誰もが憧れる生徒会長は、副会長には素直になれない。

ホームルームが終わり、学校に残って話していた生徒達も下校しようとする中、俺は校門とは反対方向に歩いていく。
「これ、入っていいやつなのか…?」
生徒会のことで伝えたいことがあるため、部活中であろう青柳を探しに体育館の前まで来た。
体育館の扉は閉められているが、キュ、キュとバスケシューズが床を踏む音が聞こえるため、青柳の所属しているバスケ部が活動中なのはよくわかる。
果たして部活の活動中に部外者が扉を開けていいのかと、少しの間悩んでいたがずっと扉の前で待ってるわけにはいかないため、そっと扉を開ける。
青柳はどこだ…。
あ、いた。
初めて見る部活中の青柳は、味方に指示を出しながら華麗に敵を抜かしていて、なんというか、すごい、
「かっこいい…。」
…いやいやいや何見惚れてるんだ俺!
バスケをする青柳を見るためじゃなくて、伝えることがあるここから来たんだろ!
でも試合中みたいだし誰か伝言に伝言を頼んでおこうかな…。あ、あそこに同じクラスの、
「春野っ!危ない!」
「え?」
声が聞こえてきたと同時に頭の真横でドンッと鈍い音が聞こえ、ぎゅっと目を閉じる。
「大丈夫か!春野!」
だんだん近づいてくるこの声は、青柳…?
ゆっくりと目を開けると、とても焦った顔をした青柳が俺の方に走ってきて、勢いよく肩を掴まれた。
「あ、青柳…?」
「だ、大丈夫だった…!?俺が手を滑らせたせいでボールが…!」
どうやらさっき聞こえた鈍い音は、飛んできたバスケットボールが俺の顔のすぐ近くの体育館の扉にぶつかった音らしい。
「ぜ、全然大丈夫だから、ち、ちか…!」
「青柳ー大丈夫かー?そろそろ再開するぞー。」
心配そうな顔をして見つめてくる青柳との近すぎる距離に限界を迎えそうになった時、コートのほうから声が聞こえた。
「ほんとごめん、あとちょっとで休憩時間入るから安全なとこで待ってて…。」
青柳は一瞬俺の顔を見て悩んだ表情を見せたが、そう言い残してコートに走り出していった。


***


「さっきはほんとごめん。怪我とかしてない?」
「う、うん。大丈夫…ていうか俺にはボール当たってないし、そんなに謝らなくても…。」
青柳がコートに戻って行ったあとギャラリーへと続く階段にひっそりと座っていると、休憩時間になった途端俺のところへ走ってきていて、今に至る。
「はぁ…良かった。俺春野に怪我させちゃったかと思って、血の気引いた…。」
俺の言葉を聞いて安心したようで、ゆっくりと俺の隣に座ってきて壁側に押しやられる。
あ、相変わらず距離が近い!
「というか、なんで春野がここに?」
「あ、そうだ生徒会のことで用があって…。」
「わざわざ直接来てくれたんだ。スマホで連絡してくれてもよかったのに。」
実は部活中の青柳を見てみたかったから、なんて言えるわけがなくて誤魔化すように目を逸らす。
「ねぇ春野。今週の日曜日空いてる?」
「え、特に予定はないけど…何で?」
突然の質問で青柳に目線を戻すと、何か企んでいるような笑顔を浮かべていた。
「どっか遊びに行こうよ。怖がらせちゃったお詫び、
何かさせて。」
「い、いやお詫びだなんてそんな…!」
「俺からの頼み。ね?」
子犬のような目をした青柳がじっとこちらを見つめてくる。青柳の場合はどちらかと言うと大型犬だけど…。
あーだこーだ考えている間にもじっと目を見て少しずつ近づいてくる。俺がこの顔に弱いのを知っているのか?
「じゃ、じゃあ…」


***


「か、かわいい…!」
太ももの上で丸まるふわふわの天使をそっと撫でる。
「春野って猫好きだったんだ。」
「う、うん。小さい頃から好きなんだけど、親に飼いたいとか言えないし、一回来てみたかったんだけど1人じゃ勇気がでなくて…。」
結局何かお詫びをさせて欲しいと迫ってくる青柳の圧に負けて、遊びに行くことになった。
学校の外で青柳に会うの、初めてだな…。
というか今日は一日中青柳と一緒にいるってこと?
無理無理無理耐えられない!
「ふーん、ずっと来てみたかったんだ。猫カフェ。」
「な、何ニヤニヤして…」
「いや、かわいいなって。」
「かわっ…!」
油断するとすぐ俺を惚れさせようとしてくるから、本当に恐ろしい。
てか、これじゃまるで…
「デートみたい。」
「えっ…!」
「って思った?」
「お、思ってない!」
何とか誤魔化そうとして隠そうとして猫を撫でるが、動揺から撫でるスピードが速くなってしまって、すやすや寝ていた天使は、くわぁと大きなあくびをして目を開けた。
「お、春野の膝の上の寝心地はどうだったか?羨ましいぞー…うぉっ。」
青柳が目が覚めた猫を覗き込むように顔を近づけると、不機嫌そうな顔をしながら前足をピーンとさせて、青柳のおでこを押した。
「あははっ!青柳っ、すごい嫌がられてるっ…!」
目の前の光景に思わず笑いが止まらなくなってしまう。
「春野が大笑いしてるとこ、初めて見た…」
「はぁっ、まさか青柳が動物に嫌われるタイプだったなんて…こっち見ないで!あははははっ!」
青柳はおでこを押されたまま、顔の向きを変えて驚いたような顔でこちらを見てくる。
「ちょっと笑いすぎだろー。」
あまりに笑いすぎて息ができなってきた。
ぱしゃ
ん…ぱしゃ?
息を整えながら音をした方を見ると青柳がスマホをこちらに向けていた。
「春野の大笑いショットゲット〜。」
「ちょ、恥ずかしいから消して…!」
「やだ。これからカメラロールを色んな春野で埋めて行くんだから。」
「だから、これからもいろんな表情見せて?」
「は、はい…。」
な、何素直に返事してるんだよ俺!
青柳に見つめられたら反論なんてできなくて、頷いてしまう。
「このあと行きたいところある?今日はとことん付き合うよ。」
「じゃ、じゃあ次は…」


***


「今日は楽しかったね、春野。」
猫カフェのあと、映画を見たり食べ歩きをしたりと、
青柳は俺のしたいことにどこまでも付き合ってくれた。
青柳と1日中一緒なんて耐えられないと思っていたが、結局1日中楽しんでしまった。

「今日はありがとう…でもよかったの?俺の行きたいとこばっかりだったし、それに家まで送ってもらっちゃって…」
「気にしないで、今日はお詫びなんだし、何より今日行ったところは俺がついて行きたくて行ったの。それに…」

「春野が喜んでる姿見てるのが一番楽しかったから。」
そう言って屈託のない笑顔を向けてくるから、思わず胸がときめいてしまう。

「それより…」
「どう?俺のこと好きになった?」
「な、なってない!」
そういえば今俺は青柳に"絶対惚れさせる宣言"をされていたんだった。
青柳は動揺している俺の姿を見て満足したのか、
「じゃあまた明日、学校で。」
と言い俺の頭をぽんとしてから行ってしまった。

「っ…!はぁー…。」
別れ際に爆弾を落とされて、声にならない声を出しながらへにょへにょと家の前で座り込む。
「俺、いつになったら青柳に好きって言えるんだろ…。」