「って言えるくらいなら、アイツもあそこまで怒んなかったと思う。どこにも出かけてねーし、いま思ったら俺、彼氏とか言える立場じゃなかったし」
もし、もっとちゃんと萌々や自分の気持ちと向き合っていたら、萌々にあんなことを言わせずに済んだのかもしれない。
でも、うまくいかなかった。
「め、めちゃくちゃ、可愛い人だったね」
「まーな。すげえ人気だけはあったし、いまもモテてると思うよ」
「なんか髪もくるくるで、すごい綺麗だったし」
「お前だって絵のヤツはくるってしてたじゃん」
柊が一目ぼれした絵の中のりおは、麦わら帽子からのぞく髪は、くるんとやわらかくカールしていた。
「あれかわいかった」
素直にそう告げる柊に、りおは顔を真っ赤にして俯く。
「あ、あれはね、茜が、髪を巻いてくれた、の」
りおの片思いする相手の名前に、柊は一瞬、指が止まった。
とっくに氷もとけて薄くなったアイスコーヒーをぶっきらぼうに啜ると、りおは恥ずかしそうに続けた。
「髪を編んでくれたのも、服を選んでくれたのも茜でね」
「へー、あんな意地悪そうな奴が?そんなことすんだ」
嫉妬丸出しなのは自覚がある。
でもあの、ショッピングモールで見た冷たい目線でりおを睨む男が、そんなことをするとは思えなかった。
「茜、昔はずっと優しかった。頭もよくて、いつもわたし、勉強もできなくて絵も下手なのに、茜はなんでもすごく上手で手伝ってくれてて。でも、中二くらいの時から、急に、怖くなってきたの」
「怖くなってきた?」
りおは頷く。
「ものすごく優しくて、クラスでも頼られてて、でもそのくらいからちょっとずつピリピリしはじめたの。高校の進路もなんだかすごく揉めてたみたいで」
「揉めてた?アイツ進学校じゃん」
このあたりでは文句なしに一番レベルの進学校の男子校に茜は通っている。
進路の問題なんて、関係なさそうなのに。
「わかんない……それで、結局ギリギリまでもめて、いまの学校に入ったけど、それでもなんかずっとピリピリしてて」
「ほーん。進学校だから、勉強についてくのがしんどいとか?」
だったらピリピリすんのもわかるわ。だせえな、と勝手に柊が想像したのだが、りおは首を横に振った。
「茜は入学してからずっとトップだって。茜のおかーさんが教えてくれて」
「と、トップ?」
(うわなんだそれ、あの学校確かクソ偏差値高かったような気がする)
ややプライドが傷つきながらも柊は話を聞いた。
「じゃ、じゃあそのプレッシャー、とか?」
りおは首を横に振る。
「茜は多分、そういうことじゃなくて、なんか別のことを考えてる気がする。あんな人じゃなかったんだよ。なのに特に最近、ものすごく雰囲気が悪くて」
「あ―――――、まあ、確かにあれは悪すぎだよなぁ」
「ヒイラギ君の試合があったでしょ?あの日も、なんか話があるからってすごく強引に言われて、雰囲気怖かったからずっと断りたくて」
「ああ、あんときな。で、話はしたのか?」
りおは首を横に振る。
「あれから会ってない。多分、避けられてるんだと思う。あたしもちょっと会いたくないし」
でも、多分だけど、それでもりおは、茜の事が好きなのだろう。
「どうしてあんな風になっちゃったのかな。あんな冷たい事、言う茜じゃなかったのに」
りおの言うところの『冷たい茜』しか知らない柊にとってはりおの言う事の方がよく判らなかった。
「お前があいつのこと好きだってバレたからじゃねーの」
ちょっとした意地悪心でそう言うが、りおは全く気にせず首を横に振った。
「別にバレるとか。私はずっと昔から茜を好きだって、茜も知ってる事だし」
「あ、そ、」
柊はわざとらしく窓の外を眺めた。
なにが悲しくて、好きな女の子の好きな男の話を聞かなくちゃならないのか。
柊が面白くないと思いながら聞いていると、りおが言った。
「ただ、その頃からすごく長い時間、ずっと勉強してたから。元々勉強家だけど、あの頃から急になんだか、怖いくらいにいろいろ追い詰められてるみたいになってきてたし」
「詳しいんだな」
「部活から帰る時とか、遅くなった時もずっと勉強してるの……見えるから」
そういってりおは口ごもる。
きっと好きな男の家をちょっと見て、それから家に帰っているのだろう。
(幼馴染だっていうなら、そいつもりおに気を使えよ!)
