女子達とマックに移動して、代表の子が飲み物を買ってくることになった。
「ヒイラギ君は?」
「えーと、じゃあコーヒーで。冷たいの」
「あたしシェイク!バニラで!」
「じゃあチョコ!」
女子達は殆どがシェイクだった。
「りおはお茶でいいよね?」
「うん。お願い」
そういえばさっきもお茶を飲んでいたなと柊はりおに尋ねた。
「お茶好きなん?」
「なんで?」
「さっきもお茶だったから、そうなのかなって」
するとりおは苦虫を潰したような顔で言った。
「水彩やってたときに、コップで筆を洗ってたの。そしたらさ、ジュースと間違えて飲んじゃったことがあって」
「まじか」
「もうメチャクチャな味で、それ以来絵をかくときには透明なものしか置かないようにしてる」
「うっそ、そんなんやるんだ」
しっかりしてそうに見えるりおが、まさか筆洗いの水と飲み物のコップを間違えるなんて、柊はおかしくて笑った。
「集中してたらそうなるの。仕方ないでしょ」
「いやそんなんあるんかって」
「笑い過ぎ」
むっとするりおに柊はまた笑った。
さっきまでぱっちん止めをみっつもつけていたせいで、りおの前髪には変な形がついていた。
いまはひとつに減らして押さえていたけれど、それでも前髪は歪んでいて、そこが妙に子供っぽく見える。
「ただいまー、シェイク届いたよー」
次々にテーブルに飲み物が配られ、柊はコーヒーを受け取った。
「ヒイラギ君はコーヒー好きなんだ」
「いや別に。好きな選手がコーヒーにハマってるから真似してるだけ」
「なんだ、かっこつけてるのか」
「そういう事。本当はファンタのほうが好き」
「ファンタ買えばよかったのに」
そう言って笑うりおの笑顔は屈託がなく、ついにこにこと眺めてしまうが、ますいと思って正気に戻る。
「そういやユニの事だけどさ、見せてくれる?」
早速柊が尋ねると、女子らがスマホで見せてくれた。
派手な宣伝とうたい文句、AIで作っただろうユニフォームを着た高校生の写真に、柊はやっぱりな、と肩を落とす。
「間違いなく詐欺」
「見ただけでわかるの?」
「判るよ。例えばこれさ、プレミアのチームユニだけど」
「プレミアって?」
「イングランドのチームの事で世界最高峰だよ」
それで、と柊が画面をタップして拡大する。
「このユニのデザインは三年前だけど、この胸のマークがあるだろ?この年のスポーツブランドのマークが違う。だからレプリカですらない、ただの偽物」
「そんなのあるんだ!」
「大体、大きなチームはスポーツブランドと提携してるからな」
柊の言葉に女子達は感心して頷いていた。
「そっかあ、あたしらそんなの全く知らないもんね」
「全然気づかなかった」
「あ、じゃあさ、本当の、偽物じゃないレプリカっていうのならいくらくらいのが正しいの?」
「うーん、背番号なしで、人気がなかったくらいでやっと七千円くらいがいいところかな。あとは福袋狙うとか、中古でも人気あるチームは逆にプレミアついたりするし」
すると女子の一人がスマホをスクロールして、別の写真を出した。
「じゃあさ、この日本代表とかはいくらくらいするの?」
「レプリカなら一万円くらいかな」
「レプリカなのに?」
「型落ちでたまに安いとかあるけど、いまサッカー人気エグいから。デポで安くて五千円とか?」
「デポって?」
「……スポーツショップ」
まじで何も知らないんだな、と逆に柊は女子達に驚いた。
女子達は柊の情報を早速共有して、スマホを見ながらふんふんと頷いている。
「なるほど、こんなに高いのか」
「じゃあ高いの買えば安全?」
「そーでもねえよ。マジで買うならカモとかの絶対本物扱ってるところで通販とか」
「カモ!知ってる!ブルロで出て来た店」
「実在したんだ」
変な所でいちいち驚く女子達に、柊の方が(逆になんで知らないんだ?)と首をかしげるばかりだった。
女子達は偽物を掴まされるところだったことに落ち込むかといえばそうでもなく、それより先に文化祭でなにを作るかを話し始めた。
ユニフォームが高いことを知るとあっというまにTシャツにシフトして、じゃあどんなデザインか、予算かを話し始めて、まるで会議や打ち合わせだ。
