9月7日 月曜日
月曜日の放課後、チャイムがなると同時に校門を抜け、ポケットからスマホを取り出した時だった。
「よっ、シュウ!今日コート行かね?」
後ろからステップを踏んで肩をぐいっと組んだのは親友のヨータだ。
放課後なのに、もしくはだからか、スパイラルパーマをセンター分けにしっかり整えていた。
「ヨータか。行きたいけど金欠」
「なになに?彼女とデートでお金ないって?」
「いねーし」
「なに言ってんだよ」
そう言うとヨータは柊に自分のスマホの画面を見せた。
萌々のインスタでそこには『#久しぶり #やっぱりカッコイイ #ワガママ言ってゴメンね #大切な人』とハッシュタグが並び、ピンクのハートのエフェクトまで飛んでいる。
萌々は口元でピースサインにあざとい笑顔で自撮りしていて、隣に立つ男の顔はスタンプで消してあるが、五分丈の黒Tシャツにネックレス、ニュアンスマッシュの髪は紛れもなく柊だ。
「まじか。なんだこれ」
「やっぱお前だろ?復縁したんか?」
「してねーよ!萌々の友達の彼氏が男子校だから行きづらいって言われて無理矢理土曜について行かされたんだよ!おかげで見たいサッカーの試合見逃すし、交通費で金は飛ぶしさんざんだわ」
柊の文句にヨータがばんばん背を叩いた。
「じゃあ俺がおごってやるよ!マックだけどな」
「まじで!ヨータ様神!」
「バイト代入ったし。あ、じゃあさ、マック行ってダチに集合かけようぜ。十人いたらコート安くなるし」
「やった!マジでヨータ様神すぎる!拝む!」
「バイト代入ったしな。じゃあ行こうぜ!」
そういって二人ははしゃぎながら、慣れたマックへ向かった。
マックはいつも通り、このあたりの学生がたむろしていて賑やかだった。
「じゃあ俺適当に買ってくるから、柊は席とっといて」
「わかった」
窓際の道路が見える席は人気があるからどうかな、と柊は店内を覗き込むが、運よく開いた席があった。
やった、と早速席に着き、柊はスマホを取り出した。
(絶対になんか誤解されてるよな)
気になった柊は鍵垢から萌々のインスタをチェックするとそこにはコメントがずらりと並んでいた。
『え、彼氏?絶対にかっこいいやつ!』
『背え高い!何センチあるの?』
『お幸せに!男子校の人だったんだ!』
『いいなー』
「マジか」
がっかりと柊はテーブルに突っ伏した。
マジで違う、もう彼女じゃねえし、などと突っ込むわけにもいかず柊はやっぱり見てしまったことを後悔した。
もうマジでなんなんだよ、行かなきゃよかった。
せめて写真は絶対に嫌だと言って逃げたら良かった。
でも萌々の友人に無理に撮られて断るのも面倒くさくて、渋々了承したのも自分だ。
肩を落とし、自分に送られてきた萌々の写真も消してやろうかとフォルダを開いたその時だった。
(―――――、)
画面をフリックした指が止まる。
ひまわりの飾りのついた麦わら帽子をかぶった、水色のワンピースの少女の油絵は、この前撮ったものだ。
消さなくちゃな、と思いながら触れる柊だったが、絵の中の爛漫な笑顔に指が止まる。
絵を見ていると萌々への怒りが嘘みたいに消えて、一気に心が軽くなる。
絵の彼女は物凄く可愛いとか、美人とか、そういった印象はないのに。
なんでだろうな、とじっと見つめていると、ヨータが突然声をかける。
「シュウ、買って来たぞーって。あれ?それって」
「あ、うん、この前の文化祭で」
「紺野じゃん」
「え?」
「紺野。俺のクラスの美術部のヤツ」
言いながらヨータが柊の向かいに腰を下ろした。
「ホラさ、ここ、左目の下の涙袋んとこにさ、泣きボクロあんじゃん」
「本当だ」
写真の中の絵を拡大すると、確かに泣きボクロがあった。
「顔も似てるっていうか、まんま本人だから間違ってねーと思う。髪形違うけど」
「いや、だったらなんで男子校の文化祭でそいつの絵があんだよ」
ヨータは首を傾げながらもフライドポテトをつまむ。
「兄貴が描いたとかじゃね?あとはモデルやったとか、その絵を描いたやつと同じ絵画教室行ってるとかそういうんじゃね?」
