こういう時、女の子に何と言えばいいんだろう。
気にするなよ、も違うし、知りもしない奴をほっとけ、というのもおかしな気がする。
りおの切ない告白が、柊の胸を締め付ける。
(こいつ、絵を描いたヤツの事、メチャクチャ好きなんだなきっと)
ウザがられても、それでも絵を見たいって思う位に、りおは絵を描いた茜の事を好きなのか、と思うと悔しかった。
暫くの沈黙のあと、柊はため息をついた。
その音にりおが慌てた。
『ご、ごめんねヒイラギ君、変な事聞かせちゃって』
「あー、なんなんそいつ、まじウゼーわ。お前じゃねーよ、その茜っての。なんなん」
『……え?』
「いや、マジでうざいなら絵になんか描くなって思うじゃん」
『そ……うかな?』
「ったりめーだよ!なんなん、絵にはあんなでっかく描いといてウゼーとか!お前のがウゼーわ!」
『ひ、ヒイラギ君?』
「あーもう!マジでうざいうざいうざすぎる!もーなんなんだそいつは!お前マジ趣味わりーぞ!そんなん好きとか!」
『えぇえ……』
突然文句を言い続ける柊に、りおは若干引いているようだ。
「お前マジで、マージで気にすんな!もうそんなのほっとけ!」
『でも』
「でもじゃなーい!気にしない!気にするな!」
『でも、実はこんどの連休に約束が』
なぜか柊は猛烈に腹が立ってきた。
約束?勝手に絵を描いたり、そのくせでかでかと文化祭では見せびらかして、その割に勝手にモデルにしたりおには内緒でしかも文化祭に来るなとか?
「知らん!そんなのマジで知らん!お前、そんなヤツの約束なんか断れ!」
『こ、断れって、そんなの、えと、何て言ったら』
柊の勢いに押されるりおに柊は言った。
「そんなん、友達とサッカー見に行くとか言っとけ!いーな!絶対に断れよ!」
『えっ、あの、うん、がんば、る』
そうやっと答えると、りおは急に笑い出した。
「ど、どした?」
『ううん。なんかすごい元気出た。うん、そうだよね。断っても別にいいんだよね』
「そーだ!誰だって予定が変わる事はあるんだからな!」
『わかった。うん。断ってみる。なんかずっと悩んでたから』
笑うりおの声は、誤魔化しじゃなくちゃんと楽しそうだ。
『ありがとう。ごめんね急に電話して。あと、写真も』
「いつでも消せよ。そんなヤツの描いた絵」
『あはは、考えておく。本当にありがとう。じゃあ、また明日ね』
「おう、なんかあったらいつでもPINEしろ」
『本当?何時でもいいの?』
「だってヨータなんかあいつ、下手したら夜中の二時とか三時とかでも『寝れねー』とかって飛ばしてくんだぞ」
『すごい、仲いいんだね』
「俺が親切なだけだって」
『うん、本当にそうだと思う。ありがとねヒイラギ君』
「おう。マジで気にすんなよ。寝てたら起きねえけど」
『わかった。起きるまで起こすね』
「やめろ迷惑行為」
『あはは。じゃあね、おやすみなさい。また明日ね』
「おう、ゆっくり寝ろよ」
じゃーな、と言うと、通話を切った。
すぐにりおからは感謝のスタンプがいくつも送られてきて、柊はニヤニヤとそれを眺めていた。
すると暫くして、再び通話がかかってきて、柊は慌ててスワイプした。
「どしたりお?まだなんかあったか?」
相手はずっと無言で、柊は「りお?」と再び尋ねたが。
『りーぃ、おぉおお?それってひょっとして、紺野の事なんですかねぇええええええ』
しまった、と柊が気づいても遅かった。
(やべ、確認したら良かった)
今度こそ、かけてきたのは親友のヨータで間違いなかった。
『お前なに?ひょっとしてもう付き合っちゃってんの?早すぎワロタ』
「つきあってねーよ!なにが早すぎだよ!部活の、そう、美術部の事だよ」
『誤魔化すなよ、なんでそんな慌ててんだよ』
「お前じゃないと思ったからだろ!焦ったんだよ!」
『りおちゃんからだと思ったんだー、そんなに仲良くなってたんだー、いつのまにそうなってんの』
