彼に恋する君に恋した、フェルメールブルーの絵の君へ

 りおが足をぶらつかせながら待っている席へ柊(シュウ)はトレイをかかえてやってきた。
 トレイの上にはトールサイズの巨峰のフラペチーノとソーダが乗っている。

 「ふたつも頼んだの?」

 驚くりおに柊(シュウ)は「そっ」と頷いてりおに尋ねた。

 「どっち?」
 「え?」
 「どっちがいい?」
 「どっちって……」

 戸惑いを見せるりおに、柊(シュウ)はトレイをりおのほうへ寄せた。

 「フラペとソーダ。どっちもフルーツティー入ってるって。お前お茶とか紅茶好きだろ?」

 じっと柊(シュウ)を見つめるりおに、柊(シュウ)ははっと気づく。

 「ひょっとしてフルーツ苦手だった?」
 「えっ、ううん、全然、大好き!」

 慌ててそう答えるりおに、柊(シュウ)はほっとして「なんだ、良かった」と笑った。

 「好きな方選べよ。俺のオゴリ」
 「そういうわけにはいかないよ、あたし、」
 「いーって。今日の試合で実はちょっとバイト代もらってんの。俺先に行ってたろ?」

 実はコートを出す準備を手伝ったら小遣いをくれるとヨータの兄が言ってくれたので、ヨータと柊(シュウ)は二人して朝早くから試合の準備を手伝ったのだ。

 「だからいいんだって。試合応援してくれたし。……ま、勝てなかったけど」
 「関係ないよ。ヒイラギ君、メチャクチャカッコよかったよ」
 「そ、そう?」
 「うん。コートに入ったらいつもと全然顔違うんだね。すごい強そうだった」
 「えっ、マジ?そんなに?」
 「いつもはお菓子ばっか食べてるのにね」
 「いやー、お菓子は食うでしょ」

 照れて顔を逸らす柊(シュウ)は、慌ててりおに言った。

 「それより早く選べって。フラペ、シェイクになんぞ」
 「あたしはどっちでもいいよ。ヒイラギ君好きな方選んでよ」
 「お前の為に買ったんだからお前が選べよ」
 「えっ」
 「ん?」

 一瞬お互いに止まってしまって、柊(シュウ)は「もう!」と言いながらりおにフラペチーノをずいっと差し出した。

 「飲め!」

 思わずフラペを吸い込んだりおは、ぱあっと顔を輝かせた。

 「おいしい!」
 「そっか。良かったな」

 じゃあ、とティーソーダを選ぶ柊(シュウ)に、りおは添えてあったスプーンストローでフラペチーノをすくった。

 「ヒイラギ君も、はい。すごくおいしかったよ!」

 無邪気に差し出すりおに、柊(シュウ)はおもいきってスプーンにくいつく。

 「あっ、ほんとまじうめえ」
 「でしょ?最高においしいよね」
 「お前、じゃあこっちも飲め。ぜってーうまいわこんなん」
 「うん!」

 そういってストローをソーダに指し、りおはソーダを飲む。

 「本当、こっちもおいしい!」

 にこにこと笑顔を見せるりおに、柊(シュウ)はバイトして良かった、と笑顔を見せた。


 ショッピングモールで目当ての服を手に入れ、早く家に帰ってあわせてみたいな、と萌々(もも)が考えていると隣にいた友達が足を止め他の友人を呼んだ。

 「ね、スタバにかっこいい子いる!」
 「えっ、どこ?」
 「ほら、ソファー席で、こっち向いてる」
 「黒ティーの子?ほんとだ、かっこいい!」

 だらだらと買い物をして歩いていた萌々(もも)は友人がそう言うので呆れて言った。

 「暑いからもう帰るって決めたじゃん」

 友人らは萌々(もも)の文句にまあまあ、と笑う。

 「見るだけ見なよ萌々(もも)。ほら、マジでかっこいいから」
 「もー、そんなのどうでもいいって……」

 今日だって何回もナンパされてそういった話にはうんざりだ。
 早く帰って、元カレの柊(シュウ)の文化祭に間に合うように服を考えたいのに。

 「あーでもあのひと彼女連れじゃん」
 「え待って、彼女ってなんか芋くない?」
 「いやでも見てよあの笑顔。絶対に彼女向けだよ。いいなー」

 ふーんと聞き流したその時、萌々(もも)の目に飛び込んできたのは、元カレの柊(シュウ)だった。

 (シュウじゃん……!)

 思わず足が向かいかけて思わず立ち止まる。
 屈託なく笑うその顔は、まるで親友のヨータといるときみたいにリラックスしている。
 おまけに、向かい合った女の子が被っているキャップは。

 (あれ、シュウのお気に入りのやつじゃん!)

 萌々(もも)がふざけてかぶろうとしたら、本気で怒って触るな、とガチギレされたキャップなので間違いない。

 (なんであんな女がかぶってんの?)

 明らかにオーバーサイズのキャップは女の子の頭からずりおちそうで、実際、おしゃべりに夢中な女の子の頭からキャップは落ちてしまった。
 慌てた女の子が立ち上がったので顔が見えたので萌々(もも)はじっと柊(シュウ)といる女の子を睨んだ。

 (なにあれ!モブじゃん!)

 決して、ものすごく可愛いわけではない。
 普通の、どこにでもいる高校生の女子だ。
 すっぴんだし、髪も艶々してないし、絶対ちゃんと手入れしてない。
 黒縁メガネに、もっさりとしたシャツにオーバーサイズのTシャツにストレートのデニムパンツなんて、可愛くもなんともない。

 (私の方が、全然、絶対、何百倍だってかわいいのに!)

 今日だって何回もナンパされた。
 可愛い、こんな可愛い子みたことない、なんでも奢るよ、と何回も何回も言われた。
 むかむかする気持ちをおさえきれない萌々(もも)をよそに、友人たちはキャーっと盛り上がっている。

 「いまの!いまの見た?彼氏、彼女を座らせた!自分がわざわざ立って……落ちたキャップ拾って、また被らせた!」
 「いいなあ優しすぎる。エモーい。すっごい優しそう。めちゃ笑顔じゃん」
 「ああーうらやましいあんなの。少女漫画みたい、尊い」
 「あれって間違いなく彼のキャップだよね?彼女にはおっきすぎるもん」
 「ってことは男の独占欲じゃん!ヤバ、まじやばすぎ」

 二人の様子に萌々(もも)の友人らは盛り上がっていたけれど、萌々(もも)だけ、まるで真冬になったように体がつめたくなっていく。
 睨む萌々(もも)なんかに気が付いてすらいない、きっとここに萌々(もも)がいるなんて一ミリだって気づいていない柊(シュウ)は目の前の地味な子だけを見つめている。

 (絶対に許せない)

 何の努力もしてないくせに、なんで柊(シュウ)があんなに笑ってくれるの。
 彼女の時だって、そうじゃない今だって、ずっとずっと努力してきたのに。

 萌々(もも)のこれまでの努力が全部否定された気がして、綺麗にネイルされた爪が食い込むほど、強く手を握りしめた。