(なんかカッコいいな)
素直に見とれていると、柊の様子にりおが尋ねた。
「ヒイラギ君、あきれてない?」
「なんで?みんなスゲーかっけえって思ってた」
柊の言葉に、女子達は顔を上げた。
「かっけえ?」
「かっこいいってこと?」
「あたしらが?」
「だって騙されてるってすぐ切り替えて別の話してるし、打ち合わせとか予算とか、めちゃめちゃ真剣に話してて。すげーかっけえ」
スポーツ関係で予算がどうとか、文化祭でなにをするとか、そういう事に触れたことがない柊にとって、美術部の女子達の話はまるで大人が打ち合わせをやっているような内容で、素直にかっこいいと思った。
「女子ってコスメとかブランドとかの話しかしてないイメージだったから」
すると美術部の女子らは「うわ」という表情で柊を見つめた。
「ねえ聞いた?これが一軍様の感性だわ」
「コスメとかブランドって。ヒエラルキー上位すぎんだろヤバ」
「なんでわが部に入ってんのこの陽キャめ」
「なんだよ褒めたのに!」
柊がそう言うと、りおが突然噴出した。
「な、なんだよ」
「やば、ヒイラギ君面白い」
「え、え?」
「さっきまですごい真剣だったのに」
「いやだってやっぱ許せないし。こんなユニで騙そうとかさ」
サッカー好きとしては絶対に許せない案件だ。
「せっかくみんながサッカーのユニ、かっこいいって言ってるのにそれ利用するとかマジ許せない」
柊が言うと、女子達はみな頷いた。
「ヒイラギ君のおかげでだまされなかった」
「ありがたい、本気で一軍様なんでも知ってる」
「一軍ってやめろって。マジそんなんじゃないし……」
そんなつもりはないと判っていても、茶化されるようで嫌だと思っていると、女子達は目配せした。
「うんわかった。じゃあもう言わない」
「ちょっとかましただけ。悪かった」
「え?うん、いや俺も言い過ぎた、かも?」
「気にすんなよヒイラギ」
「ちょ、呼び捨てはやめろさすがに」
柊が言うと、皆がどっと笑って、柊もその空気に思わず笑ってしまった。
「ヒイラギ君は?」
「えーと、じゃあコーヒーで。冷たいの」
「あたしシェイク!バニラで!」
「じゃあチョコ!」
女子達は殆どがシェイクだった。
「りおはお茶でいいよね?」
「うん。お願い」
そういえばさっきもお茶を飲んでいたなと柊はりおに尋ねた。
「お茶好きなん?」
「なんで?」
「さっきもお茶だったから、そうなのかなって」
するとりおは苦虫を潰したような顔で言った。
「水彩やってたときに、コップで筆を洗ってたの。そしたらさ、ジュースと間違えて飲んじゃったことがあって」
「まじか」
「もうメチャクチャな味で、それ以来絵をかくときには透明なものしか置かないようにしてる」
「うっそ、そんなんやるんだ」
しっかりしてそうに見えるりおが、まさか筆洗いの水と飲み物のコップを間違えるなんて、柊はおかしくて笑った。
「集中してたらそうなるの。仕方ないでしょ」
「いやそんなんあるんかって」
「笑い過ぎ」
むっとするりおに柊はまた笑った。
さっきまでぱっちん止めをみっつもつけていたせいで、りおの前髪には変な形がついていた。
いまはひとつに減らして押さえていたけれど、それでも前髪は歪んでいて、そこが妙に子供っぽく見える。
「ただいまー、シェイク届いたよー」
次々にテーブルに飲み物が配られ、柊はコーヒーを受け取った。
「ヒイラギ君はコーヒー好きなんだ」
「いや別に。好きな選手がコーヒーにハマってるから真似してるだけ」
「なんだ、かっこつけてるのか」
「そういう事。本当はファンタのほうが好き」
「ファンタ買えばよかったのに」
そう言って笑うりおの笑顔は屈託がなく、ついにこにこと眺めてしまうが、ますいと思って正気に戻る。
「そういやユニの事だけどさ、見せてくれる?」
早速柊が尋ねると、女子らがスマホで見せてくれた。
派手な宣伝とうたい文句、AIで作っただろうユニフォームを着た高校生の写真に、柊はやっぱりな、と肩を落とす。
「間違いなく詐欺」
「見ただけでわかるの?」
