そして―――――試合開始のホイッスルが吹かれた。
柊の目に、失われていた闘志が一瞬で甦る。
狭いフィールドの中でも、柊は一瞬で、サッカーをやっていた頃の自分に戻った。
考える前に身体が動く。
どこに、誰に、なにをすればいいのかが見える。
フィールドの狭さが余計に判断を早くする必要があって、瞬間の判断が柊を動かす。
普段のほほんとお菓子を食べてはだらけている柊しか知らない美術部員らは、驚いて目を見張った。
「すごい、ヒイラギどの、まるでブルロの世界じゃん」
「かっこいいー、一軍突き抜けてる」
「マジでプロ位に見える」
感心する美術部員の声に、りおも試合にじっと見入った。
試合相手の大人の選手にも全く怯まずに向かって行く姿や、ボールを失ってもすぐに立ち上がって戻る姿。
ぶつかって派手に転んでしまった時は、怪我をしたのかと皆が心配するが、すぐさま立ち上がり、再びボールを奪いに行く。
「こっち回せ!」
ピッチに響き渡る、怒鳴る柊の声は、まるで怒っているようにも聞こえる。
でもそれは、どこまでも真剣な柊の叫びだと気づき、りおは体をふるわせた。
ぎゅっと両手を握りしめ、小さく何度も「頑張れ、がんばれ……!」と願うように繰り返した。
ミニゲームは結局、ヨータと柊のチームのドロー、つまりは引き分けに終わった。
勝てなかった事にがっかりして柊はベンチに戻ってくると、「あー!悔しい!」と言いながら腰を下ろしスパイクを脱ぎ始めた。
「マジで俺も悔しい。なんで美術部員のシュウに勝てないんよ」
「はぁー、うっせえ。俺もマジで悔しい。ヨータに勝ちたかった」
ビブスを脱ぎ捨ててスニーカーに履き替えた柊の前に、美術部員らが立っていた。
「ヒイラギどの!すさまじくかっこよかった!」
「まじブルロ!ブルロの世界!神!」
「なんでサッカー部に入ってないの?才能の無駄遣いすぎんだろ!」
なぜか盛り上がりまくっている美術部員に、柊は逆に圧倒されて「お、おう」と頷いた。
口々に盛り上がりまくる美術部員をよそに、りおはベンチに座ったまま一人だった。
汗をデオドラントシートで拭い、Tシャツに着替えた柊はりおの場所へ移動した。
座ったままのりおの表情はキャップのつばで隠されて見えないが、髪をかけた耳の隙間から赤くなっているのが見えた。
「おいりお、キャップ返……」
何気なくキャップをりおから取り上げたが、りおは驚くほど顔を赤くして目をうるませて柊を見上げていて、その眼鏡越しの表情に柊は黙ってキャップをもう一度りおに深くかぶせた。
「……やっぱもうちょい預かっといて」
「……ウン」
小さくりおは呟き、柊はなぜか困ってしまい、頭をかいて誤魔化す。
「えーと、じゃあ片付けしてくるわ!」
その様子を見ていたヨータは、さすがにこれはいじれねえな、と苦笑した。
コートを次の人へ渡す時間になると、ヨータが言った。
「お前らもう帰っていいってよ」
「片付け手伝うよ。一人でも多い方がいいだろ」
柊が言うとヨータが「いいって」と手を振る。
「お前一人ならそーするけどな。せっかく部活のヤツいんだろ。遊んで来い」
「まじで?わりーなヨータ。次は負けてやるよ」
「うっせえ次は俺が勝つわ」
二人は顔を見合わせてニヤッと笑うとこつんとグータッチした。
美術部員らと一緒に柊は運動公園から路線バスでショッピングモールへ移動することにした。
柊らと同じルートで移動する人は多く、運動後にモールへ向かう家族連れでにぎわっていて、バスの中では座ることが出来なかった。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた満員の車内、柊はりおを守るように思わず自分のほうへ寄せた。
「大丈夫か?」
「うん、ヘーキ」
りおの背後にある背もたれの手すりを掴んでりおを抱きかかえるような形になった。
柊の腕の中、見上げるりおの顔はやっぱり赤く、ひょっとして熱中症か?と心配になる。
まだ夏の名残の暑さが残っている上に、普段運動をしていないりおにはダメージが大きかったのかも。
思わず柊は指の背でりおの頬に触れた。