そういう事なら柊にも納得が出来る。
「成程、そうかもな」
「ひょっとしたら彼氏が描いた作品かもなー」
「え」
思わず顔を上げた柊に、ヨータは一瞬驚いたがニヤニヤしはじめた。
「へえー、シュウはそういうこと?」
「なにがだよ」
「ひょっとしてマジでその絵の彼女を好きになってんの?」
「ばっ、んなわけねーよ!絵だぞ!」
「でも絵でもそういう事なんでしょ?」
「ちげーって!だから、最初本物かと思って見間違えたんだよ。マジでいるかと思ってさ!良い絵だったし」
だから思わず、シャッターを切ってしまった。
夏の教室で、まるで本当にそこにいるのかと一瞬見間違えてしまったから。
「はいはい、うんうん、確かに紺野と萌々はあまりにタイプが違い過ぎるからなあ。そっかー、シュウって割と地味目なのが好みだったのか」
「だからちげーって」
溜息をつく柊に、ヨータが苦笑した。
「わりわり。お前があんまり必死なんで」
「まじでやめろって。それに、その紺野だっけ?にも悪いじゃん」
絵の中の彼女が本当に存在するとは思わなかったし、同じ学校とも思わなかった。
「相変わらずシュウって真面目なのな」
「俺はフツー。お前がチャラいだけ」
「ひっで。俺だって真面目にダンスやってるし」
「そこは尊敬してる。俺は……サッカーやめてなんもしてねーし」
落ち込む柊の頭に、ヨータが手を乗せた。
「まだ辞めて半年だろ。なんならまたやったらいいんだし」
「うちサッカー部ねーし」
「趣味でそういうチームもあるんだしさ。気になったらまたやればいーんだって。それか部活するとかさ」
「部活かあー」
柊もヨータも、中学を卒業するまで一緒にサッカークラブに入っていた。
だけどヨータはダンスにハマってやめ、柊は才能がなかったので辞めた。
「俺もヨータみたいに才能があったらなあ」
「甘えた事いうなって。なにごとも努力だって」
「思考がマッチョすぎる」
二人で喋っていると、ヨータのスマホが震えた。
「なに?友達?」
「そっ。PINE。お、シュウ、喜べ、人数全部で十人集まった。フッサル行こうぜ」
「まじで。やった。行く行く」
十人集まればコートの使用料金も割り勘で安くなる。
「じゃあその前にデポ行こうぜシュウ。ユニ安くなってねえかな」
「どこの買うんだよ」
「一番安いところのサポになる」
「すげえ、いい加減すぎるだろ!」
そう言うヨータに柊は笑った。
結局、フットサルコートでギリギリまで一緒に遊んで、すっかりストレスも解消できた。
夕食も柊の好きなオムライスだったし、見損ねた試合も丁度リビングに誰もいなくて、大画面で見ることが出来た。
振りあがりにヨータからのPINEにスタンプを返し、いい一日だったなと柊が浮かれていたその時だった。
「げ、」
PINEに萌々からのメッセージが入っている。
無視しても良かったけれど、そうしたらまた面倒だなと考え直し、柊はメッセージを確認した。
中身は土曜日のお礼と沢山の可愛いハートのスタンプ、そしてインスタで見た柊との写真が送られていた。
(別にいらねーのに)
そう思いながら無視するのも面倒で、スタンプで『ありがとうございます』のポーズを送った。
ベッドにごろんと横になりため息をつく。
折角良い一日だと思ったのにな、とがっかりしながら写真のフォルダをタップする。
出てきた麦わら帽子の彼女笑顔を見るとホッとした。
(なんかこの絵、いいな)
絵に興味はないし、この絵の彼女も好みのタイプというわけでもない。
ただ、この絵を見るとものすごくホッとする。
(そういや、ヨータと同じクラスっていってたっけ)
この絵の事を聞いてようか。
「そーだよ!聞いてみたらいいんだ!」
正直、この絵の中の少女が実際に存在するのかも興味があるし、クラスメイトのヨータが気づくくらいなら相当似ているということだろう。
(え、なにこれ。ちょう楽しみなんだけど)
退屈な学校が急に楽しみになってきて、柊は早速、明日どうやって話そうかと考えながら目を閉じた。
