皆が憧れる生徒会長は、副会長の前だと素直になれない。


「春野って俺のこと好き、だよね?」
ああ神様…こんなとき、僕はどうしたらいいのでしょうか。
春野 凛(はるの りん)、高校二年生。どうやら好きバレしていたみたいです。


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「みなさんおはようございます。」
体育座りをした生徒たちが、マイク越しの僕の挨拶に反応をしてまばらに頭を下げる。
「生徒会長の春野 凛です。」
この学校では週に一度全校生徒が体育館に集まり、朝礼が行われる。
いつもの朝礼なら僕も全校生徒の一員として体育座りをしているのだが、今日の朝礼はただの朝礼ではなく生徒会朝礼だ。
俺は1年生の頃から生徒会に入り、2年生となった今では生徒会長を務めている。
元々はみんなをまとめるなんて性ではない。
しかし、小さい頃から成績は常に1位、そして皆に憧れられる人になれと、厳しく育てられてきたため母親からの圧で生徒会長になった。
ただ、日頃からみんなの力になりたいとは思っていたため、生徒会長も嫌々やってるわけじゃないし何なら楽しい。
しかし、生徒会長になったからには生徒会朝礼で全校生徒に向かって活動報告などをしなければならないわけで。
僕は昔から人前で発言することはどうしても苦手で、生徒会長に就任したての頃は生徒会朝礼の前日に緊張して眠れなくなるほどだった。
正直今も内心ガクブルなのだが『皆に憧れられる理想の生徒会長になる!』という生徒会長就任時に自分で決めた目標を思い出すことで何とか耐えている。
「生徒会からは以上です。」
“気を付け、礼”
司会の声に全校生徒がまた頭を下げる。それに合わせて僕も頭を下げ舞台の袖に捌ける。
“これで生徒会朝礼を終わります。H組から…”
あぁやっと終わった。今日の一大イベントが終わった安心感からふっと肩の力を抜く。本当はこのまま舞台袖に重ねて置かれているマットに飛び込みたいが、もしその場面を誰かに見られでもしたら、今まで必死に積み上げてきた理想の生徒会長像が一瞬で崩れてしまうため、ぐっと堪える。
「かいちょ〜、台の片付けおねがいしまーす。」
1年の生徒会役員がマイクを片付けようと持ちながらこちらに呼びかけてくる。
しまった。安堵感から舞台上のものを片付けるのを忘れていた。生徒会長としてしっかりしなければ。
「ああわかった。ありがとう。」
舞台上を見ると先ほどまで使っていた演説台がまだ残っていた。
片付けようと近づいたところでふと思う。
「あー、これ一人で運べないやつだな…。」
演説台は少し大きめで、筋力に自信があったり体格がいいやつは軽々持ち上げられるだろうが、僕はというと運動は時々しているのだが、あまり筋肉がつかない体質らしく演説台を一人で運ぶには少し心許ない。
誰かに頼んで一緒に運んでもらおうと考えて、周りを見渡すが、皆それぞれ片付けをしている。
「しょうがない、頑張るか〜…」
誰かの作業を中断させるのも申し訳なくて、台の左右にギリギリ腕が届いたため少しずつ持ち上げながら舞台袖に運んでいった。確実に明日は筋肉痛だろう。
「はぁ…はぁ…」
演説台を運んで息切れしている姿は正直スマートな理想の生徒会長像とはかけ離れているが、片付けはしなくてはいけないため少しずつ歩みを進める。
「よいしょっと…わっ!」
やっと舞台袖までたどり着き、あとは演説台を開いたスペースに置くだけだったが隣の箱からはみ出ていたマイクのケーブルに足が引っかかり横に重心が傾く。
あ、まずい。
視界の先に舞台の下へと降りる階段が目に入り、衝撃に備えて目をぎゅっと閉じる。
「あれ…?」
しかしいつまで経っても体に衝撃は伝わってこない。
誰かがバランスを崩した僕を受け止めてくれたようだ。
「大丈夫!?」
安心して固く閉じていた目をゆっくり開けると焦った顔をしてこちらの顔を覗き込んでいる青柳がいた。
どうやら階段の下にいた青柳が僕を受け止めてくれたらしい。
青柳の焦った顔、初めてみたな…じゃなくて!!
待って、今青柳の腕のなかにいる!?
「だっ、大丈夫!だから離してっ…て、わぁ!」
転びそうになったところを見られた恥ずかしさと、あまりの顔の近さに驚いて、さっきまで階段から落ちそうになっていたことを忘れ青柳から距離を取ろうとすると、またバランスを崩してしまった。
「ちょ、危ないから一旦落ち着いて。」
そう言いながら青柳はもう一度倒れそうになった僕の体をまた抱きしめるような形で受け止めてくれた。
青柳は身長が高くスラッとしているが、バスケ部のエースで見た目に反して筋肉があるためバランスを崩した僕のことも軽々と受け止める。
ど、どうやって青柳に抱きしめられてる状況で落ち着けっていうんだ!
