翌日の休みも結局みんながマックにあつまり、勉強会ではなくお揃いのクラブTシャツのデザインを考えて相談した。
「でさ、この地色だけど、黒Tはどうかな」
美術部員が言うと、柊は「いいじゃん」と頷く。
「実はこの前からヒイラギどのの黒Tがずっとカッコいいと思ってて」
「あ、わたしも思ってた」
「じつはワイも。欲しくて通販探したりした」
「まじかよ」
黒Tなんてどこにでもありそうなんだけど、と思う柊だったが、部員は首を横に振った。
「我々のような陰キャはBUやライトワンでもギリギリなのです」
「せめてユニシロ」
「色気ねえぞ」
「だからユニは、そう魔法なのです」
今日もサッカーのユニを着て来た美術部員らはうんうんと頷く。
「ユニを買って帰った日の、いつもワイを見下す陽キャ弟の輝く尊敬のまなざし。きもちよかった」
「常にすれ違う陽キャ男子が今日、あ、代表のユニって呟いてくれて尊し」
「一軍女子が『あれ見て、ユニじゃん、いいな』って言ってた。勝った」
「なんなんだよそれ」
そこまでか?と柊は驚くが、美術部員からしたらそこまでだったらしい。
「なんかユニなら、着ても良いってかんじする」
「だからおそろのユニ欲しかったんだよね」
「まさか詐欺とは思わず」
「でも詐欺にかからなくてよかったので、次は強者ヒイラギ殿の黒Tにあやかろうと」
「なんだよあやかるって」
笑う柊だが、黒Tは好きなのでもし部活で着れるなら嬉しいしありがたい。
(それに、部員全員でお揃いってことは)
当然りおとも同じものになる。
「なんかすげー、ワクワクするな。楽しみ!」
「ではヒイラギどのも、なんかデザインを考えてくだされ」
「よっしゃ!」
描くのは無理でも選ぶのならできそうで、柊は早速皆の作るデザインを選び始めた。
九月二十四日
連休が終わり、日常の生活に戻り、美術部員らはTシャツの発注や、文化祭前にできることで忙しく動いていた。
部室に入るとりおの手元には早速、柊があげたカラーカップがあって、思わず柊はにやけた。
りおは相変わらず油絵を描いていて、少しずつ絵は出来上がりつつあった。
「なあ、その絵が文化祭のやつ?」
柊が尋ねると「一応ね」とりおは答えた。
「でも間に合うかどうかわかんない。やっぱ急に絵の具の渇きが悪くなってきた」
「そんなんあるの?」
「うん、油絵の特徴だから仕方ないけど。だからみんな、他の絵を描いてるでしょ?」
確かに油絵を描いているのはりお一人で、あとは水彩とか、アニメにハマっている部員はイラストを描いたりアイパッドで絵を描いたりしている。
「でも、それなら別の絵を描くからいいんだけど」
「それでもいいのか?」
「うん。どうしてもこの絵を展示したい、って夏くらいまでは思ってたんだけど……」
りおが描いているのは、中央にひまわりが一輪ある絵だった。
「でも別にそこまでじゃないから。私もヒイラギ君みたいにデッサンにしようかな。デッサンなら何枚も描けるし」
「俺の分も描いて」
「駄目です。自分で頑張って」
「えぇえ、けちだなー」
「ケチじゃないです。美術部員なんだから、それらしいことちゃんとやろう?」
「うえーい」
言いながら柊もデッサンをするためにイーゼルに向かう。
なんだかんだ、絵に向かえば下手でもその気になって、集中して絵を描くことはできる。
柊の様子にりおも笑って、そして、乾かない絵の具を見つめ、小さくため息をつく。
それは、考えたこともない、どうしようかな、という悩みだった。
他の美術部員もそれぞれが作品作りに忙しく、美術室を出たり入ったりを繰り返す。
そんな中、油絵の乾くのを待つりおは、デッサンに集中する柊の背をふと見つめ、スケッチブックを取り出した。
愛用のペンケースから鉛筆のキャップを外し、真っ白なスケッチブックのページに鉛筆でラフ画を描き始めた。
暫く、二人の鉛筆が紙を撫でる音が響く。
まるでシンクロするみたいに、柊の線の音に、りおのデッサンの音が重なる。
二人は集中して、お互いが同じ方向を見ながら、そして柊はその視線に気づくことなく、一生懸命デッサンを続けた。