「お前はよく頑張ってる。俺はちゃんと見てるぞ」
「なに、ヒイラギ君急に」
「別に。なんかすげー頑張っててすげえなっておもっただけ」
「そ、そっかな」
「そーだぞ。お前の良いところは俺がちゃんと知ってる!お前は悪くないぞ!」
そう言いながらりおの頭を撫でる柊に、りおは照れて笑った。
十月十六日
長かった試験がやっと終わった。
部活動が解禁され、しかもこれからの土日は文化祭の準備に入るので生徒たちの盛り上がりも半端なかった。
試験が終わったその日、美術部員は全員がマックに集合して打ち上げをやっていた。
「では我々の、文化祭の成功を祈って」
「かんぱーい!」
飲み物で乾杯して、美術部員はご機嫌だ。
もちろん、そこには柊もりおも一緒で、いつものように隣同士で並んでいた。
りおの前髪には柊がプレゼントしたひまわりのかっちん留めがついていて、すでにそれはりおの定番アイテムになっていた。
「いやー、なんとか無事終わりましたな」
「まだ結果でてねえけどな。でも悪くないと思う」
「それはヒイラギ師匠のおかげですぞ!いつもなら一軍女子に邪魔されてしまうのですが、あれ以来ちっとも来ないですからな!」
注意書きをしてもらった事もあるが、施設の人が萌々の学校にガチギレの連絡を入れてくれたそうなので、それも効いているのだろう。
(それに、もう来ないだろうな。特に萌々は)
振ったのか振られたのか、今となってはどっちでもいいのだけど。
ただ、もうちょっと早く自分の気持ちに気づけたら、萌々にももっと優しくできたのかもしれない。
もし、もっとちゃんと萌々や自分の気持ちと向き合っていたら、萌々にあんなことを言わせずに済んだのかもしれない。
でも、うまくいかなかった。
「め、めちゃくちゃ、可愛い人だったね」
「まーな。すげえ人気だけはあったし、いまもモテてると思うよ」
「なんか髪もくるくるで、すごい綺麗だったし」
「お前だって絵のヤツはくるってしてたじゃん」
柊が一目ぼれした絵の中のりおは、麦わら帽子からのぞく髪は、くるんとやわらかくカールしていた。
「あれかわいかった」
素直にそう告げる柊に、りおは顔を真っ赤にして俯く。
「あ、あれはね、茜が、髪を巻いてくれた、の」
りおの片思いする相手の名前に、柊は一瞬、指が止まった。
とっくに氷もとけて薄くなったアイスコーヒーをぶっきらぼうに啜ると、りおは恥ずかしそうに続けた。
「髪を編んでくれたのも、服を選んでくれたのも茜でね」
「へー、あんな意地悪そうな奴が?そんなことすんだ」
嫉妬丸出しなのは自覚がある。
でもあの、ショッピングモールで見た冷たい目線でりおを睨む男が、そんなことをするとは思えなかった。
「茜、昔はずっと優しかった。頭もよくて、いつもわたし、勉強もできなくて絵も下手なのに、茜はなんでもすごく上手で手伝ってくれてて。でも、中二くらいの時から、急に、怖くなってきたの」
「怖くなってきた?」
りおは頷く。
「ものすごく優しくて、クラスでも頼られてて、でもそのくらいからちょっとずつピリピリしはじめたの。高校の進路もなんだかすごく揉めてたみたいで」
「揉めてた?アイツ進学校じゃん」
このあたりでは文句なしに一番レベルの進学校の男子校に茜は通っている。
進路の問題なんて、関係なさそうなのに。
「わかんない……それで、結局ギリギリまでもめて、いまの学校に入ったけど、それでもなんかずっとピリピリしてて」
「ほーん。進学校だから、勉強についてくのがしんどいとか?」
だったらピリピリすんのもわかるわ。だせえな、と勝手に柊が想像したのだが、りおは首を横に振った。