青柳は生徒会の副会長かつ僕のクラスメイトで、先ほどの朝礼で司会をしていたのも青柳だ。さっきまで司会として生徒を教室へ誘導していたはずなのに…。
「何で青柳がここに?」
「春野が一人で台を運ぶのをみかけたから、先回りして手伝おうと思って…」
青柳は運動神経が良く、イケメンで人望がある所謂陽キャで、そしてよく気が利く。そのため生徒会室から見える中庭で女子から告白されているところをよく見かける。
勝手なイメージだけど生徒会には興味がなさそうな彼が、2年生になっていきなり生徒会副会長に立候補したときは随分と驚いた。だけど僕は青柳のことがその…好きなため正直なところ戸惑いより嬉しさが勝った。
青柳と付き合いたいとか、そんなおこがましいことは一ミリも思っていない。一ミリも。
いやまぁ、青柳から告白とかされたらそりゃ付き合うけど…。
いやいやいやなんてことを考えてるんだ。青柳が僕のことを好きなんてありえない話すぎる。
「春野、ちょっと顔赤くない?熱とかある?」
「ひ、ひぇ…」
頭の中でグルグルと青柳のことを考えていたら顔が赤くなってしまっていたみたいで、青柳が僕のおでこに手のひらを当ててきて思わず情けない声を出してしまった。
「うん、熱はなさそう。良かった。」
そう言って僕の目を見つめて微笑んできて、更に顔に熱が集まるのがわかる。
どうしてそんなに全部の仕草がかっこいいんだよ。
まずい、今日もこんな調子じゃいつか青柳のことが好きだって絶対にバレる。
青柳のことが好きなんて本人に知られたら、絶対に気を使わせるだろうし…最悪の場合僕のせいで生徒会を辞めることになったら…。
そんなことは絶対に嫌!だから自分からはあまり青柳に近づかないようにしているのだけど、なぜか今日のように青柳の方から近づいてきて、
「春の大丈夫?そんないっぱいプリント持って…あー、あの先生に捕まっちゃったか…。貸して、俺も手伝うよ。」
「春野テストどうだった?え!学年1位!春野頑張ってたもんね。お疲れ様。」
「髪切ったんだ。前の髪型も良かったけどすごい似合ってるよ。」
と、生徒会でしか関わりがないはずなのに生徒会で関係ないことでも優しく話しかけてきて、思えば二年生になったときから青柳と話さなかった日がない気がする。
青柳が話しかけてくるたびに心臓はどくどく跳ねているけど、青柳には何とかうまく隠せている、はず。
ただ寿命は確実に縮んでいる。
「よし、皆片付け終わって教室に戻ってるみたいだし俺たちも戻ろうか。」
はい、とそうするのが当たり前とでも言うような顔をして手を差し伸べてきて胸のあたりがぎゅうっとなる。
それにしても青柳はなんで…
「なんでそんなに俺に優しくしてくれるの…?」
「え?」
思わず思ったことを口にしてしまい青柳が目を少し大きく開ける。
「あ、いやちがっ、その生徒会に関係ないことでもよく話しかけてくれるし…あ、でも青柳はクラスメイト全員と仲いいもんね。ごめん変なこと聞いて。早く戻ろっ…え?」
先ほどしてしまった変な質問を誤魔化すように階段を駆け下りようとすると、後ろから手首を捕まれ驚いて後ろを振り向く。
振り返った先では青柳がまっすぐ僕を見ていて、思わず体が固まる。
「え、えっと…青柳…?」
先ほどと様子が違う混乱しながらも、何とかを声を絞り出して名前を呼ぶが、反応はない。
青柳はなにか言おうとしているようだが、少し口を開いてから口を紡いだ。その姿が珍しくて余計に体が固まる。
「好きだから。」
「…え?」
「春野のことが、好きだから。」
目の前の男は何を言っているのだろうか。
女子からはモテモテでクラスの中心的人物の青柳が俺のことを好き?
からかってるのか?いやそんなこと青柳がするはずないし、何よりまっすぐこちらを見る目が嘘だとは思えない。じゃあ本当に青柳は僕のことが好き…?
「多分なんだけどさ…」
青柳が僕の耳元へ顔を近づけてきたかと思えば、また口を開く。
「春野も俺のこと好き、だよね?」
「へ?…ええぇぇぇ!!!」
な、なななんで俺が青柳のことが好きだと本人にバレてるんだ!?
「な、なんでその、青柳のことが好きだって?…あ、いや別に好きとかじゃないけどっ…」
さっき大声を出してしまったから誤魔化しなんて効かないだろうけど一応誤魔化してはみる。しかし青柳はこちらの言い訳なんて耳に入っていない様子で、先ほどの質問をもう一度問いかけてくる。
「ねぇ…、俺のこと好き?」
いつもとは違う、低くて掠れた声だ。
ここまでの出来事で僕の脳は完全にキャパオーバーで、今すぐ逃げ出したいけど、手首をがっちり握られていて逃げられない。
何か言わないと…えっと、えっと…
「僕、は青柳のこと…す、好きじゃない!」