒼也の手が腕に触れ、ゆっくり離れていった。


「返そうとしなくていいです。まず、受けることだけ考えて」
「受けるだけ?」
「はい。受けられれば、返せます」


――バレーボールのことだよね?


公園の隅の自動販売機で飲み物を買って、ベンチに座る。
夕方の斜めの日差しで、どこも日陰になっていて涼しい。熱くなった体がクールダウンしていく。

「この辺り少し内出血してるので、冷やしたほうがいいです」


蒼也は自分のウーロン茶を、俺の手首より少し上に当ててくれた。


「冷たくて気持ちいいー」
「玲生のバレーが上達するには、まだ時間がかかりそう」
「えっ? 蒼也のおかげで、今日で結構うまくなったよ?」


今日教えてもらった、ボールを受ける動作をしてみせる。


「だいぶ進歩はしましたが、まだです」


気づいてきたが、蒼也はスポーツのことになると結構厳しい。


「お、鬼コーチ!」


蒼也がふふんと笑った。
蒼也は本当にいろんな笑い方をするようになった。ちょっと控えめではあるが、種類が増えた。


「バレーが上手くなったら、次はバタフライを練習しましょう」
「プール、行きたいー!」


自転車で30分のところに、大きな公営プールがある。
蒼也とプールに行くのを思い浮かべて、心が弾む。


「プールの帰り、焼きそばかラーメン食べよ!」
「いいですね」


プールの近くには、海の家風の焼きそば屋と、味噌が売りのラーメン屋がある。


「蒼也とバレーボールの練習をもっとしたいし、プールにも行きたい。夕方の河川敷で延々と喋ったりもしたい。家で遊んだりもしたい」


気持ちを素直に口にしていくと、自分でも驚いた。


「…蒼也といるのは楽しいよ。これからも毎日会って喋りたい」


毎日会いたい。そんなふうに誰かを思ったこと、あっただろうか。
蒼也は嬉しそうにした。


「俺も、玲生とそうしたいです」


しかし、蒼也の表情に少しだけ葛藤が混ざった。


「でも…」
「?」


「俺が心から望んでいることは、もっと……」


夕暮れの複雑な光が、蒼也の顔に影を落としていた。