「茜は入学してからずっとトップだって。茜のおかーさんが教えてくれて」
「と、トップ?」
(うわなんだそれ、あの学校確かクソ偏差値高かったような気がする)
ややプライドが傷つきながらも柊は話を聞いた。
「じゃ、じゃあそのプレッシャー、とか?」
りおは首を横に振る。
「茜は多分、そういうことじゃなくて、なんか別のことを考えてる気がする。あんな人じゃなかったんだよ。なのに特に最近、ものすごく雰囲気が悪くて」
「あ―――――、まあ、確かにあれは悪すぎだよなぁ」
「ヒイラギ君の試合があったでしょ?あの日も、なんか話があるからってすごく強引に言われて、雰囲気怖かったからずっと断りたくて」
「ああ、あんときな。で、話はしたのか?」
りおは首を横に振る。
「あれから会ってない。多分、避けられてるんだと思う。あたしもちょっと会いたくないし」
でも、多分だけど、それでもりおは、茜の事が好きなのだろう。
「どうしてあんな風になっちゃったのかな。あんな冷たい事、言う茜じゃなかったのに」
りおの言うところの『冷たい茜』しか知らない柊にとってはりおの言う事の方がよく判らなかった。
「お前があいつのこと好きだってバレたからじゃねーの」
ちょっとした意地悪心でそう言うが、りおは全く気にせず首を横に振った。
「別にバレるとか。私はずっと昔から茜を好きだって、茜も知ってる事だし」
「あ、そ、」
柊はわざとらしく窓の外を眺めた。
なにが悲しくて、好きな女の子の好きな男の話を聞かなくちゃならないのか。
柊が面白くないと思いながら聞いていると、りおが言った。
「ただ、その頃からすごく長い時間、ずっと勉強してたから。元々勉強家だけど、あの頃から急になんだか、怖いくらいにいろいろ追い詰められてるみたいになってきてたし」
「詳しいんだな」
「部活から帰る時とか、遅くなった時もずっと勉強してるの……見えるから」
そういってりおは口ごもる。
きっと好きな男の家をちょっと見て、それから家に帰っているのだろう。
(幼馴染だっていうなら、そいつもりおに気を使えよ!)
「お前はよく頑張ってる。俺はちゃんと見てるぞ」
「なに、ヒイラギ君急に」
「別に。なんかすげー頑張っててすげえなっておもっただけ」
「そ、そっかな」
「そーだぞ。お前の良いところは俺がちゃんと知ってる!お前は悪くないぞ!」
そう言いながらりおの頭を撫でる柊に、りおは照れて笑った。
十月十六日
長かった試験がやっと終わった。
部活動が解禁され、しかもこれからの土日は文化祭の準備に入るので生徒たちの盛り上がりも半端なかった。
試験が終わったその日、美術部員は全員がマックに集合して打ち上げをやっていた。
「では我々の、文化祭の成功を祈って」
「かんぱーい!」
飲み物で乾杯して、美術部員はご機嫌だ。
もちろん、そこには柊もりおも一緒で、いつものように隣同士で並んでいた。
りおの前髪には柊がプレゼントしたひまわりのかっちん留めがついていて、すでにそれはりおの定番アイテムになっていた。
「いやー、なんとか無事終わりましたな」
「まだ結果でてねえけどな。でも悪くないと思う」
「それはヒイラギ師匠のおかげですぞ!いつもなら一軍女子に邪魔されてしまうのですが、あれ以来ちっとも来ないですからな!」
注意書きをしてもらった事もあるが、施設の人が萌々の学校にガチギレの連絡を入れてくれたそうなので、それも効いているのだろう。
(それに、もう来ないだろうな。特に萌々は)
振ったのか振られたのか、今となってはどっちでもいいのだけど。
ただ、もうちょっと早く自分の気持ちに気づけたら、萌々にももっと優しくできたのかもしれない。