月曜日の放課後、チャイムがなると同時に校門を抜け、ポケットからスマホを取り出した時だった。
「よっ、シュウ!今日コート行かね?」
後ろからステップを踏んで肩をぐいっと組んだのは親友のヨータだ。
放課後なのに、もしくはだからか、スパイラルパーマをセンター分けにしっかり整えていた。
「ヨータか。行きたいけど金欠」
「なになに?彼女とデートでお金ないって?」
「いねーし」
「なに言ってんだよ」
そう言うとヨータは柊に自分のスマホの画面を見せた。
萌々のインスタでそこには『#久しぶり #やっぱりカッコイイ #ワガママ言ってゴメンね #大切な人』とハッシュタグが並び、ピンクのハートのエフェクトまで飛んでいる。
萌々は口元でピースサインにあざとい笑顔で自撮りしていて、隣に立つ男の顔はスタンプで消してあるが、五分丈の黒Tシャツにネックレス、ニュアンスマッシュの髪は紛れもなく柊だ。
「まじか。なんだこれ」
「やっぱお前だろ?復縁したんか?」
「してねーよ!萌々の友達の彼氏が男子校だから行きづらいって言われて無理矢理土曜について行かされたんだよ!おかげで見たいサッカーの試合見逃すし、交通費で金は飛ぶしさんざんだわ」
柊の文句にヨータがばんばん背を叩いた。
「じゃあ俺がおごってやるよ!マックだけどな」
「まじで!ヨータ様神!」
「バイト代入ったし。あ、じゃあさ、マック行ってダチに集合かけようぜ。十人いたらコート安くなるし」
「やった!マジでヨータ様神すぎる!拝む!」
「バイト代入ったしな。じゃあ行こうぜ!」
そういって二人ははしゃぎながら、慣れたマックへ向かった。
マックはいつも通り、このあたりの学生がたむろしていて賑やかだった。
「じゃあ俺適当に買ってくるから、柊は席とっといて」
「わかった」
窓際の道路が見える席は人気があるからどうかな、と柊は店内を覗き込むが、運よく開いた席があった。
やった、と早速席に着き、柊はスマホを取り出した。
(絶対になんか誤解されてるよな)
気になった柊は鍵垢から萌々のインスタをチェックするとそこにはコメントがずらりと並んでいた。
『え、彼氏?絶対にかっこいいやつ!』
『背え高い!何センチあるの?』
『お幸せに!男子校の人だったんだ!』
『いいなー』
「マジか」
がっかりと柊はテーブルに突っ伏した。
マジで違う、もう彼女じゃねえし、などと突っ込むわけにもいかず柊はやっぱり見てしまったことを後悔した。
もうマジでなんなんだよ、行かなきゃよかった。
せめて写真は絶対に嫌だと言って逃げたら良かった。
でも萌々の友人に無理に撮られて断るのも面倒くさくて、渋々了承したのも自分だ。
肩を落とし、自分に送られてきた萌々の写真も消してやろうかとフォルダを開いたその時だった。
(―――――、)
画面をフリックした指が止まる。
ひまわりの飾りのついた麦わら帽子をかぶった、水色のワンピースの少女の油絵は、この前撮ったものだ。
消さなくちゃな、と思いながら触れる柊だったが、絵の中の爛漫な笑顔に指が止まる。
絵を見ていると萌々への怒りが嘘みたいに消えて、一気に心が軽くなる。
絵の彼女は物凄く可愛いとか、美人とか、そういった印象はないのに。
なんでだろうな、とじっと見つめていると、ヨータが突然声をかける。
「シュウ、買って来たぞーって。あれ?それって」
「あ、うん、この前の文化祭で」
「紺野じゃん」
「え?」
「紺野。俺のクラスの美術部のヤツ」
言いながらヨータが柊の向かいに腰を下ろした。
「ホラさ、ここ、左目の下の涙袋んとこにさ、泣きボクロあんじゃん」
「本当だ」
写真の中の絵を拡大すると、確かに泣きボクロがあった。
「顔も似てるっていうか、まんま本人だから間違ってねーと思う。髪形違うけど」
「いや、だったらなんで男子校の文化祭でそいつの絵があんだよ」
ヨータは首を傾げながらもフライドポテトをつまむ。
「兄貴が描いたとかじゃね?あとはモデルやったとか、その絵を描いたやつと同じ絵画教室行ってるとかそういうんじゃね?」
