ミステリアスで寡黙なエースは、恋愛をしたら変わりすぎる!

#1
放送部は、恋愛に滅ぼされかけていた。


「このままでは、放送部は年度末で廃部になる」


放課後の部室。
顧問の加納先生は、俺たち三人きりの放送部員を集めるなり、言い放った。


「部として認められる最低人数は五名だ。規定を満たさない部を特例で残すには、大会入賞や、校外に示せる制作実績が必要だ。放送部にはそれがない」


俺、貝谷玲生は、慌てて抗議した。


「放送部は、昼休みの放送やってます」
「校外に示せる制作実績が必要だと言った」


絶望の目で先生を見上げるしかなかった。


「放送部がなくなる……」


先生は銀色の眼鏡を押し上げる。


「このままでは、と言った。諸君が意欲的に活動してるのは知っている」
「せ、先生ーー!!」

感激して抱きつこうとする俺を、先生は慣れた仕草で軽くいなす。


「実績が無ければ、作ればいい」


ごくりと喉が鳴ったのがわかる。


「動画作品を作ってもらおう」
「動画作品…?」
「動画は学校サイトの部活動のページに掲載し、500再生を達成してもらう」
「500再生!?」
「その上で、その作品を学校説明会で披露する。それなら、放送部が学校広報に貢献できるという交渉材料には充分だ」


「恋愛って…部活まで滅ぼすんですね」


そもそも春まで、放送部には俺と多田を含めて六人の部員がいたのだ。


だが、そのうち四人が恋愛によって退部した。
それぞれが告白して付き合い、別れ、気まずくなったのだ。


気まずくなったときの、お昼の放送室の地獄の空気と言ったらなかった。
元恋人たちは目も合わせず、放送原稿を直接手渡そうともせず、なぜか全て俺を経由した。


これを俺たちは、放送部恋愛事件と呼んでいる。

なおその後、現在の放送部の一人である、一年の宮本が入部して、どうにか現在の三人になった。


「企画の内容は自由に検討したまえ。健闘を期待する」


加納先生は放送部恋愛事件を完全にスルーすると、「職員会議がある」と言い、部室を出ていった。


扉が閉まると、部室が急に静かになった。
俺たちはしばらく、その扉を見ることしかできなかった。


「放送部がなくなったら、写真部かな。あるいは美術部」


マイペースでしたたかな一年の宮本は、もはや次の部活の検討を始めている。


「去年一番見られた企画から考えよう。玲生が作ったもので、再生数200」


冷静な部長の多田が、過去の企画の分析を始めている。俺と同じ二年で、唯一の中学からの放送部経験者だ。


「それは題材がよすぎた…県大会に行ったチアリーディング部。突撃職員室の昼ご飯と、学校に住み着く猫に密着は滑ったし…」


どちらの企画も気に入ってはいるのだ。再生数が伸びなかっただけで。


「こうなったら手段は選んでいられない…」


俺にはある考えが、閃光のようにひらめいていた。


「どっかの部活から、みんなが思わず見てしまうスターを探して、その人気に全乗っかりした企画を作ろう!」


ええ…という顔の二人に、気づかないふりをする。
この窮地をひっくり返すのは、スターしかない!


■


サッカー部のエースは一年で、口数が少なくミステリアス。


そんな噂を聞いたのは、まだ見ぬスターを探して情報収集を始めてすぐのことだった。


「その話、知りたいな〜」


「四組の才川くん。イケメンで、サッカーめちゃくちゃ上手いよ」
「でも三言以上喋ってるところ、見たことないかも。何考えてるかわからないところもいいんだよね」


廊下で話していた一年生の女子たちが教えてくれた。


「ふ〜ん…それは気になる…。情報ありがと〜!」


俺は手を振ってその場を離れる。


放送部に向かいながら、俺は確信していた。


「これかもしれない、放送部、起死回生の企画…!!」


ミステリアスなサッカー部一年エースが、何を考えてるのか暴く!!


才川くんの魅力を、みんなに知ってもらおう!
サッカー部の情報収集をしないと。過去の試合も調べないと。


動画が注目されれば放送部は助かるし、才川くんもサッカー部のPRになる。Win-Winだ!!


■


サッカー部に取材の許可を取り付け、約束した時間ちょうど。


中庭で今か今かと待つ俺の前に、シュッと背の高い男子生徒が現れた。


一目見て、これは噂になるのもわかる、と納得する。


脚が…長い! 顔が小さい!
スポーツ選手らしいしっかりした骨格が、肩幅や体つきから見て取れる。


やや日焼けした綺麗な肌。
艶々とした黒髪が目元にかかっていて、その下にのぞく、切れ長で印象的な目。

――い、イケメンだ…!!


「放送部二年の貝谷玲生です! 初めまして!」


「一年、才川です」


才川は体育会系らしく、目を合わせてから、控えめに頭を下げた。
はっきりした声だ。


これでめちゃめちゃサッカーが上手いなんて、スターの原石だ。
動画はもちろん、画像でも充分に魅力を発揮するだろう。


「お願いした通り、サッカー部の注目の一年と聞いて、才川くんの取材に来ました!」


思わず食い気味に喋ってしまう。
彼を主役にして、500再生はいただいたようなものだと確信していた。


サッカー部の情報や、過去の試合内容は、既に調査してある。


才川のポジションは中盤。
運動量が多く、足も速い。
入部して数ヶ月で、まだ試合数は少ないものの、攻守共に光る働きをするプレイヤーで、すでにエース。


部活での活躍は申し分ない。
あとは話す姿を通して、その魅力を届けるだけだ。


「1時間くらいインタビューさせてもらって、才川くんがどういう人で何を考えてるのかを動画にしたいんだ。動画も撮らせてほしい。サッカー部のPRにもなるよ!」


まくしたてる俺を、才川は表情を変えず、黙って見ていた。


少し控えめな性格なのかもしれない。