藤谷くんの高嶺の花

 藤谷と付き合うようになってから前ほど周りの声が気にならなくなった。
 あんなに届いていた声が、今は雑音に混じって届く。
 それだけでこんなに生活に色が付くものだろうか。

 交友関係も変化した。
「早瀬、飯どーする?」
「俺ら先食べてていい?はらぺこ〜」笹川と須山。2人は藤谷の友達だ。2人ともいい奴で一緒にいて楽しい。
 こんな風に高校生活を送れるようになるなんて思わなかった。藤田は一体、どんな魔法を使ったんだろう。
「あ、うん。先に行ってて。俺は藤谷待とうかな」
 藤谷は日直で担任に呼ばれている。『いい子で待ってること』そう、耳元で言われた。
 耳元が、まだくすぐったい。
「そっか。じゃあうちら先行くか」
「だな。あ。そうだ。なぁ、早瀬。今週末何してんの?」
 行きがけに笹川が聞いてきた。
 週末は佐伯達と合コンが多かったから、今は特に予定のない休日をのんびり過ごしていた。
「んー、特に何もないかな」
「そしたらさ。俺らと祭り行かね?」
「祭り?」
「近くの神社の祭りなんだけどさ。花火も上がるぜ」
「へぇ…」
 そーいえば去年は佐伯達に誘われたっけな。
 女の子が数人…いた気がする。
 みんなと行ったら、楽しいかもしれない。
 返事をしようとしたその時、
「お前ら…俺に内緒で早瀬誘わないでくれる?」
「藤谷…。おかえり」
「ん。ただいま。…いい子で待っててって言ったのに」
「え?」
「早瀬、ちょっといい?お仕置きしないと」
「は?え?」
 藤谷は2人に目配せする「どーぞどーぞ」とひらひら手をふられた。
 え…。
 藤谷、怒ってる?
 笹川も須山も、ただの友達だ。
 どうしよう。藤谷を怒らせたのだろうか…。

⭐︎

 えっと…。
「ふ、藤谷。これは一体…」
「お仕置き」
 お仕置き?これが?
 屋上に連れて来られた俺は、何故か藤谷の膝に頭をのせていた。
 藤谷の指が優しく髪を撫でる。
 恥ずかしい…。でも落ち着く。
「お仕置きって…。膝枕が?」
「早瀬の恥ずかしがってる顔、いいね」
 もはやお仕置きではなく甘やかしなのでは?
「祭り…」
「え?」
「嫌なら断っていいから」
「え?」
「本当は俺が誘いたかった。早瀬と行きたかったから。でも嫌な思い出あるんじゃないかなって思ったら誘えずにいた」
「藤谷…」
「本当は休みの日も早瀬と一緒に過ごしたい。でも学校でもずっと一緒で、休みの日もってずっとって思ったらなんか声かけられなかった。重すぎて引くよな」
 驚いた。
 そんな風に思ってくれていたなんで。
「藤谷って、強引な奴だなって思ってたけど、優しいんだな」
 ふっと顔が緩む。
 無意識に笑っていた。
「破壊力…」
「へっ?」
 破壊力?
「お願いだから、俺以外の奴にそんな風に笑うなよ」
「…え、あ。うん」
「俺に、少しは気を許してくれてるって思ってもいい?」
「うん」
 佐伯達といる時は、いつも感情を抑えていた。
 無意識に、自衛していた。
「……お祭り、行きたい」
「大丈夫そう?」
「うん。大丈夫。皆と行きたい」
「俺は2人きりがいいけどな」
「それだと笹川と須山に悪いよ」
「じゃあさ、花火の時は抜けて一緒に見ない?」
 一緒に。
 俺はコクリと頷く。「決まりな」
 藤谷がぽんぽん頭をなでる。
 恥ずかしくて、くすぐったくて。心地よい。
 頭を撫でられて、このまま寝てしまいそうだ。
「…早瀬ってさぁ」
「んー?」
「猫みたい…」
「猫⁉︎」
「………今もゴロゴロしてるし。それ、俺に甘えてくれてるんだよね。可愛くて愛おしい」
 しまった。
 完全に安心しきってた。
「……吸ってもいい?」
「は?お前何言ってんだ」
 吸う?吸うって言ったか?
「無理かぁ〜」
「逆に行けると思うメンタルすごいな」
「早瀬、ちょっと俺に懐いてきたし、ワンちゃんノリで行けるかなって」
 ノリ?ノリなら…いいのか?
「……一回だけだぞ」
「いいの?」
「は、早くしろよな」
 藤谷が距離をつめてくる。
 ジリジリと一歩ずつ。
 体が熱い。
 たまらず目を閉じた。
 藤谷に引き寄せられる。首筋に軽く藤谷の鼻が当たる。
 囁きと吐息が首筋に触れ、恥ずかしさのあまり言葉より先に藤谷を突き飛ばしてしまった。「痛っ」
 ゴロンと転げた藤谷が地面にうずくまる。「長すぎ!」
 藤谷が触れた場所が熱い。
 ドキドキする。気づいてしまう。この気持ちに。
 俺、藤谷の事…。 
 好きなんだ…。