頬はひやりとしていて、熱があるようには感じず、柊はほっとした。
「そこまで熱があるっぽくはねーな。気持ち悪いとかあるか?」
「えっ、ううん、大丈夫」
首をふるふると振るりおだが、やはりちょっと心配だ。
「到着まで五分ちょいだからな」
そういうとりおの細い肩をそっと押した。
「いいからもたれとけ。平気だから」
自分の腕に体重をかけるように柊がいうと、りおは頷き、それでも遠慮がちに柊の腕に背を預けた。
柊のキャップを被ったままのりおは俯いて、表情は見えなかったけれど、具合が悪い様子じゃないことに柊はほっとして、バスがショッピングモールへ到着するのを待った。
バスがモールに到着して、ぞろぞろと人が降り、やっと柊も息をつく。
「はあー、なにこの人の多さ」
バスを降りても人の流れはモールへ向かう波のように多い。
りおの顔色は悪くなく、ちょっとほっとしたがやはり疲れている様子が見える。
(やっぱちょっと休んだ方がいいよな)
「おい!ちょっとどっかで休もうと思うんだけ……ど、」
柊が言うまでもなく、美術部の面々はすでにぐったりとしていたので、苦笑して言った。
「スタバ行こうぜスタバ。絶対休めるから」
「さんせーい……」
いつも部室では元気すぎるほど元気な面々がぐったりしたまま挙手していて、そんなに日差しに弱いんだなこいつら、と柊はちょっと面白かった。
スタバはやっぱり人が多く、席もまばらに開いていたので適当にばらけて座る事にした。
その時、りおがスタバの黒板をじっとみつめていた。
(それが飲みたいのかな?)
チョークアートでお洒落なデザインが描いてある黒板には、新作の巨峰フラペチーノが描いてある。
フラペチーノとソーダがあって、どちらかを悩んでいる風に見えた。
「りお、わりーけど席とっといてくんね?俺注文に時間かかるから」
「え?うん、わかった」
素直に従うりおは、スタバの中の空いている場所を探し、ソファーの並びを見つけて腰を下ろした。
その様子にほっとして柊はカウンターで尋ねた。
「すみません、このフラペとソーダのサイズなんすけど」
柊の問いにカウンターの店員が頷き、笑顔で柊の質問に答えた。
柊の目に、失われていた闘志が一瞬で甦る。
狭いフィールドの中でも、柊は一瞬で、サッカーをやっていた頃の自分に戻った。
考える前に身体が動く。
どこに、誰に、なにをすればいいのかが見える。
フィールドの狭さが余計に判断を早くする必要があって、瞬間の判断が柊を動かす。
普段のほほんとお菓子を食べてはだらけている柊しか知らない美術部員らは、驚いて目を見張った。
「すごい、ヒイラギどの、まるでブルロの世界じゃん」
「かっこいいー、一軍突き抜けてる」
「マジでプロ位に見える」
感心する美術部員の声に、りおも試合にじっと見入った。
試合相手の大人の選手にも全く怯まずに向かって行く姿や、ボールを失ってもすぐに立ち上がって戻る姿。
ぶつかって派手に転んでしまった時は、怪我をしたのかと皆が心配するが、すぐさま立ち上がり、再びボールを奪いに行く。
「こっち回せ!」
ピッチに響き渡る、怒鳴る柊の声は、まるで怒っているようにも聞こえる。
でもそれは、どこまでも真剣な柊の叫びだと気づき、りおは体をふるわせた。
ぎゅっと両手を握りしめ、小さく何度も「頑張れ、がんばれ……!」と願うように繰り返した。
ミニゲームは結局、ヨータと柊のチームのドロー、つまりは引き分けに終わった。
勝てなかった事にがっかりして柊はベンチに戻ってくると、「あー!悔しい!」と言いながら腰を下ろしスパイクを脱ぎ始めた。
「マジで俺も悔しい。なんで美術部員のシュウに勝てないんよ」
「はぁー、うっせえ。俺もマジで悔しい。ヨータに勝ちたかった」
ビブスを脱ぎ捨ててスニーカーに履き替えた柊の前に、美術部員らが立っていた。
「ヒイラギどの!すさまじくかっこよかった!」
「まじブルロ!ブルロの世界!神!」
「なんでサッカー部に入ってないの?才能の無駄遣いすぎんだろ!」
なぜか盛り上がりまくっている美術部員に、柊は逆に圧倒されて「お、おう」と頷いた。
口々に盛り上がりまくる美術部員をよそに、りおはベンチに座ったまま一人だった。
