翌朝。
教室に入ると、玲奈がすでに席についていた。
俺に気づくと、小さく首を横に振る。
「駄目だったわ」
「お祖父さんか」
「ええ」
玲奈は疲れたようにため息をついた。
「昨夜、電話したんだけどね。クロイツって名前を出した瞬間、なんでその名前を知っているのかって聞かれたわ」
「……それで?」
「友達の家だって言ったら、しばらく黙り込んで……知らない方がいい、って」
「知らない方がいい?」
「そう言われたら余計に気になるじゃない」
玲奈は苛立ったように前髪をかき上げる。
「食い下がったんだけど、書斎の本のことも、あれは間違いだったで押し通されたわ」
「間違い、ね」
「明らかに嘘よ。あの人、私が子供の頃から嘘だけは下手なんだから」
玲奈の言葉には、悔しさが滲んでいた。
「隠してるってことか」
「そうとしか思えないわ」
母さんの時とは違う。
あちらは知らないことに苛立っていた。
だが、玲奈の祖父は違う。
知っていて、隠している。
「おーす」
そこへ、絋弥が眠そうな顔で入ってきた。
「どうだった?」
俺が尋ねると、絋弥は大きく伸びをしながら椅子に腰を下ろした。
「親父は普通に知らねえってさ、お袋も忌み嫌われていたってのは知ってたけどその理由までは」
絋弥がふるふると首を振る。
「そうか」
「隼人」
玲奈が声を落とした。
「私のお祖父様、ああ見えて頑固なのよ。一度知らない方がいいって言ったら、たぶんもう何も言わないわ」
「分かってる」
俺は頷いた。
「だったら、別のところから当たるしかない……後で帝に聞きにいくか」
「帝なら午前中は休みらしいぜ」
背後から声がした。
振り返ると、雨宮が教室に入ってきたところだった。
その少し前を、涼子と京子が並んで歩いている。
「雨宮……なんで知ってるんだ」
二人に接点なんてあったか?
「さっき昇降口で帝のクラスの奴らがそう話してたのを聞いたんだよ……家の事情とかで午後から来るんだとよ」
「そうなのか、ありがとう雨宮」
「気にすんな……それよりその感じだとあまり進展はなかった感じか?」
「ああ、そうだな」
「……何か力になれることがあれば言ってくれよ」
「……ならクロイツ家について何か知ってたりしないか?」
「……知らないな……すまん」
「いや、良いんだ気にすんなダメで元々だ」
「だったら、別のところから当たるしかない……後で帝に聞きにいくか」
「帝なら午前中は休みらしいぜ」
背後から声がした。
振り返ると、雨宮が教室に入ってきたところだった。
その少し前を、涼子と京子が並んで歩いている。
「雨宮……なんで知ってるんだ」
二人に接点なんてあったか?