「おーい!シュウ!あ、やっぱいたいた!ギャッツくれギャッツ」
突然美術室に入ってきたのは、柊の親友のヨータだった。
相変わらずスパイラルパーマのくしゃくしゃの髪を揺らして、全身から賑やかだ。
「おん?なんだ近寄るなよくさそう」
「ヒデーな!在庫あると思ったらねーんだわ。お前なら持ってるだろうと思ってさ。一枚貰うぞ」
「おう」
柊のバッグに手を突っ込むヨータだったが、パッケージを見た瞬間、柊は立ち上がった。
「ちょちょ、ちょっとまてぇ!!!やっぱちょっと待て!」
「お?」
ボディシートのパッケージを掴むヨータの手から、柊はパッケージをひったくった。
取り出しかけたシートをしまわれてヨータは文句を言った。
「なんだよ!1枚くらいくれてもいいだろケチ!」
「こっちは駄目。俺専用なの」
「えぇー、いいじゃん、それシトラスで良い匂いするし」
「お前はこっち。めっちゃスース―するやつ」
ホラよ、と柊はもうひとつ、強力なメントールのシートをヨータに渡す。
ところがヨータはシトラスに目が向いてしまっていた。
「そっちがいい」
「うるせえ。駄目なもんは駄目。そっちで我慢しろ」
ぽいっとメントールのシートをヨータに投げると、ヨータは渋々一枚取り出した。
「えー、シュウのドケチ」
「文句あるならそっちも返せ」
柊が言うとヨータは「いいよ」と言って体を拭いた後のメントールのシートをくしゃくしゃにしてよこした。
「てめっ!」
「サンキュー、シュウ!じゃーな!」
言うだけ言うと、ヨータはさっさと美術室を出て行ってしまった。
「もー、マジなんなんアイツ。ごめんなりお、勝手に入らないように言っとくわ」
ったくもう、とぶつぶつ言いながらヨータの落としたシートを拾って、ゴミ箱へ入れた。
「ううん、大丈夫。本当に迷惑じゃないよ」
そういうりおは眼鏡越しにおかしそうに笑っていて、じゃあいいのかな?と柊は首をかしげた。
「ったくもー、あいつ油断も隙もねえ」
柊は油性マジックを探すと、キャップを口で外し、さらさらとパッケージに文字を書いた。
シトラスのパッケージには『柊専用、使うな』と書き込む。
「でさ、この地色だけど、黒Tはどうかな」
美術部員が言うと、柊は「いいじゃん」と頷く。
「実はこの前からヒイラギどのの黒Tがずっとカッコいいと思ってて」
「あ、わたしも思ってた」
「じつはワイも。欲しくて通販探したりした」
「まじかよ」
黒Tなんてどこにでもありそうなんだけど、と思う柊だったが、部員は首を横に振った。
「我々のような陰キャはBUやライトワンでもギリギリなのです」
「せめてユニシロ」
「色気ねえぞ」
「だからユニは、そう魔法なのです」
今日もサッカーのユニを着て来た美術部員らはうんうんと頷く。
「ユニを買って帰った日の、いつもワイを見下す陽キャ弟の輝く尊敬のまなざし。きもちよかった」
「常にすれ違う陽キャ男子が今日、あ、代表のユニって呟いてくれて尊し」
「一軍女子が『あれ見て、ユニじゃん、いいな』って言ってた。勝った」
「なんなんだよそれ」
そこまでか?と柊は驚くが、美術部員からしたらそこまでだったらしい。
「なんかユニなら、着ても良いってかんじする」
「だからおそろのユニ欲しかったんだよね」
「まさか詐欺とは思わず」
「でも詐欺にかからなくてよかったので、次は強者ヒイラギ殿の黒Tにあやかろうと」
「なんだよあやかるって」
笑う柊だが、黒Tは好きなのでもし部活で着れるなら嬉しいしありがたい。
(それに、部員全員でお揃いってことは)
当然りおとも同じものになる。
「なんかすげー、ワクワクするな。楽しみ!」
「ではヒイラギどのも、なんかデザインを考えてくだされ」
「よっしゃ!」
描くのは無理でも選ぶのならできそうで、柊は早速皆の作るデザインを選び始めた。
九月二十四日
連休が終わり、日常の生活に戻り、美術部員らはTシャツの発注や、文化祭前にできることで忙しく動いていた。
部室に入るとりおの手元には早速、柊があげたカラーカップがあって、思わず柊はにやけた。
りおは相変わらず油絵を描いていて、少しずつ絵は出来上がりつつあった。