汗をデオドラントシートで拭い、Tシャツに着替えた柊はりおの場所へ移動した。
座ったままのりおの表情はキャップのつばで隠されて見えないが、髪をかけた耳の隙間から赤くなっているのが見えた。
「おいりお、キャップ返……」
何気なくキャップをりおから取り上げたが、りおは驚くほど顔を赤くして目をうるませて柊を見上げていて、その眼鏡越しの表情に柊は黙ってキャップをもう一度りおに深くかぶせた。
「……やっぱもうちょい預かっといて」
「……ウン」
小さくりおは呟き、柊はなぜか困ってしまい、頭をかいて誤魔化す。
「えーと、じゃあ片付けしてくるわ!」
その様子を見ていたヨータは、さすがにこれはいじれねえな、と苦笑した。
コートを次の人へ渡す時間になると、ヨータが言った。
「お前らもう帰っていいってよ」
「片付け手伝うよ。一人でも多い方がいいだろ」
柊が言うとヨータが「いいって」と手を振る。
「お前一人ならそーするけどな。せっかく部活のヤツいんだろ。遊んで来い」
「まじで?わりーなヨータ。次は負けてやるよ」
「うっせえ次は俺が勝つわ」
二人は顔を見合わせてニヤッと笑うとこつんとグータッチした。
美術部員らと一緒に柊は運動公園から路線バスでショッピングモールへ移動することにした。
柊らと同じルートで移動する人は多く、運動後にモールへ向かう家族連れでにぎわっていて、バスの中では座ることが出来なかった。
ぎゅうぎゅうに詰め込まれた満員の車内、柊はりおを守るように思わず自分のほうへ寄せた。
「大丈夫か?」
「うん、ヘーキ」
りおの背後にある背もたれの手すりを掴んでりおを抱きかかえるような形になった。
柊の腕の中、見上げるりおの顔はやっぱり赤く、ひょっとして熱中症か?と心配になる。
まだ夏の名残の暑さが残っている上に、普段運動をしていないりおにはダメージが大きかったのかも。
思わず柊は指の背でりおの頬に触れた。
頬はひやりとしていて、熱があるようには感じず、柊はほっとした。
「そこまで熱があるっぽくはねーな。気持ち悪いとかあるか?」
「えっ、ううん、大丈夫」
首をふるふると振るりおだが、やはりちょっと心配だ。
「到着まで五分ちょいだからな」
そういうとりおの細い肩をそっと押した。
「いいからもたれとけ。平気だから」
自分の腕に体重をかけるように柊がいうと、りおは頷き、それでも遠慮がちに柊の腕に背を預けた。
柊のキャップを被ったままのりおは俯いて、表情は見えなかったけれど、具合が悪い様子じゃないことに柊はほっとして、バスがショッピングモールへ到着するのを待った。
バスがモールに到着して、ぞろぞろと人が降り、やっと柊も息をつく。
「はあー、なにこの人の多さ」
バスを降りても人の流れはモールへ向かう波のように多い。
りおの顔色は悪くなく、ちょっとほっとしたがやはり疲れている様子が見える。
(やっぱちょっと休んだ方がいいよな)
「おい!ちょっとどっかで休もうと思うんだけ……ど、」
柊が言うまでもなく、美術部の面々はすでにぐったりとしていたので、苦笑して言った。
「スタバ行こうぜスタバ。絶対休めるから」
「さんせーい……」
いつも部室では元気すぎるほど元気な面々がぐったりしたまま挙手していて、そんなに日差しに弱いんだなこいつら、と柊はちょっと面白かった。
スタバはやっぱり人が多く、席もまばらに開いていたので適当にばらけて座る事にした。
その時、りおがスタバの黒板をじっとみつめていた。
(それが飲みたいのかな?)
チョークアートでお洒落なデザインが描いてある黒板には、新作の巨峰フラペチーノが描いてある。
フラペチーノとソーダがあって、どちらかを悩んでいる風に見えた。
「りお、わりーけど席とっといてくんね?俺注文に時間かかるから」
「え?うん、わかった」
素直に従うりおは、スタバの中の空いている場所を探し、ソファーの並びを見つけて腰を下ろした。
その様子にほっとして柊はカウンターで尋ねた。
「すみません、このフラペとソーダのサイズなんすけど」
柊の問いにカウンターの店員が頷き、笑顔で柊の質問に答えた。