「さっき昇降口で帝のクラスの奴らがそう話してたのを聞いたんだよ……家の事情とかで午後から来るんだとよ」
「そうなのか、ありがとう雨宮」
「気にすんな……それよりその感じだとあまり進展はなかった感じか?」
「ああ、そうだな」
「……何か力になれることがあれば言ってくれよ」
「……ならクロイツ家について何か知ってたりしないか?」
「……知らないな……すまん」
「いや、良いんだ気にすんなダメで元々だ」
「クロイツ家、ですって?」
話を聞いていたらしい涼子が、こちらへ歩み寄ってきた。
「クロイツさんの家が、何か関係ありますの?」
「……まだ分からない。ただ、今のところ手がかりはそこしかないんだ」
俺は簡単に事情を説明した。
退学の理由が家の事情としか伝えられていないこと。その家について、誰も何も語ろうとしないこと。
「なるほど」
涼子は顎に指を当てた。
「でしたら、うちの家にも聞いてみますわ」
「……いいのか?」
「別に、大したことではありませんもの」
涼子はつんと顔を背ける。
「ただ、あまり期待はなさらないで。西園寺家と九条家がご存じないのなら、水無家が知っている可能性は低いでしょうし」
「……そうだな」
貴族としての格でいえば、西園寺と九条の方が上だ。
その二つが揃って口をつぐむ話を、水無家が抱えているとは考えにくい。
「それでも、聞くだけならタダですわ」
「私からも聞いてみるわ」
京子も続けた。
「父様なら、案外あっさり教えてくれるかもしれないし」
「……助かる」
「勘違いなさらないで」
涼子が即座に言い返す。
「同じクラスの生徒がいなくなったのですもの。気になるのは当然でしょう」
そう言って、涼子は足早に自分の席へ向かっていった。
京子が肩をすくめ、その後を追う。
「……悪いな、うちのお嬢様方が」
雨宮が小声で言った。
「あの二人、素直じゃねえだけだから」
「知ってる」
俺が答えると、雨宮は小さく笑って自分の席へ戻っていった。
五限目が終わった頃。
俺は帝の教室を覗いた。
窓際の席に、見覚えのある姿があった。
紫の髪。隙のない制服の着こなし。
帝竜二が、頬杖をついて外を眺めている。
――いた。
「帝」
声をかけると、帝はゆっくりとこちらを向いた。
「……桐宮か」
その表情に、驚きはなかった。
「珍しいな。君が自分から僕に用があるとは」
「聞きたいことがある」
「クロイツのことだろう」
俺は言葉に詰まった。
「……知ってたのか」
「昨日から、君たちが妙な動き方をしていることくらいは耳に入る」
帝は立ち上がり、鞄を肩にかけた。
「ここで話すことじゃない。来たまえ」
連れて行かれたのは、校舎の裏手にある人気のない中庭だった。
春先の風が、まだ少し冷たい。
「それで」
帝はベンチに腰を下ろすと、俺を見上げた。
「彼女に何があった」
「……知らないのか」
「退学したという話は聞いた。それだけだ」
「そうか」
俺は、これまでの経緯を簡潔に話した。
突然の退学。消えたアカウント。そして、学園長でさえ真相を知らないこと。
帝は黙って聞いていた。
話し終えると、しばらく沈黙が続く。
「……なるほど」
やがて、帝は低く呟いた。
「それで、僕のところへ来たわけか」
「一年の時、お前は言いかけただろ」
俺は帝を真っ直ぐに見た。
「クロイツ家といえば、かつて――ってな」
「……ああ」
帝の表情が、僅かに歪んだ。
「あの時のことは、今でも恥じている」
「そのことを責めに来たんじゃない」
俺は首を横に振った。
あの後、帝がサラに頭を下げたことは覚えている。
この男が、自分の非を認めて謝罪する姿を見たのは、あれが最初で最後だ。
だからこそ、今こうして向き合っている。
「あの続きが知りたい。お前は、クロイツ家の何を知ってる?」
「……期待に添えるかは分からんぞ」
帝は前置きしてから、ゆっくりと口を開いた。
「僕が知っているのも、大した話ではない」
「構わない」
「クロイツ家は、かつて――何らかの儀式に手を染めていたそうだ」
「儀式?」
「ああ」
帝は頷く。
「僕が幼い頃、家の者が話しているのを小耳に挟んだだけだがね。クロイツというのは、ずいぶんと怪しい儀式をやっていた家だと」
「どんな儀式だ」
「そこまでは知らん」
帝は肩をすくめた。
