誰もが憧れる生徒会長は、副会長には素直になれない。

「じゃあ次の授業までにちゃんと宿題やってくるようにー。」
4時間目の授業が終わると同時に、昼休みを待ち望んでいた生徒たちの声で一気に教室が騒がしくなった。
さっきまで使っていた教科書を机の中にしまいながら、ちらりと前の方の席を見る。
青柳は…今日も新井達と食べるのか。
俺から青柳に話しかける勇気なんてなくて、その様子を遠くから眺めることしかできない。
青柳の様子がおかしかったあの日から、青柳は俺に話しかけてくることがほとんどなくなった。
おはようとか挨拶はしてくれるけど、今まで散々翻弄されてきた猛烈なアタックはめっきりなくなったし、
毎日一緒に食べていたお昼ご飯も、いつも青柳から誘われていたため青柳と話さなくなった今、自然と別々で食べるようになってしまった。
一体どうして…。


***


「それで俺にすがりついてきたってことっすか。」

こんな悩み事凱にしか話せなくて、いつも青柳とお弁当を食べていた階段で相談に乗ってもらうことにした。
明らかに興味がなさそうな顔をしていて申し訳ないが、なんだかんだ相談に乗ってくれる。

「俺、なんかしちゃったかな…」
「お、星5。すきなコからはなしかけられそう!ですって。」
そう言うと律儀に占いが書かれているグラタンのカップを俺に見せてくる。
まともに俺の話を聞いているかは随分怪しいが、構わず話を続けさせてもらう。

「俺のこと、好きじゃなくなったのかな…」
「いやぁ鬼の形相で睨みつけられた俺からするとありえないっすねぇ。ちょー怖かったっすよ。」
「にら…え?」
青柳のことが怖かったと言いながらも、表情を変えずに唐揚げを口に入れる。
青柳に睨まれるなんて何したんだよ。

「いいんすか?このままで。」
「そりゃ良くないけど…青柳には、俺なんかより相応しい人が…」
俺の言葉は凱のため息に遮られる。
「俺は、"会長”がどう思ってるかを聞いてるんです。」
俺は、俺は青柳のことが好きだ。誰よりも青柳のことが好きで、青柳の隣にいるのは俺がいい。
一度思いが溢れると、いても経ってもいられなくて勢いよく立ち上がる。
「俺…行ってくる!」


「あーあ、敵に塩送っちゃったなぁ…。」


***


「はぁ、はぁ」
息が切れるのも構わず、全力で階段を駆け上がる。
なんとなく青柳がいるのは屋上だと思った。
この先に青柳がいる。そう信じて疑わないで勢いよく屋上の扉を開ける。

「青柳!」

「春野…?」

予想通り屋上にいた青柳は、俺の声に反応して、驚いた顔をしながら振り向く。

「なんで春野がここに…」
「えっと、その…」

さっきまで気持ちがあふれて止まらなかったのに、いざ青柳を目の前にすると言おうと思っていたことがうまく口から出てくれなくて、少しの間沈黙の時間が流れる。

「…なんで、最近話しかけてくれないの?俺のこと、好きじゃなくなった…?」

やっと絞り出した声は、青柳に届いたかも分からないぐらい小さくなってしまった。
青柳の顔を見ると、俺の言葉は届いていたようで悲しそうな顔をしながら口を開く。

「俺、反省したんだ。一方的に春野のことを好きだっていい続けて…ごめんね、たくさん困らせて。春野は俺のこと、好きじゃないのに。」

そう言って青柳は校内に戻る扉へ向かって歩き出す。
違う、違うんだ。俺は青柳のことが…
このままじゃ青柳は俺の元から離れていって、もう二度と戻って来ないような気がした。
嫌だ。そんなの絶対に…

「嫌だ!」

気づいたら足が動いていて、青柳の腕を掴んでいた。

「好きだ…!」
「青柳のことが、好き!」

今更言っても意味がない。青柳の気持ちはもう俺から離れてるのに…。

「うん、知ってる。俺も春野のことが好き。」

「…は!?」
あまりの衝撃に勢いよく青柳の顔を見上げると、さっきまで悲しそうな顔をしていたはずなのに、今はいつも俺に好きかどうか聞いてくる時のいたずらな笑みを浮かべている。

「いやぁ嬉しいな。春野が俺のことを好きって言ってくれるなんて。」
「いや…え!?俺のこと好きじゃなくなったんじゃ…!」
「何の話?俺が春野のこと好きじゃなくなるなんてありえないんだけど。」
「な、え…!」
さっきとあまりにも様子が違いすぎないか…!
「最近話しかけなかったのは、このまま一緒にいたら抑えが効かなくなりそうでちょっと頭冷やしてたから。でも春野と喋れないのもそろそろ限界だから、いつも通りに戻ろうと思った時に春野が思いを伝えてくれそうだったから、演技を…つい。」
「だ、騙したな…!」
どうやら俺は、俺に好きと言わせるための青柳の演技にまんまとハマってしまったようだ。

「でも…!この前告白されてた時に嬉しそうにしてたのは?」
「え?告白?」
「会議があった日の!」
「…あー、顔に出てた?あれは緊張してる姿が初めて屋上で会った時の春野と重なってかわいいなって思ったの。」
「何だよ、それ…」
安心感からか、涙が溢れてくる。
「俺に振られたと思っちゃって泣いてるの?俺のことは何回も振ったのに?」
「意地悪いこと言うなぁ…うぅ…」
「ごめんごめん、春野が可愛いからつい意地悪したくなっちゃって。」
「可愛いとか言うなぁ…ひっく、俺は皆に憧れられる生徒会長なんだよ〜…」
「ねぇ春野、俺の前では無理して取り繕うの辞めていいんだよ。春野はそのままでも十分凄いし、俺にしか見せない春野の表情が好き、大好き。」
そう言って青柳はまっすぐ俺を見てくる。

「ねぇ春野、キス…してもいい?」

「うん…。」
青柳の顔がゆっくり近づいてきて、目を閉じる。
うるさい胸の鼓動で時間感覚なんてなくなったが、それにしても長くないか…?
息が苦しくなって青柳の肩をたたく。

「はは、キス下手くそ…」
「うるさい…。」
ゆっくりと目を開けると、愛おしいという表情で見つめてくる青柳と目があって照れくさくなる。
「でも、何でいきなり俺に気持ち伝えてくれたの?」
「あ、それは凱に背中を押してもらって…」
そう言った途端わかりやすく青柳が顔をしかめる。
「あいつとはもうしゃべんないで。」
「あいつって…凱のこと?」
「あいつ絶対春野のこと…いやなんでもない。」
そういえば凱も青柳に睨まれたとか言ってたな。
二人は犬猿の仲なんだろうか。
凱との会話思い出していると、青柳は面白くないといった表情を向けてくる。
「それよりもう一回キスしていい?」
「も、もう今日はだめ!」


「じゃあ…これだけ聞いてもいい?」

「春野、俺のこと好き?」

あの時誤魔化してしまった答えを、今なら素直に答えられる。

「うん。青柳のことが好き、大好き。」