#4
どうして蒼也が、そんなに真剣な顔をしているのか分からない。
俺は戸惑いを悟られないように、明るく答えた。
「取材じゃなくても、映画とかまた行こ! 蒼也と遊ぶのは楽しかったし!」
「……嬉しいです」
蒼也は素直に嬉しそうに微笑んだ。
どういうわけか、今日は初めて見る蒼也の表情ばかりだ。
「もっと玲生と一緒にいたい。玲生が来ると嬉しい。会えない日は静かに感じる。玲生を目で追ってしまうし、ずっと考えてる」
蒼也は堰を切ったように言葉にした。
「えっ……?」
妙な流れになってきたのを感じ取り、俺は内心動揺した。
蒼也は一度目を伏せた。そして、何かを決意したように、顔を上げた。
蒼也の目は綺麗だなあ。 強い意志がその奥に確かにあって、ゆるがない。
場違いにも、なぜかそんなことを思った。
「この気持ちが何なのか、考えました」
蒼也は緊張しているように、言葉を止めた。
まっすぐこっちを見る。
「玲生が好き」
「……え?」
時が止まった気がした。
思考が処理落ちに陥り、たっぷり十秒は固まっていた。
蒼也が不審そうに「玲生…?」と、俺の顔を覗き込んできた。
それでようやく我に返る。
「えええええっ!!?」
れ、恋愛……!?
気持ちを言葉にする練習をしてたと思ったら、あっという間にマスターしたどころか、スキージャンプばりの大ジャンプを決めてきた!!
さすがサッカー部エース…! じゃない。
「好き…!?!?」
「驚くの遅くないですか」
蒼也は優しげに微笑んだ。しっかりした眉が少し下がり、目が細められ、口角がわずかに持ち上がっている。
蒼也のそんな笑い方、初めて見た。
思わず見とれていた。
「玲生を、側でずっと見ていたい。毎日会いたい」
にわかには信じられなかった。
「目。面白いものを見つけると光る。髪、左だけよくはねている。指、何か思いついたときスイスイ動く。声、よく通ってどこにいるかすぐわかる。よく変わる表情、いつも楽しそうに笑っている。大笑いすると白い歯が全部見える」
「そんなの、見てたの……?」
「はい、ずっと」
――どこにいるかすぐ分かる。
試合の日の投稿が頭に浮かんだ。あれは、俺のことだったのか…!?
気持ちを言葉にできすぎている……!!
「練習の成果、出すぎだ!!」
■
蒼也は愛おしいものを見るような目で俺を見るのをやめなかった。
俺の内心の動揺が限界を超えた。
「……う」
「う?」
「嬉しい! 自己肯定感上がるー! ありがとー!」
全てを褒め言葉としていったん受け取り、そのまま立ち去ろうとする。
――とにかく、一度持ち帰り冷静にならなくては。
「玲生」
置いてきたはずの蒼也の声が耳のそばでして、飛び上がった。
「まだ、話は終わってない」
静かな声なのに、逃げ道がなかった。
蒼也は急に低い声を出した。
「……玲生、ララちゃんの他に恋愛をしたことないと言ってたのに…告白されることに慣れてませんか?」
治安が悪くなる蒼也。
「えっ!? そんなことないないない! こんなの言われるの、蒼也が初めてだって!」
蒼也はまだ疑っているように、俺の顔を穴が開くほど見た。
そして、勝手に納得したように頷いた。
「そうみたいですね」
とりあえず謎の疑惑が晴れたことに安堵する。
「……返事は別になくていいです。俺が言いたいだけなので」
このままうやむやに立ち去るタイミングを探ろうとしたが、蒼也が逃げ場を塞ぐほうが早かった。
「一緒に帰りたい」
さすがサッカー部エースのオフェンス…!
