待ちに待った、ナギと外出の日に限って大雨になった。でもこの日に撮った写真が、俺とナギの関係を前進させるきっかけになるとは思わなかった。
ナギと外出、って言っても正確には保護者付きだ。
高校に入って最初の夏休みだった。父さんが「ヒナタ、長野の別荘に行くぞ」と言い出した。「うちに別荘を買う余裕があったんなら、なんで前に欲しかったスニーカー買ってくれなかったんだよ」そんな不満を言うと、父さんは「うちにそんな金あるわけないだろ」と言って笑った。
聞くと、会社の所有する保養所の抽選に当たり、別荘が無料で使えることになったらしい。これがまたデカイ別荘で、二階建てのメゾネットだから俺たち旭山家だけじゃ持て余すって話になった。だから俺はとっさに、「ナギんとこに声かけようよ」と言った。
ナギはマンションのお隣さんだ。俺が小学生の時に、福島県から引っ越してきた。表札に書いてあった「海月」を「うみつき」と読んだら、「くらげって読むんだよ」と教えてくれたのがナギだった。ナギは高校生で、ブレザーがとても良く似合っていた。短い黒髪がスポーツ選手みたいだったけど、眼鏡のせいでやけに賢く見えた。
そんなかっこいいお兄さんにペタっと頭を撫でられ、不覚にも俺のハートは一瞬で落ちた。俺は、それこそ浜に打ち上げられたクラゲみたいにぐにゃぐにゃになったハートを掴んで自分の胸に押し込む。ものすごく強く胸を打って、またすぐにでも胸から飛び出しそうだ。顔を上げられなかった。
すると、親が玄関から顔を出して、互いに挨拶を済ませた。俺は小さな声で「あさひやま ひなた」です。と言った。ナギは「よろしく」と言って、俺に笑いかけた。それから七年間、ナギはずっとずっと憧れで、ずっとずっと好きだった。
「あぁ、海月さんとこ声かけてみようか。せっかくなら大人数の方が楽しいし」
ありがたいことに父さんも乗り気だった。そのままトントン拍子に話が進み、旭山家と海月家で長野の別荘に向かうことになった。俺は嬉しくて、その日のうちにナギにラインをした。ナギは「ヒナタが声かけてくれたんだってね。ありがとう」と返事をくれた。楽しみで仕方がない。
俺はクロゼットから、買ったばかりのスニーカーの箱を取り出した。自分のバイト代を貯めて買った新作だった。箱を開けて眺める。これを履いてナギと別荘地を楽しむんだ。散歩したり、BBQしたり、夜は花火とかしたりして……。そんな妄想をしつつ、SNSを開く。
投稿を始めたのは十四歳のときだった。理由は単純。ただ、ナギにかっこいい俺を見てほしかったから。それだけ。SNSなんてひとつも興味なかったナギに無理言ってアカウントを作らせて、一番にフォローしてもらった。
でもナギは俺の投稿を見てるのか見てないのか、よくわからなかった。リアクションくれないんだもん。〝いいね〟押してくれないの。「なんで?」って聞いたら、「ヒナタに、僕がいつも見てるって知られるの、恥ずかしいから」って言うんだよ。ナギからの通知は、他の人の〝いいね〟の百倍くらい嬉しいのに。
俺は気を取り直して投稿を確認した。
スニーカーを買いに行った時、店で足元を撮った写真にコメントがたくさん来ていた。
『足元のスタイリング完璧すぎる!全体コーデの写真も見たい✨』
『え、それ最近出た話題のやつだよね?!GETできたのすごすぎる👏』
他のコメントも全部眺めて、俺は一人でニヤニヤしてしまった。最初の頃は数十人だったフォロワーも、高校に入ってからみるみるうちに増えた。今は三百人くらいいる。正直言って嬉しかった。注目してもらえることも、「オシャレ」って褒めてもらえることも嬉しかった。でも、本当に褒めてもらいたい人からのコメントは無かった。