「聞こうとしたら、子供が知る話ではないと叱られた。それきりだ」
「……」
「ただ、一つだけ覚えている」
帝は視線を落とした。
「話していた大人たちの声が、妙に低かった。まるで、口に出すこと自体を憚っているようだったよ」
俺は拳を握った。
――儀式。
母さんも、玲奈の祖父も、九条の祖父も。
誰も口にしなかった言葉が、ようやく一つ出てきた。
「その儀式のせいで、呪われた一族って呼ばれてるのか?」
「おそらくはな」
帝は答える。
「だが、確証はない。僕が知る限り、クロイツ家について語る者はほとんどいない。語る者がいないから、噂だけが形骸として残っている」
「……」
「一年の時、僕は君たちに向かってあんなことを口にした」
帝は苦い顔をした。
「だが今にして思えば、僕自身、何も分かっていなかった。ただ、聞きかじった不吉な話で人を貶めようとしただけだ」
「……そうか」
「軽蔑してくれて構わんよ」
「してない」
俺は正直に答えた。
「今のお前は、ちゃんと答えてくれてる。それで十分だ」
「……ふん」
帝は顔を背けた。
その耳が、僅かに赤くなっているように見えたのは気のせいだろうか。
「一つ、忠告しておこう」
帝は立ち上がり、こちらを振り返った。
「僕の父も祖父も、クロイツ家の名を出すと明らかに態度が変わった。それだけの何かがある家だ」
「ああ」
「君が首を突っ込もうとしているのは、そういう場所だということを忘れるな」
「分かってる」
「……分かっていないな、その顔は」
帝は呆れたようにため息をついた。
「まあ、いい。君はそういう男だ」
そう言って、帝は歩き出す。
俺は、その背中を見送る。
――怪しい儀式。
まだ、断片に過ぎない。
だが、確かに一歩前へ進んだ。
俺はすぐに、玲奈たちへ連絡を入れた。
その夜。
寮の自室に戻った俺は、ベッドに腰を下ろして天井を見上げていた。
西園寺の祖父。九条の祖父。帝の父と祖父。
揃いも揃って、口をつぐむ。
それでも、帝から得た「儀式」という言葉は大きい。
クロイツ家は、かつて何かをやっていた。
そして、それを知る世代は、今もそれを語りたがらない。
――だとすれば。
その儀式が、今も続いているとしたら。
サラが呼び戻された理由も、そこにあるんじゃないか。
「……考えすぎか」
俺は頭を振った。
根拠のない想像を膨らませても仕方がない。
だが、胸のざわつきは消えなかった。
窓の外では、夜風が枝を揺らしている。
教室に入ると、玲奈がすでに席についていた。
俺に気づくと、小さく首を横に振る。
「駄目だったわ」
「お祖父さんか」
「ええ」
玲奈は疲れたようにため息をついた。
「昨夜、電話したんだけどね。クロイツって名前を出した瞬間、なんでその名前を知っているのかって聞かれたわ」
「……それで?」
「友達の家だって言ったら、しばらく黙り込んで……知らない方がいい、って」
「知らない方がいい?」
「そう言われたら余計に気になるじゃない」
玲奈は苛立ったように前髪をかき上げる。
「食い下がったんだけど、書斎の本のことも、あれは間違いだったで押し通されたわ」
「間違い、ね」
「明らかに嘘よ。あの人、私が子供の頃から嘘だけは下手なんだから」
玲奈の言葉には、悔しさが滲んでいた。
「隠してるってことか」
「そうとしか思えないわ」
母さんの時とは違う。
あちらは知らないことに苛立っていた。
だが、玲奈の祖父は違う。
知っていて、隠している。
「おーす」
そこへ、絋弥が眠そうな顔で入ってきた。
「どうだった?」
俺が尋ねると、絋弥は大きく伸びをしながら椅子に腰を下ろした。
「親父は普通に知らねえってさ、お袋も忌み嫌われていたってのは知ってたけどその理由までは」
絋弥がふるふると首を振る。
「そうか」
「隼人」
玲奈が声を落とした。
「私のお祖父様、ああ見えて頑固なのよ。一度知らない方がいいって言ったら、たぶんもう何も言わないわ」
「分かってる」
俺は頷いた。
「だったら、別のところから当たるしかない……後で帝に聞きにいくか」
「帝なら午前中は休みらしいぜ」
背後から声がした。
振り返ると、雨宮が教室に入ってきたところだった。
その少し前を、涼子と京子が並んで歩いている。
「雨宮……なんで知ってるんだ」
二人に接点なんてあったか?
