誰もが憧れる生徒会長は、副会長には素直になれない。

や、やってしまったーーー…。
一時間目が終わり、席で頭を抱えながら朝の出来事を思い出す。



「す、好きじゃない!」
過剰なほど青柳を浴びて頭がまともに働くわけがなくて、つい思ってもないことを口走ってしまった。
「あ、いやえっと…!」
急いで前言撤回をする前に青柳が口を開く。
「そっか、春野は俺のこと好きじゃないのか。」
告白をした相手に降られたと言うのに、青柳は案外なんともないような顔をして俺の言葉に納得をしている。
「あ、青柳…?」
想像していなかった反応でさらに脳内が混乱する。
目を泳がせているといつの間にかまっすぐ俺を見ていた青柳と目が合う。
「俺、本気だから。」
「え?」
「“覚悟”、しててね。」
「か、覚悟…!?」
「俺先行くね。」
か、覚悟とは…?どういう意味か聞く前に青柳は体育館をあとにしてしまった。




お、俺青柳に告白された…?
というか、ずっと好きだった青柳から告白されたというのに、よりによって振ってしまうなんてばかすぎる…!
てか覚悟してってどういうこと!?俺はいったい何を覚悟すれば!?
「かいちょー?一人でしかめっ面してどうしたんすか?」
「わっ!…あぁ何だ凱(かい)か…」
「“何だ”ってって何すか、“何だ”って」
気を抜いているところに突然声をかけられてびっくりしたが、一年の生徒会メンバー、筒井 凱(つつい かい)でほっと胸を撫で下ろす。凱は一見生意気そうな後輩だけど、俺が少し無理をして理想の生徒会長を演じていることを初対面で見抜いてきたので、学校では凱にだけ自然体で接している。
「てか、もうすぐ二時間目始まるっすけど移動しなくていいんすか?かいちょーのクラスメイトさん達、実験室の方に向かってたっすけど。」
「え?、本当だ…。」
教室を見渡すと誰もいない。そういえば次の授業は移動教室だったか。
「もしかして、かいちょーぼーっとしてました?珍しいっすね、何かあったんすか?熱とかあるんじゃ…」
「いやだから熱は…」


「もしかして熱ある?」
朝、そう言って青柳がおでこに手を当ててきたことを思い出して顔に熱が集まる。
「かいちょー顔赤いっすよ?保健室行ったほうがいいんじゃないっすか?」
「だ、大丈夫だから!ほら、お前も授業遅れるぞ!」
そう言うと凱は口を尖らせてから、無理しないでくださいねーと言いながら1年の教室の方に戻っていった。
はー…。いくら凱が相手だとしても悩んでるところを目撃された上に心配までさせてしまうなんて。皆の見本となる生徒会長として失格だ…。
朝だって、マイクのケーブルに引っかかって転びそうにならなければ、青柳が俺のことを受け止めるなんてことをせずに済んだのに。
…ん?そういえばマイクを片付けてたのって凱じゃなかったか…?
凱がしっかりマイクをしまっていればこんなにややこしいことにならなかったのに、あいつ…!

「俺、本気だから。」

「あーもう!!」
何度もリフレインする青柳の言葉を消し去るように、頭を振ってから急いで実験室へと向かった。


***


「はぁ…」
全く今日は散々だ。
結局2時間目には遅れるし、4時間目の小テストの結果は散々で、担当の先生にも体調を心配される始末だった。
これじゃあ今まで積み上げてきたイメージが崩れてしまう…。
今日犯した数々の失敗を思い出し頭の中で反省会を開きながら廊下を歩く。

「春野くんっ!」

後ろからぱたぱたと何人かの足音が聞こえたと思ったら、誰かに声をかけられる。
後ろを振り向くと同じ学年の…確か三石(みいし)さんと彼女の友人であろう女子が2人いた。
「三石さん達、どうかした?」
すぐに落ち込んだ気持ちから“理想の生徒会長モード”にへと切り替え笑顔で対応をする。
「えっと、良かったらなんだけど私たちと一緒にお昼ご飯食べない?」
突然の誘いに少し驚きが顔に出そうになるが、すぐにまた笑顔をつくる。
いつもはクラスの仲がいい数人とお昼を食べてるが、その中に三石さんのことが好きだと言っていたやつがいたような…。しょうがない、恋のキューピットとやらになってやるか。
「もちろん。それで、良かったらうちのクラスに…」

「青柳くん…!?」
女子たちが驚いた顔をしたと同時に、後ろから長い腕がぬっと視界に現れ、俺の首元でクロスされる。
「ごめんねー?春野は俺と一緒にお昼食べることになってるから。他あたってくれる?」
「あ、青柳!?」
朝のことをまだ鮮明に覚えているため俺の体は一瞬で固まり、“理想の生徒会長モード”などすぐに剥がれ落ちてしまう。
「ほら、行くよ。」
「ちょっ…」
そう言って青柳は少し強引に俺の手を引いて歩き出す。
途中で振り返ると、女子達は突然の出来事に呆然と立ち尽くしていた。
会釈ぐらいはするべきだったんだろうけど、正直青柳のことで頭が一杯でそんなことをする余裕なんてなかった。