「判るよ。例えばこれさ、プレミアのチームユニだけど」
「プレミアって?」
「イングランドのチームの事で世界最高峰だよ」
それで、と柊が画面をタップして拡大する。
「このユニのデザインは三年前だけど、この胸のマークがあるだろ?この年のスポーツブランドのマークが違う。だからレプリカですらない、ただの偽物」
「そんなのあるんだ!」
「大体、大きなチームはスポーツブランドと提携してるからな」
柊の言葉に女子達は感心して頷いていた。
「そっかあ、あたしらそんなの全く知らないもんね」
「全然気づかなかった」
「あ、じゃあさ、本当の、偽物じゃないレプリカっていうのならいくらくらいのが正しいの?」
「うーん、背番号なしで、人気がなかったくらいでやっと七千円くらいがいいところかな。あとは福袋狙うとか、中古でも人気あるチームは逆にプレミアついたりするし」
すると女子の一人がスマホをスクロールして、別の写真を出した。
「じゃあさ、この日本代表とかはいくらくらいするの?」
「レプリカなら一万円くらいかな」
「レプリカなのに?」
「型落ちでたまに安いとかあるけど、いまサッカー人気エグいから。デポで安くて五千円とか?」
「デポって?」
「……スポーツショップ」
まじで何も知らないんだな、と逆に柊は女子達に驚いた。
女子達は柊の情報を早速共有して、スマホを見ながらふんふんと頷いている。
「なるほど、こんなに高いのか」
「じゃあ高いの買えば安全?」
「そーでもねえよ。マジで買うならカモとかの絶対本物扱ってるところで通販とか」
「カモ!知ってる!ブルロで出て来た店」
「実在したんだ」
変な所でいちいち驚く女子達に、柊の方が(逆になんで知らないんだ?)と首をかしげるばかりだった。
女子達は偽物を掴まされるところだったことに落ち込むかといえばそうでもなく、それより先に文化祭でなにを作るかを話し始めた。
ユニフォームが高いことを知るとあっというまにTシャツにシフトして、じゃあどんなデザインか、予算かを話し始めて、まるで会議や打ち合わせだ。
(なんかカッコいいな)
素直に見とれていると、柊の様子にりおが尋ねた。
「ヒイラギ君、あきれてない?」
「なんで?みんなスゲーかっけえって思ってた」
柊の言葉に、女子達は顔を上げた。
「かっけえ?」
「かっこいいってこと?」
「あたしらが?」
「だって騙されてるってすぐ切り替えて別の話してるし、打ち合わせとか予算とか、めちゃめちゃ真剣に話してて。すげーかっけえ」
スポーツ関係で予算がどうとか、文化祭でなにをするとか、そういう事に触れたことがない柊にとって、美術部の女子達の話はまるで大人が打ち合わせをやっているような内容で、素直にかっこいいと思った。
「女子ってコスメとかブランドとかの話しかしてないイメージだったから」
すると美術部の女子らは「うわ」という表情で柊を見つめた。
「ねえ聞いた?これが一軍様の感性だわ」
「コスメとかブランドって。ヒエラルキー上位すぎんだろヤバ」
「なんでわが部に入ってんのこの陽キャめ」
「なんだよ褒めたのに!」
柊がそう言うと、りおが突然噴出した。
「な、なんだよ」
「やば、ヒイラギ君面白い」
「え、え?」
「さっきまですごい真剣だったのに」
「いやだってやっぱ許せないし。こんなユニで騙そうとかさ」
サッカー好きとしては絶対に許せない案件だ。
「せっかくみんながサッカーのユニ、かっこいいって言ってるのにそれ利用するとかマジ許せない」
柊が言うと、女子達はみな頷いた。
「ヒイラギ君のおかげでだまされなかった」
「ありがたい、本気で一軍様なんでも知ってる」
「一軍ってやめろって。マジそんなんじゃないし……」
そんなつもりはないと判っていても、茶化されるようで嫌だと思っていると、女子達は目配せした。
「うんわかった。じゃあもう言わない」
「ちょっとかましただけ。悪かった」
「え?うん、いや俺も言い過ぎた、かも?」
「気にすんなよヒイラギ」
「ちょ、呼び捨てはやめろさすがに」
柊が言うと、皆がどっと笑って、柊もその空気に思わず笑ってしまった。