「さっき昇降口で帝のクラスの奴らがそう話してたのを聞いたんだよ……家の事情とかで午後から来るんだとよ」
「そうなのか、ありがとう雨宮」
「気にすんな……それよりその感じだとあまり進展はなかった感じか?」
「ああ、そうだな」
「……何か力になれることがあれば言ってくれよ」
「……ならクロイツ家について何か知ってたりしないか?」
「……知らないな……すまん」
「いや、良いんだ気にすんなダメで元々だ」
「だったら、別のところから当たるしかない……後で帝に聞きにいくか」
「帝なら午前中は休みらしいぜ」
背後から声がした。
振り返ると、雨宮が教室に入ってきたところだった。
その少し前を、涼子と京子が並んで歩いている。
「雨宮……なんで知ってるんだ」
二人に接点なんてあったか?
「さっき昇降口で帝のクラスの奴らがそう話してたのを聞いたんだよ……家の事情とかで午後から来るんだとよ」
「そうなのか、ありがとう雨宮」
「気にすんな……それよりその感じだとあまり進展はなかった感じか?」
「ああ、そうだな」
「……何か力になれることがあれば言ってくれよ」
「……ならクロイツ家について何か知ってたりしないか?」
「……知らないな……すまん」
「いや、良いんだ気にすんなダメで元々だ」
「クロイツ家、ですって?」
話を聞いていたらしい涼子が、こちらへ歩み寄ってきた。
「クロイツさんの家が、何か関係ありますの?」
「……まだ分からない。ただ、今のところ手がかりはそこしかないんだ」
俺は簡単に事情を説明した。
退学の理由が家の事情としか伝えられていないこと。その家について、誰も何も語ろうとしないこと。
「なるほど」
涼子は顎に指を当てた。
「でしたら、うちの家にも聞いてみますわ」
「……いいのか?」
「別に、大したことではありませんもの」
涼子はつんと顔を背ける。
「ただ、あまり期待はなさらないで。西園寺家と九条家がご存じないのなら、水無家が知っている可能性は低いでしょうし」
「……そうだな」
貴族としての格でいえば、西園寺と九条の方が上だ。
その二つが揃って口をつぐむ話を、水無家が抱えているとは考えにくい。
「それでも、聞くだけならタダですわ」
「私からも聞いてみるわ」
京子も続けた。
「父様なら、案外あっさり教えてくれるかもしれないし」
「……助かる」
「勘違いなさらないで」
涼子が即座に言い返す。
「同じクラスの生徒がいなくなったのですもの。気になるのは当然でしょう」
そう言って、涼子は足早に自分の席へ向かっていった。
京子が肩をすくめ、その後を追う。
「……悪いな、うちのお嬢様方が」
雨宮が小声で言った。
「あの二人、素直じゃねえだけだから」
「知ってる」
俺が答えると、雨宮は小さく笑って自分の席へ戻っていった。
五限目が終わった頃。
俺は帝の教室を覗いた。
窓際の席に、見覚えのある姿があった。
紫の髪。隙のない制服の着こなし。
帝竜二が、頬杖をついて外を眺めている。
――いた。
「帝」
声をかけると、帝はゆっくりとこちらを向いた。
「……桐宮か」
その表情に、驚きはなかった。
「珍しいな。君が自分から僕に用があるとは」
「聞きたいことがある」
「クロイツのことだろう」
俺は言葉に詰まった。
「……知ってたのか」
「昨日から、君たちが妙な動き方をしていることくらいは耳に入る」
帝は立ち上がり、鞄を肩にかけた。
「ここで話すことじゃない。来たまえ」
連れて行かれたのは、校舎の裏手にある人気のない中庭だった。
春先の風が、まだ少し冷たい。
「それで」
帝はベンチに腰を下ろすと、俺を見上げた。
「彼女に何があった」
「……知らないのか」
「退学したという話は聞いた。それだけだ」
「そうか」
俺は、これまでの経緯を簡潔に話した。