「なあ、その絵が文化祭のやつ?」
柊が尋ねると「一応ね」とりおは答えた。
「でも間に合うかどうかわかんない。やっぱ急に絵の具の渇きが悪くなってきた」
「そんなんあるの?」
「うん、油絵の特徴だから仕方ないけど。だからみんな、他の絵を描いてるでしょ?」
確かに油絵を描いているのはりお一人で、あとは水彩とか、アニメにハマっている部員はイラストを描いたりアイパッドで絵を描いたりしている。
「でも、それなら別の絵を描くからいいんだけど」
「それでもいいのか?」
「うん。どうしてもこの絵を展示したい、って夏くらいまでは思ってたんだけど……」
りおが描いているのは、中央にひまわりが一輪ある絵だった。
「でも別にそこまでじゃないから。私もヒイラギ君みたいにデッサンにしようかな。デッサンなら何枚も描けるし」
「俺の分も描いて」
「駄目です。自分で頑張って」
「えぇえ、けちだなー」
「ケチじゃないです。美術部員なんだから、それらしいことちゃんとやろう?」
「うえーい」
言いながら柊もデッサンをするためにイーゼルに向かう。
なんだかんだ、絵に向かえば下手でもその気になって、集中して絵を描くことはできる。
柊の様子にりおも笑って、そして、乾かない絵の具を見つめ、小さくため息をつく。
それは、考えたこともない、どうしようかな、という悩みだった。
他の美術部員もそれぞれが作品作りに忙しく、美術室を出たり入ったりを繰り返す。
そんな中、油絵の乾くのを待つりおは、デッサンに集中する柊の背をふと見つめ、スケッチブックを取り出した。
愛用のペンケースから鉛筆のキャップを外し、真っ白なスケッチブックのページに鉛筆でラフ画を描き始めた。
暫く、二人の鉛筆が紙を撫でる音が響く。
まるでシンクロするみたいに、柊の線の音に、りおのデッサンの音が重なる。
二人は集中して、お互いが同じ方向を見ながら、そして柊はその視線に気づくことなく、一生懸命デッサンを続けた。
「おーい!シュウ!あ、やっぱいたいた!ギャッツくれギャッツ」
突然美術室に入ってきたのは、柊の親友のヨータだった。
相変わらずスパイラルパーマのくしゃくしゃの髪を揺らして、全身から賑やかだ。
「おん?なんだ近寄るなよくさそう」
「ヒデーな!在庫あると思ったらねーんだわ。お前なら持ってるだろうと思ってさ。一枚貰うぞ」
「おう」
柊のバッグに手を突っ込むヨータだったが、パッケージを見た瞬間、柊は立ち上がった。
「ちょちょ、ちょっとまてぇ!!!やっぱちょっと待て!」
「お?」
ボディシートのパッケージを掴むヨータの手から、柊はパッケージをひったくった。
取り出しかけたシートをしまわれてヨータは文句を言った。
「なんだよ!1枚くらいくれてもいいだろケチ!」
「こっちは駄目。俺専用なの」
「えぇー、いいじゃん、それシトラスで良い匂いするし」
「お前はこっち。めっちゃスース―するやつ」
ホラよ、と柊はもうひとつ、強力なメントールのシートをヨータに渡す。
ところがヨータはシトラスに目が向いてしまっていた。
「そっちがいい」
「うるせえ。駄目なもんは駄目。そっちで我慢しろ」
ぽいっとメントールのシートをヨータに投げると、ヨータは渋々一枚取り出した。
「えー、シュウのドケチ」
「文句あるならそっちも返せ」
柊が言うとヨータは「いいよ」と言って体を拭いた後のメントールのシートをくしゃくしゃにしてよこした。
「てめっ!」
「サンキュー、シュウ!じゃーな!」
言うだけ言うと、ヨータはさっさと美術室を出て行ってしまった。
「もー、マジなんなんアイツ。ごめんなりお、勝手に入らないように言っとくわ」
ったくもう、とぶつぶつ言いながらヨータの落としたシートを拾って、ゴミ箱へ入れた。
「ううん、大丈夫。本当に迷惑じゃないよ」
そういうりおは眼鏡越しにおかしそうに笑っていて、じゃあいいのかな?と柊は首をかしげた。
「ったくもー、あいつ油断も隙もねえ」
柊は油性マジックを探すと、キャップを口で外し、さらさらとパッケージに文字を書いた。
シトラスのパッケージには『柊専用、使うな』と書き込む。