そういう事なら柊にも納得が出来る。
「成程、そうかもな」
「ひょっとしたら彼氏が描いた作品かもなー」
「え」
思わず顔を上げた柊に、ヨータは一瞬驚いたがニヤニヤしはじめた。
「へえー、シュウはそういうこと?」
「なにがだよ」
「ひょっとしてマジでその絵の彼女を好きになってんの?」
「ばっ、んなわけねーよ!絵だぞ!」
「でも絵でもそういう事なんでしょ?」
「ちげーって!だから、最初本物かと思って見間違えたんだよ。マジでいるかと思ってさ!良い絵だったし」
だから思わず、シャッターを切ってしまった。
夏の教室で、まるで本当にそこにいるのかと一瞬見間違えてしまったから。
「はいはい、うんうん、確かに紺野と萌々はあまりにタイプが違い過ぎるからなあ。そっかー、シュウって割と地味目なのが好みだったのか」
「だからちげーって」
溜息をつく柊に、ヨータが苦笑した。
「わりわり。お前があんまり必死なんで」
「まじでやめろって。それに、その紺野だっけ?にも悪いじゃん」
絵の中の彼女が本当に存在するとは思わなかったし、同じ学校とも思わなかった。
「相変わらずシュウって真面目なのな」
「俺はフツー。お前がチャラいだけ」
「ひっで。俺だって真面目にダンスやってるし」
「そこは尊敬してる。俺は……サッカーやめてなんもしてねーし」
落ち込む柊の頭に、ヨータが手を乗せた。
「まだ辞めて半年だろ。なんならまたやったらいいんだし」
「うちサッカー部ねーし」
「趣味でそういうチームもあるんだしさ。気になったらまたやればいーんだって。それか部活するとかさ」
「部活かあー」
柊もヨータも、中学を卒業するまで一緒にサッカークラブに入っていた。
だけどヨータはダンスにハマってやめ、柊は才能がなかったので辞めた。
「俺もヨータみたいに才能があったらなあ」
「甘えた事いうなって。なにごとも努力だって」
「思考がマッチョすぎる」
二人で喋っていると、ヨータのスマホが震えた。
「なに?友達?」
「そっ。PINE。お、シュウ、喜べ、人数全部で十人集まった。フッサル行こうぜ」
「まじで。やった。行く行く」
十人集まればコートの使用料金も割り勘で安くなる。
「じゃあその前にデポ行こうぜシュウ。ユニ安くなってねえかな」
「どこの買うんだよ」
「一番安いところのサポになる」
「すげえ、いい加減すぎるだろ!」
そう言うヨータに柊は笑った。
結局、フットサルコートでギリギリまで一緒に遊んで、すっかりストレスも解消できた。
夕食も柊の好きなオムライスだったし、見損ねた試合も丁度リビングに誰もいなくて、大画面で見ることが出来た。
振りあがりにヨータからのPINEにスタンプを返し、いい一日だったなと柊が浮かれていたその時だった。
「げ、」
PINEに萌々からのメッセージが入っている。
無視しても良かったけれど、そうしたらまた面倒だなと考え直し、柊はメッセージを確認した。
中身は土曜日のお礼と沢山の可愛いハートのスタンプ、そしてインスタで見た柊との写真が送られていた。
(別にいらねーのに)
そう思いながら無視するのも面倒で、スタンプで『ありがとうございます』のポーズを送った。
ベッドにごろんと横になりため息をつく。
折角良い一日だと思ったのにな、とがっかりしながら写真のフォルダをタップする。
出てきた麦わら帽子の彼女笑顔を見るとホッとした。
(なんかこの絵、いいな)
絵に興味はないし、この絵の彼女も好みのタイプというわけでもない。
ただ、この絵を見るとものすごくホッとする。
(そういや、ヨータと同じクラスっていってたっけ)
この絵の事を聞いてようか。
「そーだよ!聞いてみたらいいんだ!」
正直、この絵の中の少女が実際に存在するのかも興味があるし、クラスメイトのヨータが気づくくらいなら相当似ているということだろう。
(え、なにこれ。ちょう楽しみなんだけど)
退屈な学校が急に楽しみになってきて、柊は早速、明日どうやって話そうかと考えながら目を閉じた。