突然の退学。消えたアカウント。そして、学園長でさえ真相を知らないこと。
帝は黙って聞いていた。
話し終えると、しばらく沈黙が続く。
「……なるほど」
やがて、帝は低く呟いた。
「それで、僕のところへ来たわけか」
「一年の時、お前は言いかけただろ」
俺は帝を真っ直ぐに見た。
「クロイツ家といえば、かつて――ってな」
「……ああ」
帝の表情が、僅かに歪んだ。
「あの時のことは、今でも恥じている」
「そのことを責めに来たんじゃない」
俺は首を横に振った。
あの後、帝がサラに頭を下げたことは覚えている。
この男が、自分の非を認めて謝罪する姿を見たのは、あれが最初で最後だ。
だからこそ、今こうして向き合っている。
「あの続きが知りたい。お前は、クロイツ家の何を知ってる?」
「……期待に添えるかは分からんぞ」
帝は前置きしてから、ゆっくりと口を開いた。
「僕が知っているのも、大した話ではない」
「構わない」
「クロイツ家は、かつて――何らかの儀式に手を染めていたそうだ」
「儀式?」
「ああ」
帝は頷く。
「僕が幼い頃、家の者が話しているのを小耳に挟んだだけだがね。クロイツというのは、ずいぶんと怪しい儀式をやっていた家だと」
「どんな儀式だ」
「そこまでは知らん」
帝は肩をすくめた。
「聞こうとしたら、子供が知る話ではないと叱られた。それきりだ」
「……」
「ただ、一つだけ覚えている」
帝は視線を落とした。
「話していた大人たちの声が、妙に低かった。まるで、口に出すこと自体を憚っているようだったよ」
俺は拳を握った。
――儀式。
母さんも、玲奈の祖父も、九条の祖父も。
誰も口にしなかった言葉が、ようやく一つ出てきた。
「その儀式のせいで、呪われた一族って呼ばれてるのか?」
「おそらくはな」
帝は答える。
「だが、確証はない。僕が知る限り、クロイツ家について語る者はほとんどいない。語る者がいないから、噂だけが形骸として残っている」
「……」
「一年の時、僕は君たちに向かってあんなことを口にした」
帝は苦い顔をした。
「だが今にして思えば、僕自身、何も分かっていなかった。ただ、聞きかじった不吉な話で人を貶めようとしただけだ」
「……そうか」
「軽蔑してくれて構わんよ」
「してない」
俺は正直に答えた。
「今のお前は、ちゃんと答えてくれてる。それで十分だ」
「……ふん」
帝は顔を背けた。
その耳が、僅かに赤くなっているように見えたのは気のせいだろうか。
「一つ、忠告しておこう」
帝は立ち上がり、こちらを振り返った。
「僕の父も祖父も、クロイツ家の名を出すと明らかに態度が変わった。それだけの何かがある家だ」
「ああ」
「君が首を突っ込もうとしているのは、そういう場所だということを忘れるな」
「分かってる」
「……分かっていないな、その顔は」
帝は呆れたようにため息をついた。
「まあ、いい。君はそういう男だ」
そう言って、帝は歩き出す。
俺は、その背中を見送る。
――怪しい儀式。
まだ、断片に過ぎない。
だが、確かに一歩前へ進んだ。
俺はすぐに、玲奈たちへ連絡を入れた。
その夜。
寮の自室に戻った俺は、ベッドに腰を下ろして天井を見上げていた。
西園寺の祖父。九条の祖父。帝の父と祖父。
揃いも揃って、口をつぐむ。
それでも、帝から得た「儀式」という言葉は大きい。
クロイツ家は、かつて何かをやっていた。
そして、それを知る世代は、今もそれを語りたがらない。
――だとすれば。
その儀式が、今も続いているとしたら。
サラが呼び戻された理由も、そこにあるんじゃないか。
「……考えすぎか」
俺は頭を振った。
根拠のない想像を膨らませても仕方がない。
だが、胸のざわつきは消えなかった。
窓の外では、夜風が枝を揺らしている。

