柊はすぐ近くに萌々が居たことなど気づきもしなかった。
目の前のりおがおいしそうにフラペチーノを飲んでいる姿をにこにこと眺めていた。
(バイトしたかいあったわ)
かなり早起きしたし滅茶苦茶こき使われたが、そのぶん払いは良かった。
誘ってくれたヨータとその兄貴には感謝だ。
しんどいバイトだったけれど、こんなりおの笑顔が見られるなら全然報われた。
ストローでフラペチーノをすすり、りおが尋ねた。
「ね、ここってヒイラギ君は良く来るの?」
「割とな。デポあるからヨータと買い物はここが多いよ」
「やっぱスポーツショップ行くんだ」
「スパイクとか見たいし。あと服とか興味あるし」
「オシャレだもんね、ヒイラギ君もヨータ君も」
「そ、そっかな?」
不意打ちのりおの褒め言葉に、柊は照れて耳が赤くなる。
「うん。二人とも背が高いし、かっこいいよ。なんかさっきも向こうの女の子が見てたし」
「マジかあ。やべーな、モテ期到来かも」
「それは言い過ぎ」
「ええ、そこは褒めて伸ばせよ」
「考えとく」
二人が笑っていると、美術部員の面々がやってきた。
「ねね、そろそろユニフォーム見にいきたいんだけど」
「そーだな。ぼちぼち移動すっか」
飲み終わったカップを重ね、柊はゴミ箱に捨てた。
「ごめん、ちょっとスマホで撮りたいものがあるの」
りおが言うと、他の部員も同じく頷く。
「黒板でしょ?あれ上手だったよね。わたしも撮りたい!」
ひとりではちょっと人が多い中、勇気が出なかったらしい部員らが次々とスマホを取り出す。
(そういや、さっきりおも見てたな)
ふとりおを見ると、りおは黒板を撮った後に店頭に飾ってある流行りのミステリーカップを撮っていた。
部員全員はスタバで休んですっかり元気になっていた。
さっきまで枯れ木のようだったのに、いつもの部活中くらいにはなっている。
「さあ、これからヒイラギ師匠の出番ですぞ!ユニよろしく!」
「絶対に偽物をつかむわけにはいかない!」
「いやデポに偽物はねえよ」
笑って突っ込みながらも、元気な部員らに柊はほっとする。
りおの顔色もすっかり元通りで、熱中症の心配はなさそうだ。
スポーツショップへ入ると部員らはお目当てのサッカーユニフォームへ向かって行った。
「ヒイラギどの、これらは全部安心なやつ?」
「心配すんな、全部本物だよ」
おおお、と感激しながらユニフォームを選び出す。
「ヒイラギ君は?見なくていいの?」
「俺は欲しいのはもう買ってるし。代表よりやっぱ海外のチームのが興味ある」
そういってユニの説明をすると、りおは興味深く頷いて聞いた。
「じゃあ、いろんなチームに伝統があるんだ」
「歴史とかもな。俺は歴史嫌いだけど、なぜかサッカーになると覚える」
「あはは」
部員たちは次々に柊を呼び止め、これはどうだ、ああだと質問を繰り返す。
「これはサイズよく見ないと、ホラ、日本のと海外で違うからさ」
「こっちは?これはどう?かっこよくないっすかヒイラギ師匠!」
「お前、いいセンスしてるじゃん。それスペイン代表のユニ。スペインくそつえーよ」
「うわー、悩むなあ、どれにしようか」
楽し気な部員らの様子に、柊はにこにこしてその様子を眺め、そしてその柊をりおは尊敬のまなざしで見つめていた。
部員たちの目的だったユニフォームも無事購入したので柊は尋ねた。
「じゃあもうちょっと他の店でも見てみるか」
皆も了承したのでショッピングモールの中を散策していたその時だった。
りおの足が止まり、はっとして正面を見据えた。
「りお?どした?」
柊が声をかけると、りおは向かいから来た、制服姿の男子高校生をじっと見つめていた。
りおは小さく震えて、無意識にか柊のシャツを掴む。
男子高校生は柊が萌々に連れていかれた進学校の制服姿で、鋭い冷静そうな視線でこちらを見ている。
「りお?お前、なんでここに?今日は部活だって言ってたよな?なに男と遊んでんだ」
こいつが、りおの片思いの相手の茜だと、柊は直感した。
まっすぐ近づく男に、りおは一瞬怯えたように見え、柊はりおの前にさっと立った。
りおの小柄な体は柊に遮られ、茜は不機嫌を隠さずに柊をキッと睨む。
だが、茜より頭ひとつ抜けて体格も良い柊は全く気にせずふんぞり返った。