「きゃー!春野くんと青柳くんだ…!」
「今日も会長副会長コンビを拝める世界に感謝…」
「でもなんで青柳くんが春野くんの腕を引っ張ってるの?」
どうやら行き先は教室だったようだが、ただでさえ目立つ青柳が俺の腕を掴んで教室へと入ってくるという特殊な光景に教室がざわざわとしてしまったため、ひと気の少ない屋上へと続く階段に連れてこられた。
教室から階段に移動している最中も手は離してくれず、突然の状況と恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだ。

「あ、青柳…そろそろ手を…」
「はい、ここ座って。」
手を離されたかと思うと、目の前の階段を指さされる。

「わ、分かった…。」
圧に押されおとなしく座ると、青柳が隣に座ってくる。
一体なんでここに連れてこられたんだ?
二人っきりの状態に耐えられるわけがなく、直接青柳に理由を聞くことにした。
「えっと…俺になにか用が…?」
朝勢いで告白を断ったのが良くなかったのか…?
いやあれは本心じゃないから、本当は青柳のこと好きだって今すぐ伝えたいけど…。
…まさか青柳って意外と根に持つタイプなのか!?
そういえば朝“覚悟して”とか言ってたし、ま、まさか隙を見せたら…!
「さ、刺さないで…!」
「え、刺す?」
青柳はキョトンとした顔をして、いつの間にか持ってきていたらしいお弁当箱を開ける手をとめる。
「春野がなに想像してるかはわかんないけど、言ったじゃんさっき。一緒にお昼食べるって。」
どうやら、先ほどの女子たちにしていた一方的な宣言は本心からの言葉らしい。
「じゃあ覚悟っていうのは…」
「はい、春野口開けて」
「えっ…」
お箸で器用にたこさんウインナーを食べさせようとしてくる。
「はい、あーん。」
どうやらたこさんウインナーを食べるまでは質問に答えてくれないようだ。
青柳からのあーんなんて恥ずかしすぎるけど、もはや投げやりで箸で宙に浮いているたこさんウインナーを口に入れる。
「どう?おいしい?」
「お、おいしい、です…。」
な、何なんだこの甘い雰囲気は…?俺、本当に青柳からの告白、断っちゃったんだよな…?
「ねぇ春野。」
次のおかずを見定めるようにお弁当箱を眺めながら青柳が話しかけてくる。
「俺のこと好きじゃないなら、今から好きにさせるだけだから。」
そう言いながらハート型の卵焼きに箸を刺す。
「朝の、絶対俺のこと好きにさせるから覚悟しといてね。って意味。」
「これからどんどんアピールして俺のこと、絶対に好きにさせるから。」


***


青柳に“絶対惚れさせる宣言”をされてから、俺は毎日青柳と階段でお弁当を食べるようになった。いや一部食べさせられている、といったほうが正しいだろうか。
「はい、今日はミートボール!」
一度たこさんウインナーをあーんできたことに味をしめたのか、青柳は必ず俺におかずを食べさせてくるようになった。
最初はあまりの恥ずかしさに抵抗していたけど、青柳が弱点の俺が、捨てられた子犬のような目をした青柳を無視できるはずがなくて、最近は大人しく口を空けている。
「どう?おいしい?」
「う、うん、おいしい…」
「あ、口、ソースついてる。」
「え、どこ…」
青柳の手がゆっくりと近づいてきたかと思ったら、俺の口の端を親指でなぞり、そのまま指についたソースをぺろりと舐めた。
「なっ…!」
青柳といるだけで心臓がバクバクだというのにそんな事までされたら…。
「どう?そろそろ俺のこと好きになった?」
「な、なってない…!」
俺の心を見透かしているのか、ここぞとばかりに顔を覗き込んできて、好きになったかどうか聞いてくる。
ここまでがいつもの一連の流れだけど、正直いつまでたっても慣れない。
毎日のように続く青柳からのアタックは、いつまで続くのだろうか。
俺が面と向かって青柳に好きだと言えば済む話だけど、そんな恥ずかしいこと俺にはできるはずがない。
「そっかー、残念。」
俺の頭を悩ませる元凶は、俺のいつもの返事を聞いてからまたお弁当に視線を戻す。
「そうだ!明日は何が食べたい?」
いきなり顔を上げたと思ったら、どうやら明日俺にあーんするおかずを決めたいらしい。
その質問をしてくるということは、青柳の中では当たり前に明日も一緒にお弁当を食べることになっているということで、正直…嬉しい。
俺にとっては猛烈すぎるアタックに素直になれないだけで、青柳のことは大好きだし、一緒にいる時間が増えて嬉しい。けど、やっぱり寿命が縮んでいる気がするからやっぱりちょっと距離を…。
「明日はハンバーグ、がいい…。」
俺は、弱い…!