ナギは見てくれたかな。ナギはこれを履いてる俺を見て、なんて言ってくれるかな。早く一緒に出かけたい。
ナギと外出、って言っても正確には保護者付きだ。
高校に入って最初の夏休みだった。父さんが「ヒナタ、長野の別荘に行くぞ」と言い出した。「うちに別荘を買う余裕があったんなら、なんで前に欲しかったスニーカー買ってくれなかったんだよ」そんな不満を言うと、父さんは「うちにそんな金あるわけないだろ」と言って笑った。
聞くと、会社の所有する保養所の抽選に当たり、別荘が無料で使えることになったらしい。これがまたデカイ別荘で、二階建てのメゾネットだから俺たち旭山家だけじゃ持て余すって話になった。だから俺はとっさに、「ナギんとこに声かけようよ」と言った。
ナギはマンションのお隣さんだ。俺が小学生の時に、福島県から引っ越してきた。表札に書いてあった「海月」を「うみつき」と読んだら、「くらげって読むんだよ」と教えてくれたのがナギだった。ナギは高校生で、ブレザーがとても良く似合っていた。短い黒髪がスポーツ選手みたいだったけど、眼鏡のせいでやけに賢く見えた。
そんなかっこいいお兄さんにペタっと頭を撫でられ、不覚にも俺のハートは一瞬で落ちた。俺は、それこそ浜に打ち上げられたクラゲみたいにぐにゃぐにゃになったハートを掴んで自分の胸に押し込む。ものすごく強く胸を打って、またすぐにでも胸から飛び出しそうだ。顔を上げられなかった。
すると、親が玄関から顔を出して、互いに挨拶を済ませた。俺は小さな声で「あさひやま ひなた」です。と言った。ナギは「よろしく」と言って、俺に笑いかけた。それから七年間、ナギはずっとずっと憧れで、ずっとずっと好きだった。
「あぁ、海月さんとこ声かけてみようか。せっかくなら大人数の方が楽しいし」
ありがたいことに父さんも乗り気だった。そのままトントン拍子に話が進み、旭山家と海月家で長野の別荘に向かうことになった。俺は嬉しくて、その日のうちにナギにラインをした。ナギは「ヒナタが声かけてくれたんだってね。ありがとう」と返事をくれた。楽しみで仕方がない。
俺はクロゼットから、買ったばかりのスニーカーの箱を取り出した。自分のバイト代を貯めて買った新作だった。箱を開けて眺める。これを履いてナギと別荘地を楽しむんだ。散歩したり、BBQしたり、夜は花火とかしたりして……。そんな妄想をしつつ、SNSを開く。
投稿を始めたのは十四歳のときだった。理由は単純。ただ、ナギにかっこいい俺を見てほしかったから。それだけ。SNSなんてひとつも興味なかったナギに無理言ってアカウントを作らせて、一番にフォローしてもらった。
でもナギは俺の投稿を見てるのか見てないのか、よくわからなかった。リアクションくれないんだもん。〝いいね〟押してくれないの。「なんで?」って聞いたら、「ヒナタに、僕がいつも見てるって知られるの、恥ずかしいから」って言うんだよ。ナギからの通知は、他の人の〝いいね〟の百倍くらい嬉しいのに。
俺は気を取り直して投稿を確認した。
スニーカーを買いに行った時、店で足元を撮った写真にコメントがたくさん来ていた。
『足元のスタイリング完璧すぎる!全体コーデの写真も見たい✨』
『え、それ最近出た話題のやつだよね?!GETできたのすごすぎる👏』
他のコメントも全部眺めて、俺は一人でニヤニヤしてしまった。最初の頃は数十人だったフォロワーも、高校に入ってからみるみるうちに増えた。今は三百人くらいいる。正直言って嬉しかった。注目してもらえることも、「オシャレ」って褒めてもらえることも嬉しかった。でも、本当に褒めてもらいたい人からのコメントは無かった。
ナギは見てくれたかな。ナギはこれを履いてる俺を見て、なんて言ってくれるかな。早く一緒に出かけたい。
