ミステリアスで寡黙なエースは、恋愛をしたら変わりすぎる!

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数日後の放課後の、放送部部室。


俺たち放送部三人は、ノートPCの前に集まっていた。


「サッカー部一年、才川蒼也の特集動画――完成!!」


三人でハイタッチする。


主に俺のハイタッチに勢いがつきすぎて、バチンとデカい音が響く。
宮本が「痛いです」と文句を言った。


「サムネイルめちゃめちゃかっこよくない?」


宮本は得意そうにニヤリと笑った。


「サムネは顔ですから。今回は、素材がいいから楽しかったです」


「動画の構成にスピード感があって目が離せない! 飽きずに最後まで見ちゃう」


多田が、よく聞いてくれたというように説明する。


「今動画サイトで流行ってる構成を取り入れてみた」


「蒼也に見せないと!!」


俺は自分のノートPCを掴むと、部室を飛び出した。


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「蒼也ー!!」


夕焼けの中、練習が終わった蒼也を見つける。
PCを抱えたまま駆け寄る。


「できた! 蒼也の動画が! できた!!」


蒼也はまた微笑んだ。
その笑顔にまだ慣れずにちょっと驚いていると、蒼也の手がこっちに伸びてくる。


「トンボがとまってる」
「あああっ!」


赤いトンボが俺の肩から飛んで行った。


グラウンド脇のベンチに座り、間にノートPCを置いた。


サムネイルは、目を伏せた蒼也の顔のアップ。
睫毛が長い! 一目で目を引くイケメンだ。まずそこから引きが強い。


「では、ご覧ください!」


最初に映ったのは、練習試合のグラウンドだった。


ハーフタイム。
選手たちの輪の中の蒼也。身振りを交えて話している。


相手ディフェンスの背後へ走り込んだ蒼也が、右脚を振り抜く。
ボールがゴールへ向かった瞬間、画面が暗転した。


音楽とともにタイトルが現れ、俺のナレーションが重なる。


――サッカー部一年のエースは、寡黙でミステリアス。
その言葉を追ううちに見えてきたのは、真っすぐで誠実、ちょっと不器用で優しい素顔だった。


朝の河川敷。
朝日を反射する川沿いを、制服姿の蒼也が自転車で走っていく。


映像が学校へ移る。


『三言以上喋っているところを、あまり見たことがない』
『いつもクールで、何考えてるのか分からない』


画面に、細いシャーペンで書かれた文字が映る。


『苦しいときは、考えていることを仲間にうまく伝えられないとき』


グラウンドの外の蒼也の姿が、テンポよく映し出されていく。


学食で、天ぷらそばを食べている姿。
自習室で自習する姿。


映像が再び、サッカー部へ。


『個人技の能力は極めて高い。素質はピカイチです』


監督の声に重なって、蒼也が相手選手をドリブルで抜いていく。


三ツ橋の声が入る。


『ただ、言葉も身振りも少なすぎる。もっと周りに伝えてほしいですね』


三ツ橋はそう話したあと、少し笑った。


『でも、無愛想だけど、よく気がつきます。片づけもいつも最後まで残ってるし』


夕方のグラウンドで、蒼也がインタビューに答える。


『一人でプレーしたいわけではない?』
『一人で行ったほうが早いと思ってしまうことはあります。でも、一人の力では勝てないので』


動画は、冒頭の練習試合へ戻った。


今度は連携が成功した場面。
的確なパスを受けた蒼也が放ったシュートが、ゴールネットへ突き刺さった。


ベンチの方を向いた蒼也の顔に、はっきりとした笑顔が浮かぶ。

夕方のグラウンドに場面が切り替わる。


『サッカーをしていて、一番楽しいのはどんなときですか』
『走ろうとした場所に、仲間からパスが来たときです。同じプレーを考えていたって分かるから』


『これから、どんな選手になりたいですか』
『何をしたいのか、仲間に分かってもらえる選手です。それと、仲間が何をしたいのか、俺も分かりたい』


『その先は?』
『一緒に、勝ちたいです』


長めの前髪がかかった、伏し目がちな顔がアップになる。その整った顔に視線が吸い寄せられる。
蒼也の視線がこっちを向いた。


『サッカー部の試合、見に来てください。応援が力になります』


はにかんだように、控えめな笑みが浮かんだところで、映像が終わる。


暗くなった画面に、市立H高等学校 放送部とクレジットが浮かんだ。


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「どうかな…?」


動画が終わると、蒼也はしみじみと言った。


「俺が言いたかったのは、こういうことだったんですね」
「言った覚えのないことになってたり、見られたくないところがあったら言って。学校外からも見られるかもしれないから」
「ないです」


再生が終わって暗くなった画面に、蒼也は視線を移した。


「見てもらいたいです。俺みたいに、考えていても言えない人がいること。玲生が分かるようにしてくれたので」
「うえっへっへっへっ……」
「変な笑い方…」


蒼也がまた珍しく突っ込んだ。


「嬉しすぎて! 放送部の多田と宮本がすごくいい動画にしてくれたんだ! もちろん蒼也あってのことだけど! めっちゃいい!!」


「へへへ…」と蒼也と動画を交互に見て、顔がニヤける。

「ずっと放課後付き合ってくれて楽しかった! ありがと!!」


急に蒼也は黙った。


話の途中で、気持ちや言葉を探して蒼也が黙ることはよくある。
だからいつものように待った。


だが、その日の沈黙は、いつも以上に長く、どこか雰囲気が違った。


「……もう、俺との練習は終わりですか?」


蒼也の声は妙に静かだった。
もともと大きくはないが、低くて通る声をしている。


「……? もちろん」


蒼也は部活の仲間と意思疎通ができるように、もうなっている。
俺が教えられることなんて、もう残ってない。


「もう蒼也は、自分の気持ちをちゃんと言葉にできるようになってる。今だってほら、できてる。これからは、蒼也が伝えたいことをどんどん言葉にしていけばいいよ」


なぜか早口でしゃべっていた。
これじゃあ動揺してるみたいだ。


蒼也は黙って俺を見た。


「……企画が完成したから、もう用がないんですか?」