俺は不格好にボールを足元に確保したまま、一瞬でフィールドの隅っこへ追い詰められていた。
白旗を上げる。
「ちょっちょっちょっ……タイム!!」
「待ちます」
体育会系の蒼也はタイムには素直に従った。
そのことに感心しながら、今の間に言いくるめるしかないと、頭の中で必死に理屈をこね回す。
ふと、最初に蒼也に会った日のことがよぎる。
――ミステリアスなエース。
これなら注目を集める企画になる。 蒼也を特集すれば、500再生に届くと思った。
蒼也は自分の気持ちを言葉にしようと、ずっと俺を信じて誠実だったのに。
俺には蒼也に好きになってもらえる資格なんて、ないんじゃないだろうか。
ずしっと罪悪感がのしかかってくる。
「……俺、そんなにいい人じゃないよ」
突然下を向いて肩を落とした俺に、蒼也がどうしたのかと様子をうかがってくる。
「そうなんですか?」
「服、変だし…」
「確かに、カラオケと映画のときは変な柄のTシャツ着てました。玲生らしくて面白いです」
カラオケの時はパイナップル柄、映画の時はアジフライ柄のTシャツを着ていた。
どっちも気に入ってる。
「バレーボール苦手だし、顔でサーブ受けるし…」
バレーボールは俺のことが嫌いだと思う。俺は別に嫌いじゃないのに。
「一緒に練習しましょう」
「蒼也はバレーボールも上手いんだろ!?」
「ボールが大きい球技は感覚が似てる」
蒼也は運動が得意な者にしか、わからなそうなことを言った。
「ボールの大きさが関係あるの!?」
「結構あります」
「そうなんだ…」と素直に頷いて、「来週から体育バレーボールだからちょっと憂鬱」と言いながら、それどころじゃなかったことを思い出す。
「バタフライは溺れてるみたいって言われるし」
プールでバタフライを披露して遊んでいたら、監視員の人が間違って助けに来かけたことがあった。
それ以来、バタフライは封印している。
「見たいです」
蒼也は少し笑った。
こんな話をしていても、俺を見る目が変わらない。
「苦手なことがいろいろある、玲生が好きです」
もう、次の言い訳が出てこなかった。
本当に言わなければならないのは、そんなことじゃない。
蒼也を放送部を救うための手段として見ていたことを知っても、同じ目で見てくれるだろうか。
そのことだけが、喉につかえて出てこなかった。
……なんで?
なんで、こんな俺のことを知りたいんだろう。
蒼也は動揺する俺を、愛おしそうに見ていた。
なんだその目は!?
■
「面白い存在としか思われていないとはわかってます」
面白い存在としか思われてないのは、俺じゃないの?
「それでも構わないけど…好きだという気持ちは知ってほしい。気持ちは言葉にして伝えたほうがいいと、玲生が教えてくれたので。俺は伝えます」
蒼也の意志の固さに、俺も自分の正直な気持ちを言うしかないと観念する。
「……俺、そんな目で蒼也を見たことがなくて」
もちろん、性格も外見もすごく格好いいやつだと思うけど。
蒼也はじっとしていた。
「蒼也といるのは楽しいけど、恋愛とか全然考えてなくて……」
「わかってます」
「それに…言ったと思うけど俺、恋愛が苦手なんだ」
「あんなに恋愛映画で泣いてたのに?」
「だから苦手なんだって! 感情を動かしすぎて、人をおかしくするから」
俺は放送部恋愛事件を説明した。
「放送部の四人も、付き合う前は普通に仲の良い友達で、すごく楽しそうにしてたのに」
昨日までくっついて楽しそうに原稿を読んでいた部員たちが、別れたら会話どころか、目も合わせず、名前も呼ばなくなった。
「恋愛にならなければ、ずっと楽しく話していられるのに」
昼の放送中、狭い放送室での沈黙が息苦しかった。
蒼也は大人しく真面目に聞いていた。
「恋愛は人をおかしくするし、関係も変えてしまう」
「俺も初めてのことなのでわかりません。もしかしたら、そうなのかもしれない」
蒼也は、何かを確かめるように俺の顔を見た。
「でも…変わって、壊れる関係ばかりじゃないと思う。玲生、好き」
――えええええっ!!