茜は柊の後ろに隠れるりおに近づこうとするが、柊はその動きをブロックした。
「俺らいま『部活中』なんで、邪魔しないで貰えます?」
「部活?ショッピングモールでか。ずいぶんゆるいんだな」
茜の意地悪く厭味ったらしい言い方に、他の部員がむっとするが柊は気にせずに言い返した。
「俺ら文化祭の準備でいろいろあるんすわ。そっちはもう文化祭終わってんだろ?お前のスケジュールで世界は回ってねーからな」
煽り、煽られる文化はサッカーではよくあることで、ヨータとも普段はもっとエグイ煽り合いをしているので、この程度なんてことはない。
言い返されたのがよっぽど悔しかったのか、茜はきついまなざしを柊に向けるが、さっきの試合ですっかり昔の調子を取り戻した柊にとって、目の前のスポーツ選手ですらない茜は、ほぼ雑魚かモブにしか見えなかった。
隙を見てさらにりおに近づこうとした茜に、柊は手でりおを隠し遮りながら唸るような声で言った。
「部活中って言ってんだろ。いい加減にしろよ」
きつく睨む柊に、茜は一瞬怯み、ひとこと、「わかったよ」とだけ告げ、背を向け人ごみへ消えて行った。
「なにさっきのあの無礼者は!なんだあれ!進学校だけど!性格わる!」
「いやみったらし~!偏差値高いとなにやってもええんかい!」
「ゆるい部活で悪かったな!」
ぷんすこと怒り狂う美術部員らに、柊は「まーまーまー」となだめすかした。
「許してやれよ。あれ実は知り合いなんだよ。テストの点が悪くて不機嫌すぎるだけだから」
いくら嫌な奴でも、りおの片思い相手だ。
悪口を聞き続けるのも嫌だろうとフォローすると、美術部員は「はあ?」と首を傾げた。
「だったら八つ当たりか」
「やば。かっこわる」
「偏差値を下げる呪いをかけてやろう」
口々にそう言い始める部員らに、柊はりおの背を軽く叩いた。
『ごめんな、お前の幼馴染煽って。ちょっとムカついたから』
こそこそと言うと、りおはちょっと驚いて、首を横に振った。
『ううん。あたしも実は、ちょっとムカついた』
『そっか』
『うん!』
りおがやっと笑顔を見せてきて、良かった、と柊はほっとした。
目の前のりおがおいしそうにフラペチーノを飲んでいる姿をにこにこと眺めていた。
(バイトしたかいあったわ)
かなり早起きしたし滅茶苦茶こき使われたが、そのぶん払いは良かった。
誘ってくれたヨータとその兄貴には感謝だ。
しんどいバイトだったけれど、こんなりおの笑顔が見られるなら全然報われた。
ストローでフラペチーノをすすり、りおが尋ねた。
「ね、ここってヒイラギ君は良く来るの?」
「割とな。デポあるからヨータと買い物はここが多いよ」
「やっぱスポーツショップ行くんだ」
「スパイクとか見たいし。あと服とか興味あるし」
「オシャレだもんね、ヒイラギ君もヨータ君も」
「そ、そっかな?」
不意打ちのりおの褒め言葉に、柊は照れて耳が赤くなる。
「うん。二人とも背が高いし、かっこいいよ。なんかさっきも向こうの女の子が見てたし」
「マジかあ。やべーな、モテ期到来かも」
「それは言い過ぎ」
「ええ、そこは褒めて伸ばせよ」
「考えとく」
二人が笑っていると、美術部員の面々がやってきた。
「ねね、そろそろユニフォーム見にいきたいんだけど」
「そーだな。ぼちぼち移動すっか」
飲み終わったカップを重ね、柊はゴミ箱に捨てた。
「ごめん、ちょっとスマホで撮りたいものがあるの」
りおが言うと、他の部員も同じく頷く。
「黒板でしょ?あれ上手だったよね。わたしも撮りたい!」
ひとりではちょっと人が多い中、勇気が出なかったらしい部員らが次々とスマホを取り出す。
(そういや、さっきりおも見てたな)
ふとりおを見ると、りおは黒板を撮った後に店頭に飾ってある流行りのミステリーカップを撮っていた。
部員全員はスタバで休んですっかり元気になっていた。
さっきまで枯れ木のようだったのに、いつもの部活中くらいにはなっている。
「さあ、これからヒイラギ師匠の出番ですぞ!ユニよろしく!」
「絶対に偽物をつかむわけにはいかない!」
「いやデポに偽物はねえよ」
笑って突っ込みながらも、元気な部員らに柊はほっとする。
りおの顔色もすっかり元通りで、熱中症の心配はなさそうだ。
