イケメンを観察していたら好きになってしまいました

 お兄が妹離れできないのは私のせいでもある。
 お兄ちゃん子で、いつもお兄の背中を追いかけていた。幼き日の私の小さく狭い世界には私とお兄しかいなかった。
 私は次第に兄離れができたけど、お兄はいつまでも私を幼い子供だと思っているに違いない。

 中学生の時だった。
 私はとにかく面食いで、カッコいい人が好きだった。
 お兄のクラスのカッコいい彼に一瞬で恋をして、猛アタックの末玉砕。
 いや、フラれてよかった。彼は自分の整った容姿を武器に、何人かの女性と付き合っていた事を後から知った。
 私はその時は知らなかったから、この世の終わりかのように泣いた。
 彼はそんなロクでもない男だったから、私に思わせぶりな態度をよく取っていた。だからこそ、失恋の傷は深くナイフのように何度も私の胸を突き刺した。
 私はご飯も食べれなくなったし、数日学校にも行けなかった。
 お兄はその頃の私を未だに思い出すのだろう。
 お兄、私も高校生だよ。ちゃんと心も成長してる。
 
 だから今、とても困っている。
「美咲、あいつはめちゃくちゃいいやつだ。嫌なところが一切ない。きっと浮気もしない。大事にしてくれる奴だ」
「は?」
 お兄がおかしい。
 先日、杉浦先輩が遊びに来た。
 先輩はとにかくモテる。学校イチではないだろうか。
 入学して早々に、その整った顔立ちに目を奪われた。
 こんな綺麗でかっこいい人いるんだなぁと。
 中学生の時に好きになったあの彼は、おそらく変なフィルターがかかっていたと思う。
「あいつなら美咲を安心して預けられる」
 お兄、どうした?
 
 実は私は杉浦先輩の好きな人を知っている。
 お兄だ。
 先日連絡先を交換し、先輩とメッセージのやり取りをしているうちに知った。
 大好きなお兄と大好きな推し。なんて素敵なカップリングだろう。私は1人で興奮した。
 
『ふられちゃったんだけどねー』

 先輩からのメッセージ、そしてお兄のこの言動。
 やばい、お兄は何か勘違いをしている。

「お兄。なに言ってんの?私別に先輩のこと恋愛として見てないよ」
「へっ?」
 やっぱり。
 完全に勘違いしていたのか、この兄は。

「杉浦先輩は推しだよ。推し!わかる?本気で付き合いたいとかそーゆーんじゃないの。遠くから見てるだけで満足なの。なぜなら推しだから。てか、何で私が先輩を好きとかそーゆー話になってるの?私一度も言ってないよね⁉︎」
「ちょっと待て、たんま」
 お兄が急に焦り出した。スマホで『推し』を検索し出した。
 しばらく脳内のアップデートをしている様子でなにやらブツブツ唱えている。我が兄ながら怖い。

「つまり、美咲は杉浦の事をその…異性として好きではないと」
「そうよ。先輩かっこいいし、目の保養っていうか。眺めてるだけで幸せ〜。な感じだけど」
 さらに追い討ちをかける。
「それに美咲、彼氏いるからね。今すっごい幸せなんだよ」
 お兄が完全にフリーズした。
 私はちゃんと成長してる。
 恋愛の失敗は、繰り返さない。
 だからお兄は自分の恋愛、していいんだよ。
 美咲にはちゃんと大事にしてくれる人がいるんだから。