「ウゼー絡みすんな!文化祭の作品とか絵についてだよ!急ぎの用事と、あと、なんかちょっと悩みっぽいの聞いたから心配してただけ!」
『ほー、悩み相談かあ。青春じゃん』
「本人は真面目に悩んでんだからな!ほっとけよ!」
『はいはい、わかったわかった』
「それよりなんだよ。何の用だよ」
『なによー、用事がないと連絡しちゃいけないの?』
「わざとらしくウザ絡みすんなってもう……」
『わりわり。今度の連休だけどさ、お前来るんだろ?兄貴もそのつもりでいるけど』
「ああ、行くよ。えーと、あとひょっとしたら、美術部の連中も、行くかも」
『マジで。お前どんだけりおちゃんに自分のカッコいいところ見せようとしてるん』
「だからちげーって言ってんだろ!美術部の連中に、ブルロにハマってるのがいて、本物見たいって言っててさ」
『本物かどうかはわからんなー』
「ボール蹴ってりゃそれでいーんだってさ。絵の題材にしてーんだって」
『ま、そういうのならいんじゃね。お前もやるんだろ?』
「ちょっとくらいならな」
『よっし。じゃあ兄貴にも言っとくわ。俺も参加するし』
「頼むわ。実は久々にマジで試合したい気分」
『お、やる気じゃん、いいねえ』
「俺はやる気よ」
ヨータと柊はいつもの調子に戻って、いつものようにくだらない長話を続けて夜は更けていった。
九月十八日
ふわぁああ、と柊はあくびをしながら美術室へ向かった。
(ったく、マジ寝不足)
りおと話した後、ヨータからいつものように電話が入って、それはいいのだけどあれこれ長話をしてしまって、結局寝たのは明け方近くになった頃だった。
おかげで今日は一日中眠くて仕方がなくて、ずっと欠伸ばかりしていた。
「ちゃーす」
もう慣れた美術室に、挨拶しながら入っていくと、めずらしくまだ誰も来ていない。
(なんだ、りおまだなんか)
それならクラスのほうに迎えに行けばよかったかな、と考えて柊は慌てた。
(そんなんまるで彼氏気取りじゃんか。やべ)
ちょっとは心配だったけれど、あまりしつこくすると変な噂を立てられてもりおが困るだろう。
とはいえ、やることもないのでまずは窓を開けて空気を入れ替えた。
白いカーテンが秋の風にぱたぱたと揺れる。
良い感じの風に、柊はふわあとあくびをつく。
(やばい。マジ眠い)
そこらへんの椅子に腰を下ろし、机に突っ伏した。
暫くこうしていたら、誰かが来るだろう。
そう思って目を閉じた。
カーテンの揺れるぱたぱたという音が遠くで響いている。
すっと眠りの中に入る瞬間、小さく名前を呼ばれた気がした。
気にするなよ、も違うし、知りもしない奴をほっとけ、というのもおかしな気がする。
りおの切ない告白が、柊の胸を締め付ける。
(こいつ、絵を描いたヤツの事、メチャクチャ好きなんだなきっと)
ウザがられても、それでも絵を見たいって思う位に、りおは絵を描いた茜の事を好きなのか、と思うと悔しかった。
暫くの沈黙のあと、柊はため息をついた。
その音にりおが慌てた。
『ご、ごめんねヒイラギ君、変な事聞かせちゃって』
「あー、なんなんそいつ、まじウゼーわ。お前じゃねーよ、その茜っての。なんなん」
『……え?』
「いや、マジでうざいなら絵になんか描くなって思うじゃん」
『そ……うかな?』
「ったりめーだよ!なんなん、絵にはあんなでっかく描いといてウゼーとか!お前のがウゼーわ!」
『ひ、ヒイラギ君?』
「あーもう!マジでうざいうざいうざすぎる!もーなんなんだそいつは!お前マジ趣味わりーぞ!そんなん好きとか!」
『えぇえ……』
突然文句を言い続ける柊に、りおは若干引いているようだ。
「お前マジで、マージで気にすんな!もうそんなのほっとけ!」
『でも』
「でもじゃなーい!気にしない!気にするな!」
『でも、実はこんどの連休に約束が』
なぜか柊は猛烈に腹が立ってきた。
約束?勝手に絵を描いたり、そのくせでかでかと文化祭では見せびらかして、その割に勝手にモデルにしたりおには内緒でしかも文化祭に来るなとか?
