僕がこの不良とまぐわいをしないと、どうやら村に災いが訪れるようです

 栗ご飯を炊いたから食べにきなよ。

 そう明海に誘われて、太一は明海の家へと出かけていった。当然ながら竜二も誘われていて、二人でお邪魔することになった。

「あ、いらっしゃい」

 明海は今日もでかいクリップで長い髪をひとまとめにしていた。染めなおしたようで、プリンの根元は薄茶色になり、金髪に近い毛先とのグラデーションが、黒髪だったころよりもややましになっていた。

 太一たちが入ってくると、機嫌よく遊んでいた真海はさらにご機嫌になった。あれこれおもちゃを指さして、いまどういう遊びにはまっているのか、教えてくれようとしている。 あの晩、病院に担ぎ込まれて以来、真海は熱がぶり返すことはなく、毎日よく寝てよく遊び、元気に過ごしているらしい。真海が元気になってなによりだ、と太一は安堵する。子どものつらそうだったり、しょげていたりする顔は、たとえ他人の子であっても見たくないものだ。

 今日は明海の母も在宅で、一緒に栗ご飯ランチの準備を手伝っていた。
 昼食には、栗ご飯だけではなくて、その他のおかず類も豪勢に並べられた。そのなかでも太一が一番、気に入ったのがスペアリブだった。甘辛く煮込んだスペアリブに、ふんだんに胡椒がかけられている。甘辛のたれに絡められたとろとろの肉は、大きな甘い栗がごろごろ入った栗ご飯と、不思議なくらい自然に味がなじんでいた。

「ご近所さんからたくさん栗をもらったから。たいっちゃんも持って帰ってね」
「あ、ありがとうございます。でも実は、うちにもすでに栗のおすそわけがされている状態で……」
「そうなのお? でも、たいっちゃんのところのほうが人数多いよね。ちょっとだけでも持って帰って消費して。うちだけじゃとても食べきれないくらいの量だから」

 自然豊かな明くる野村では、村人があちこちの土地を所有していて、そこでなにかしらの作物を育てている。売り物にするのではなく、あくまでも自分の家で消費するためのものだ。
 田舎ではいまだに、近所に自生しているので、自分で獲ったり、お裾分けをもらったりと、買わなくとも農作物をまかなえるというお得な現象が普通に発生する。いまの時期は、栗林で大量の栗が収穫の時期を迎えていた。

 昼食後は真海と少しだけ遊び、疲れた真海が眠たくなって昼寝をはじめたころに、起こさないようにしてこっそりと家を辞した。帰り際に、明海に大量の栗土産を持たされたのは言うまでもない。

「これから毎日栗ご飯だな」

 皮を剥くのが面倒だと、母さんに渋られるかもしれない。

「俺んとこもだ」

 背中に栗の入ったネットをかつぎつつ、竜二も同意する。そうしていると、金髪に鋭い目つきのせいで、勝手に農地に入り込み、転売目的で農作物を盗んだ若者に見えなくもない。
 明海の家から太一たちの家の間に、清白神社がある。ちょうど、境内へと続く長い階段のまえを通りがかった。

「あの、竜二くん」
「なに?」
「まぐわい、しない?」
「へあ?」

 竜二は気の抜けたような声を発して、歩みを止めた。

「え、いいの……? つうか、なんでいま」

 夏以来、長らく返事を引き延ばしていた。誘いをかけている竜二自身も、もう年内に返事が返ってくることはないとあきらめていただろう。

 太一は歩みを再開する。参道ではまだ、ヨバワリ様に話を聞かれてしまうかと思うと、続きを話しづらい。参道を抜けたころに、理由を語りはじめた。

「気にしすぎかもしれないけど……。このまえ真海くんが熱出したの、災いのひとつだったのかもしれないと思って」
「え……」

 竜二が目を丸くしている。

「そんなん、思いつかなかったわ。つうか、さすがに違うだろうよ。災いは例大祭から一年後で、村ごと呪われるんだべ?」
「うん……。たぶん、考えすぎなんだと思う。でも、僕がなかなかまぐわいをしないでいたら、こうやってちょっとずつ、よくないことが降りかかってくるのかもしれないと思ったら、落ち着かなくて」
「たいっちゃん、考えすぎ。真海の件は違う。絶対に違う。だから、心配すんな」

 竜二はいつになく真剣な表情だった。自分のせいなのではと心配する太一の不安を、ぬぐい去ろうとしている。

「僕だって違うと思ってる。でもこの先、もしまたなにかあったら、僕は自分で自分を許せなくなると思う」
「たいっちゃん……」
「だからまぐわいをしよう。なにかあってからじゃ遅いから。こじつけでも、心配しすぎでもいいよ。それで村に災いがなくなるなら、そのほうがいい」

 歩むたびに背負った栗がざしゃざしゃと音を立てた。

「……竜二くん、あの日、キスしてくれたよね。だったら僕と、そういうことできるってことでしょ」
「……まあ、そりゃあな」

 ちらりと横目で見上げると、竜二は顔を赤くして、手の甲で頬をこすっていた。
 なんだ、まぐわい百戦錬磨みたいな不良のくせに。僕とこういう話をするのは照れるのか。あまりに突然のことで、竜二も心の準備ができていなかったのかもしれない。

「たいっちゃんはいいの?」
「うん。どうせいつかはやらなきゃいけないわけだし」
「そうじゃなくて。相手は俺でいいのかって話」
「だって、竜二くん以外いないし」
「そうだけどさ……」

 不可抗力とはいえ、まぐわいをする相手が自分なんかでいいのかと竜二は気にしているようだった。

 田んぼのあぜ道へとやってきた。祭りのあとにそとへ出ろとじっちゃんに発破をかけられて、うらぶれた気持ちで歩いていたところで、竜二と出くわしたあのあぜ道に。
「僕は……これからも二次元にしか恋しないよ。だから竜二くんとまぐわいをするのは、恋愛だからじゃない」
「そうなあ」
「だからって、相手はだれでもいいわけじゃない。竜二くんは、いろんな愛の形があっていいって言ってくれた。そういう竜二くんとなら、できるって思った」

 しばらく無言で歩いた。二人の歩みと逆行して、数匹のトンボがあぜ道を勢いよく飛行していた。

「ほんじゃあ、いつ、する?」

 ややあってから、竜二が尋ねた。

「うーん……なるべく早いほうがいいよね」
「場所、どうすっか」
「うちには、いっつもだれかしらいるからなあ……」

 共働きの両親の不在を狙っても、家にいるじっちゃんとばっちゃんに聞き耳を立てられたらと思うと気まずい。

「うちでもいいけど。太一は人がいると落ち着かんか」
「というか家ですること自体、考えられないかも知れない……。いっそのことホテルとかのほうがいいのかなあ」
「男同士だと、もしかしたらことわられるかもしれんよ」
「そうなの?」
「まあ場所によっては」

 いたす場所の選択肢がなく、二人してしばし呻吟した。

「竜二くんはいままでするとき、自分の家だったんだよね?」
「うん。ほかに場所ねえし。うちの親、なんも気にしねえから。ただ、ちゃんと避妊はしとけってゴム買っておいてくれる」

 ど、どういう親なんだ、と太一はうろたえた。あきらかに明海との一件があるからだろうが、とはいえ息子に避妊具を買い与えるなど、危機管理意識が高いのか、寛容すぎるのかわからない。

「あ」

 竜二がなにか閃いたようだ。

「一番いい場所がある」
「どこ?」
「というか、もうそこしかねえべ」
「なに。どこ?」
「清白神社」

 竜二が、たったいま歩いてきた方角にある神社を指さした。