スポーツショップへ入ると部員らはお目当てのサッカーユニフォームへ向かって行った。
「ヒイラギどの、これらは全部安心なやつ?」
「心配すんな、全部本物だよ」
おおお、と感激しながらユニフォームを選び出す。
「ヒイラギ君は?見なくていいの?」
「俺は欲しいのはもう買ってるし。代表よりやっぱ海外のチームのが興味ある」
そういってユニの説明をすると、りおは興味深く頷いて聞いた。
「じゃあ、いろんなチームに伝統があるんだ」
「歴史とかもな。俺は歴史嫌いだけど、なぜかサッカーになると覚える」
「あはは」
部員たちは次々に柊を呼び止め、これはどうだ、ああだと質問を繰り返す。
「これはサイズよく見ないと、ホラ、日本のと海外で違うからさ」
「こっちは?これはどう?かっこよくないっすかヒイラギ師匠!」
「お前、いいセンスしてるじゃん。それスペイン代表のユニ。スペインくそつえーよ」
「うわー、悩むなあ、どれにしようか」
楽し気な部員らの様子に、柊はにこにこしてその様子を眺め、そしてその柊をりおは尊敬のまなざしで見つめていた。
部員たちの目的だったユニフォームも無事購入したので柊は尋ねた。
「じゃあもうちょっと他の店でも見てみるか」
皆も了承したのでショッピングモールの中を散策していたその時だった。
りおの足が止まり、はっとして正面を見据えた。
「りお?どした?」
柊が声をかけると、りおは向かいから来た、制服姿の男子高校生をじっと見つめていた。
りおは小さく震えて、無意識にか柊のシャツを掴む。
男子高校生は柊が萌々に連れていかれた進学校の制服姿で、鋭い冷静そうな視線でこちらを見ている。
「りお?お前、なんでここに?今日は部活だって言ってたよな?なに男と遊んでんだ」
こいつが、りおの片思いの相手の茜だと、柊は直感した。
まっすぐ近づく男に、りおは一瞬怯えたように見え、柊はりおの前にさっと立った。
りおの小柄な体は柊に遮られ、茜は不機嫌を隠さずに柊をキッと睨む。
だが、茜より頭ひとつ抜けて体格も良い柊は全く気にせずふんぞり返った。
茜は柊の後ろに隠れるりおに近づこうとするが、柊はその動きをブロックした。
「俺らいま『部活中』なんで、邪魔しないで貰えます?」
「部活?ショッピングモールでか。ずいぶんゆるいんだな」
茜の意地悪く厭味ったらしい言い方に、他の部員がむっとするが柊は気にせずに言い返した。
「俺ら文化祭の準備でいろいろあるんすわ。そっちはもう文化祭終わってんだろ?お前のスケジュールで世界は回ってねーからな」
煽り、煽られる文化はサッカーではよくあることで、ヨータとも普段はもっとエグイ煽り合いをしているので、この程度なんてことはない。
言い返されたのがよっぽど悔しかったのか、茜はきついまなざしを柊に向けるが、さっきの試合ですっかり昔の調子を取り戻した柊にとって、目の前のスポーツ選手ですらない茜は、ほぼ雑魚かモブにしか見えなかった。
隙を見てさらにりおに近づこうとした茜に、柊は手でりおを隠し遮りながら唸るような声で言った。
「部活中って言ってんだろ。いい加減にしろよ」
きつく睨む柊に、茜は一瞬怯み、ひとこと、「わかったよ」とだけ告げ、背を向け人ごみへ消えて行った。
「なにさっきのあの無礼者は!なんだあれ!進学校だけど!性格わる!」
「いやみったらし~!偏差値高いとなにやってもええんかい!」
「ゆるい部活で悪かったな!」
ぷんすこと怒り狂う美術部員らに、柊は「まーまーまー」となだめすかした。
「許してやれよ。あれ実は知り合いなんだよ。テストの点が悪くて不機嫌すぎるだけだから」
いくら嫌な奴でも、りおの片思い相手だ。
悪口を聞き続けるのも嫌だろうとフォローすると、美術部員は「はあ?」と首を傾げた。
「だったら八つ当たりか」
「やば。かっこわる」
「偏差値を下げる呪いをかけてやろう」
口々にそう言い始める部員らに、柊はりおの背を軽く叩いた。
『ごめんな、お前の幼馴染煽って。ちょっとムカついたから』
こそこそと言うと、りおはちょっと驚いて、首を横に振った。
『ううん。あたしも実は、ちょっとムカついた』
『そっか』
『うん!』
りおがやっと笑顔を見せてきて、良かった、と柊はほっとした。