「知らん!そんなのマジで知らん!お前、そんなヤツの約束なんか断れ!」
『こ、断れって、そんなの、えと、何て言ったら』
柊の勢いに押されるりおに柊は言った。
「そんなん、友達とサッカー見に行くとか言っとけ!いーな!絶対に断れよ!」
『えっ、あの、うん、がんば、る』
そうやっと答えると、りおは急に笑い出した。
「ど、どした?」
『ううん。なんかすごい元気出た。うん、そうだよね。断っても別にいいんだよね』
「そーだ!誰だって予定が変わる事はあるんだからな!」
『わかった。うん。断ってみる。なんかずっと悩んでたから』
笑うりおの声は、誤魔化しじゃなくちゃんと楽しそうだ。
『ありがとう。ごめんね急に電話して。あと、写真も』
「いつでも消せよ。そんなヤツの描いた絵」
『あはは、考えておく。本当にありがとう。じゃあ、また明日ね』
「おう、なんかあったらいつでもPINEしろ」
『本当?何時でもいいの?』
「だってヨータなんかあいつ、下手したら夜中の二時とか三時とかでも『寝れねー』とかって飛ばしてくんだぞ」
『すごい、仲いいんだね』
「俺が親切なだけだって」
『うん、本当にそうだと思う。ありがとねヒイラギ君』
「おう。マジで気にすんなよ。寝てたら起きねえけど」
『わかった。起きるまで起こすね』
「やめろ迷惑行為」
『あはは。じゃあね、おやすみなさい。また明日ね』
「おう、ゆっくり寝ろよ」
じゃーな、と言うと、通話を切った。
すぐにりおからは感謝のスタンプがいくつも送られてきて、柊はニヤニヤとそれを眺めていた。
すると暫くして、再び通話がかかってきて、柊は慌ててスワイプした。
「どしたりお?まだなんかあったか?」
相手はずっと無言で、柊は「りお?」と再び尋ねたが。
『りーぃ、おぉおお?それってひょっとして、紺野の事なんですかねぇええええええ』
しまった、と柊が気づいても遅かった。
(やべ、確認したら良かった)
今度こそ、かけてきたのは親友のヨータで間違いなかった。
『お前なに?ひょっとしてもう付き合っちゃってんの?早すぎワロタ』
「つきあってねーよ!なにが早すぎだよ!部活の、そう、美術部の事だよ」
『誤魔化すなよ、なんでそんな慌ててんだよ』
「お前じゃないと思ったからだろ!焦ったんだよ!」
『りおちゃんからだと思ったんだー、そんなに仲良くなってたんだー、いつのまにそうなってんの』
「ウゼー絡みすんな!文化祭の作品とか絵についてだよ!急ぎの用事と、あと、なんかちょっと悩みっぽいの聞いたから心配してただけ!」
『ほー、悩み相談かあ。青春じゃん』
「本人は真面目に悩んでんだからな!ほっとけよ!」
『はいはい、わかったわかった』
「それよりなんだよ。何の用だよ」
『なによー、用事がないと連絡しちゃいけないの?』
「わざとらしくウザ絡みすんなってもう……」
『わりわり。今度の連休だけどさ、お前来るんだろ?兄貴もそのつもりでいるけど』
「ああ、行くよ。えーと、あとひょっとしたら、美術部の連中も、行くかも」
『マジで。お前どんだけりおちゃんに自分のカッコいいところ見せようとしてるん』
「だからちげーって言ってんだろ!美術部の連中に、ブルロにハマってるのがいて、本物見たいって言っててさ」
『本物かどうかはわからんなー』
「ボール蹴ってりゃそれでいーんだってさ。絵の題材にしてーんだって」
『ま、そういうのならいんじゃね。お前もやるんだろ?』
「ちょっとくらいならな」
『よっし。じゃあ兄貴にも言っとくわ。俺も参加するし』
「頼むわ。実は久々にマジで試合したい気分」
『お、やる気じゃん、いいねえ』
「俺はやる気よ」
ヨータと柊はいつもの調子に戻って、いつものようにくだらない長話を続けて夜は更けていった。
九月十八日
ふわぁああ、と柊はあくびをしながら美術室へ向かった。
(ったく、マジ寝不足)
りおと話した後、ヨータからいつものように電話が入って、それはいいのだけどあれこれ長話をしてしまって、結局寝たのは明け方近くになった頃だった。
おかげで今日は一日中眠くて仕方がなくて、ずっと欠伸ばかりしていた。
「ちゃーす」
もう慣れた美術室に、挨拶しながら入っていくと、めずらしくまだ誰も来ていない。
(なんだ、りおまだなんか)
それならクラスのほうに迎えに行けばよかったかな、と考えて柊は慌てた。
(そんなんまるで彼氏気取りじゃんか。やべ)
ちょっとは心配だったけれど、あまりしつこくすると変な噂を立てられてもりおが困るだろう。
とはいえ、やることもないのでまずは窓を開けて空気を入れ替えた。
白いカーテンが秋の風にぱたぱたと揺れる。
良い感じの風に、柊はふわあとあくびをつく。
(やばい。マジ眠い)
そこらへんの椅子に腰を下ろし、机に突っ伏した。
暫くこうしていたら、誰かが来るだろう。
そう思って目を閉じた。
カーテンの揺れるぱたぱたという音が遠くで響いている。
すっと眠りの中に入る瞬間、小さく名前を呼ばれた気がした。
